そのいち!
青春。それは決して綺麗な青色ではなく、かと言って清々しい春の気温にも筆頭しない。まあ、それはあくまでも青春というような青春をしていない身からすると、だが。
小学校から、自分はこれこれをして充実した毎日を送りました、と言う作文もろくにかけない自分は可笑しいのだろうか、と時々不安になる。中学校からなんとなく過ごしてきた毎日はとても重要で、重いものだったと今更知る。
そんなことを思いながら教室の中心でため息をついた女子生徒、江川美子。可愛らしい名前とは裏腹に、乱暴にざっくり切られた肩までの髪に、着崩した制服。そして腕についた「風紀委員」の印。
持ち前のガサツさと力の強さ、口の悪さで青色どころがむしろ黒に近い中学時代を過ごしてきた彼女だったが、少しでも人としゃべれるように(たくさん経験すれば口の悪さぐらいは治ると思った)高校に入って風紀委員に入ってみた。もともと正義感は強かったので、意外と居心地は良かったのだが。
「おいお前。廊下走ってんじゃねぇよ」
「は、はひっ!」
こうして注意をするたびに怯えられる毎日だ。
そこで進級したと同時に、制服を皆のように着崩してみたのだが、結果は変わらず。むしろますます怖がられたというオチまでついた。
「はあ、友達欲しいなぁ……」
勿論友達がいらないなんて一匹狼のようなことは考えていない。むしろこのままだったら思い出がないまま幼少時代を消費してしまうのではないかと危機感まで感じている。でも持ち合わせているのは危機感のみ。主な解決策は今やゼロに等しい。いやゼロだ。
「ううーっ、マジでなんとかしないと。このままじゃあたし、充実してるのはあれだけになる」
いやもうあれだけ充実してればいいや、と思い直し、帰ろうと席を立った美子の名前を、珍しく担任が呼んだ。
「ああ、江川」
「……なんすか」
ばっかじゃないのあたしぃぃ――――! もっと可愛げを出せっツーの! ああもう、ほら女子グループが私の半径二m以内から出てったじゃないかぁぁぁぁ!!
心の中で頭を抱えながら、美子はなんでもない顔で担任の話を聞く。
「お前、確か三組の春川と仲が良かったよな?」
「ちさとですか? ああ、まあ……」
彼の口から出た名前は、美子の唯一の友達で幼馴染。どうもちさとは極度の人間嫌いで、まともに喋れるのは幼馴染の美子ぐらいだ。最近は同じ部活の先輩となんとか会話ができるレベルになったという。人間を見るだけで殴りかかりたくなるというちさとのことだ、赤ちゃんがオリンピックで優勝するレベルの変化ではないだろうかと、美子は密かに思っている。
「で、ちさとがどうかしたんですか?」
「いやぁ、まあお前もわかっていると思うんだけどなぁ……」
「まさか、『放送部』のことですか?」
「お、やっぱりわかっているか。いやあ説明は省いていいか?」
「大丈夫です。今の二年に代替えしてから、証明できるような活動を何もしていない部ですよね? 確か活動実績の欄に、『動画投稿サイトで再生回数百万突破』とかなんとか書いてた」
それも、「音楽」で。
部員の一人ひとりが協力して約五分の動画を作っている。と、ちさとが興奮混じりに言っていたことを思い出した。
「そうなんだよ。で、今年から活動実績がない、あるいは認められない部は廃部にする校則ができたろ?」
それは美子も覚えている。確か生徒会と合同で会議をした。特に何もしていない部活からは反対の声が上がったものの、見事に今年から生徒手帳に追加されている。
「あー、放送部は特に何もしていない部活なので、廃部にするんですか?」
「いや、流石に生徒が生き生きと活動できる場を減らしたくないんだよ、先生は」
教師の職についてわずか二年目の若いその先生は、長めの髪をくしゃっと乱暴に掻く。
「それで校長先生と相談したんだけど、今年の学園祭までに活動実績を作って、それから文化祭で何かステージをやって、体育館に500人を動員する。それができなかったら廃部にすることになったんだ」
「500人!?」
信じられないような人数が提示され、美子は思わず声を荒げる。放送部自体はどうでもいいが、ちさとが折角手に入れた場所を奪われたくはない。
目つきがつい悪くなった美子に少々おののきながら、先ほどよりも格別声が小さくなった担任はあわあわと手を動かす。
「で、でもただ廃部になるよりはいいんじゃないか? お前が春川を心配してるのは先生もわかるし、とりあえず今日の放課後放送部に覗いてみなさい」
「分かりました。行ってみます」
目つきを戻し、カバンをひっつかんで廊下に出た美子は、携帯がなっているのにも気がつかずに、放送部の部室に急いだ。
☆ ☆ ☆
「なあ、この人の絵良くないか? 今度の曲のコンセプトにめっちゃあってる」
「え? ああ、すげーなこれ。誰が描いてんだろ」
「名前の欄。えっと、『みいこ』? にしてもこの絵に書き込んである字、どっかで見たことあるような……。それにみいこって何か引っかかるよな……」
「あ、俺も見たことあるわ。思い出せないか? 空雅」
「いや、俺は無理だな、瑞稀」
「あ、これ美子ちゃんの字に似てますねー」
「「………………みこ?」」
「はい、私の幼馴染のー。こう、丁寧なのに流してある感じがなんとまあそっくりです。しかも名前も似てますよね、みことみいこ」
「そいつだぁぁぁぁぁ!」
がし、と肩をいきなり掴まれたちさとが、この世の終わりのような悲鳴を上げて空雅に殴りかかった。
更新頑張ります←
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