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臨時6便:「―反則 凶悪―」

「……びぇっ……ん゛な……っ!?」


 渥美の掌底による「一撃」により。

 面白いまでに見事に吹っ飛ばされて、地面に叩きつけられたアリュシェンは。

 その一撃を食らった事による痛みに悶え。状況の理解もできぬまま、地面の上で格好悪く藻掻き蠢いている。


「〝一機もってかれちゃった〟以上。こっちも手加減はできないからね」


 そんなアリュシェンを傍目に一度だけ見つつ。

 今程に不敵な笑みで言葉を発した直後の渥美が。続けて零したのは、そんな一言であった。



 ――惑星の地上にて。高速道路、自動車専用道路の管理を担っていた時代。

 交通管理隊はその立場、特性上から。武力の行使は認められていなかったが。


 しかし、人類が。異常事態に異常現象が日常茶飯事である宇宙に、そして超空に飛び出し。

 そしてその内を繋ぐ軌道が設けられ、その管理が交通管理隊に任せられるに伴い。


 「力」を持たぬ形では、最早任務業務を果たせぬとの考えが主となり。その在り方は一新

 交通管理隊は、「力」と。それを行使するべく権利権限を携えるに至った。


 その変換からの現在。

 超空の法礼規則において。交通管理隊はある程度の自己防衛、状況解決のための力の行使が認められる事が、定められている。


 しかしそれとして。組織会社の運営方針の熟考の結果、専用の火器火力の装備は時期尚早と判断され。

 交通管理隊の携える「力」は、隊員自身の任意の「身体強化」を伴う体術によるもの。すなわち徒手空拳を主体とすることが定められた。



 今程に。渥美が頭部を一度弾かれたにも関わらず、健常体へと復活した理由は。

 渥美が私的に自身の身に施した、「身体強化」の一種の効果によるもの。


 それは。あらゆるに置いてでは無いが、一種の形で「不死」、「無敵」を体現するまでの驚異の御業。

 人が超空に飛び出すに伴い手に入れた、また新たな「力」であった。



「……っ゛ぁ゛……き、きさまっ……なぜ……!いや……それよりも、この我の顔を……っ!?」


 少し間。己を苛む痛みから、地面の上で藻掻き蠢き悶絶していたアリュシェンだが。

 やはり魔族だけあって強靭な肉体を持つのか、すぐに己の体に鞭打つ様子で半身を起こすと。

 渥美が復活した事への驚きを。

 いやそれ以上に。己の顔を拉げ凹まされた事に対する憤怒を露わにした色で、荒げた声を渥美に向ける。


「桜井さん、クアクレスさん。危険なので建物に戻っていてください」


 しかし渥美はといえば、そんなアリュシェンはほぼ無視して。

 桜井とクアクレスに、さらには犬の子にも視線を向けて。そう避難を促す言葉を伝える。


「!……え、えぇ……!」

「は、はい……!」


 それを受け。目まぐるしい状況に呆気に取られていた桜井にクアクレスと、さらには(0 0)と目を丸くしていた犬の子は。

 次には促されるままに。返事を返すと合わせて、急き慌てるまでの姿でSAの建物施設へと駆け避難して行く。


「さて――ここは公共施設だ、荒事を起こされると困るよ」


 それを見送り、避難を確認した後に。渥美はようやくアリュシェンに視線を向け。

 静かな、そして飄々としたまで色で、そんな忠告を促す旨の言葉を向ける。


「くく……何をほざくっ!!人如きがぁっ!!」


 しかしそれは、アリュシェンの逆上を招いた。

 次には怒りのあまりから漏れた言葉を伴いながら。アリュシェンはその体を膝立ちの姿勢へと回復。

 そして次には、翳し突き出した手の先に。闇の物質でできた漆黒の大鎌を生みだし、それを渥美へ薙ぎ振るい放った。


 ――ザン、と。

 それは渥美へと届き、次には渥美の片腕を切断して落とす。


「ありゃ」


 しかし。

 その渥美は、自身の腕を損じたにも関わらず。悲鳴も、苦痛の色も見せずにそんな言葉を零すだけ。

 そして次には、その切断面には黒い煙のようなものが漂い。


 そこから、禍々しいまでの「再生」の光景が繰り広げられ。

 さほどは立たずに、渥美の腕は見事に「復活」した。


「困るなぁ、制服新しいのもらったばっかりなのに。物品係に迷惑かけちゃうよ」


