蹴りたいスライム
村の中を歩いているとスライムが跳ねていた。
――ポヨーン。ポヨーン。
スライムは透明な体をゴム鞠のように弾ませながら、汚い土の上を跳ねている。
えいっ。
俺はスライムを蹴った。
モンスターを討伐するのは良いことだ。
でも、スライムは別に悪さをするモンスターという訳では無い。
ただそこらへんでポヨンポヨン跳ね回っているだけである。
だからスライムは討伐せずに放置するのが普通だった。
それでも俺はスライムを蹴った。
何故か?
なんとなくむしゃくしゃしていたからだ。
生まれが零細の農民なのも関係しているかもしれない。
もしも貴族に産まれていたら、こんなくだらないことはしていなかったと断言できる。
とにかく訳の分からないストレスが俺の中に渦巻いていて、それをどうにかして発散したいと思ったのだろう。
――グシャァッ!
蹴っ飛ばされたスライムはゴム鞠のように水平に吹っ飛んでいき、そして民家の壁に激突した。
スライムは少しの衝撃なら何ともないが、このように強い力を加えられると破裂してしまうのだ。水風船と同じだな。
スライムの汚らしい身体だったものが、そこかしこに飛び散っている。これもまた水風船。
俺は一瞬、『近所迷惑』という言葉が浮かんだ。
一時の激情に任せてスライムを蹴飛ばすのは近所迷惑かもしれない。
しかしスライムの身体の99%は水分だという。
雨でも降れば、このスライムの死体は流れ去って消えてしまうだろう。
空を見上げれば灰色の雲が覆っていた。
きっとすぐにでも雨が降る。
雨で俺の蛮行が覆い隠されるのは大いに結構だ。
でも、雨が降るとスライムは増えてしまう。
スライムは雨が降ると繁殖し始めるのだ。かたつむりと同じだな。
雨が降り、雨が上がった後の村の中、俺の故郷の中を我が物顔で、小さいスライムがぽよんぽよんと跳ね回る。
その様を想像するだけで、少し憂鬱になる俺であった。