 「復活」は渥美自身の腕に限定され、制服の袖にあっては回復しなかったため。渥美は制服の損傷を歓迎しない様子を、しかし呑気なまでの色と言葉で零しつつ。

 次には、アリュシェンに向けて踏み出し。間合いを詰めだした。


「っ!?……っ!!」


 それを見て、「敵」の接近を阻むべく。

 アリュシェンはすかさず、今度はその腕先に「闇魔の巨大球」を生み出し。それを渥美に向けて撃ち放つ。


「あっ」


 それは今度は、渥美の上半身を包むように直撃し。その上半身半分をごっそりと消し飛ばした。

 直撃の瞬間に、渥美は何か気の抜けた声を残してその「上半分」が消滅。そして残された下半身は、背後に吹っ飛んで倒れ沈む。


 しかしやはり。すぐに今度は、渥美の胴体下半身の切断面が「再生」を見せ。

 間もなく。消し飛ばされたはずの渥美の上半身の全てが、再生されて復活した。


「な……なぁ……!?」


 驚愕を見せるアリュシェンよそに、渥美は「よっこらしょ」と起き上がり。

 今の消滅の影響から、制服の上衣を無くし。少し衰えが見え始めながらも、最低限鍛えられているその上半身を見せつけながら。

 カツカツと歩みを進め、アリュシェンへと迫る。


「!!!」


 対してアリュシェンは、それに驚愕して目を剥き。焦り急き、我武者羅なまでの動きで再び巨大な魔弾を放つ。


「おっと」


 しかしそれは、今度はついに。渥美に軌道を予測され、ヒョイと回避されて明後日に飛び去った。


「あんまりそれを投げられると困るな」


 渥美当人からすれば、脅威とはなり得ない攻撃の数々だが。しかし道路管理者としての立場からすれば、流れ弾が道路施設の損傷を発生させてしまう懸念がある。

 そんな不都合を懸念しての言葉を零しながら、しかしさらにアリュシェンに歩み迫る渥美。


「ひ……っ!」


 その、「ありえない」姿に。

 ついにはアリュシェンは恐怖を覚え、悲鳴を上げ。そしてその渥美の接近を何としてでも阻むべく。

 またもの巨大な魔弾をその手に生み出し、撃ち放とうとした――が。


「やめてね」


 それよりも早く、渥美はついにアリュシェンの懐、目の前へと踏み入り至り。

 生み出された巨大な魔弾を保持したままの、アリュシェンのその手が。渥美の手に、静かに優しく支える程度の動きで捕まえられた。


「!!!」


 しかし、それを受けてアリュシェンが見せたのは。その美麗な顔をしかし台無しなまでに崩すほどの驚愕。

 それは、脅威たる渥美に腕を捕まえられた事ももちろん。

 同時に。実は不安定な代物である巨大な魔弾は、すでに炸裂まで秒読みの状態。


「やめ……!!離……!!」


 そんな炸裂直前の魔弾を保持したまま、撃ち放つ前に動きを封じられてしまった状態に。

 アリュシェンは狂った様子すら漏らしての、藻掻き叫び上げる。


 だが、アリュシェンの腕を捕まえる渥美のその手は。優しく柔らかく見える様子に反して、まるでビクともしない。

 そして――


 バァンッ――と。


 時間制限を迎えた、魔弾が炸裂。二人を包み込んだ。


「――あらら、破裂するんだね」


 数秒の時間の後に。魔弾の炸裂が生み出した漆黒の雲煙が晴れ。そこに再び渥美とアリュシェンの二人の姿が現れる。

 今の魔弾の炸裂の影響で。渥美はまたも、片腕を損じている。


 一方、アリュシェンはその強靭な魔族の体のおかげか。損傷は手先の指を失い、腕の皮膚が削げた程度と、渥美より少しはマシな様子。

 そして魔族、悪魔の体は。それから復活再生することも容易に可能である。

 ――が。


「……ひぁ……あぇぅ……」


 両者の損傷状態の比率に反して。その顔を恐怖とベソでぐちゃぐちゃにしていたのは、アリュシェンの側。

 そんな今の彼女からは、ここまでの傲岸不遜な色は綺麗さっぱり消さり。その姿はまるでただの小娘のよう。

 腰が抜けたのか、地面にぺたんと座り込んでしまい。おまけにその股間からは、失禁までしている始末であった。


 渥美を得体の知れない、狂気かつ恐怖の域の存在であると、アリュシェンの本能は認識。

 それを目の当たりにし、そしてその前に晒されたことにより。彼女は完全に戦意喪失してしまっていた。


「あらら、怖がらせちゃったかな」


 そんな、狂気なまでの姿でアリュシェンを戦意喪失に陥れたと言うのに。その狂気の当人の渥美はと言えば。

 何か気の抜けたまでの色で。そんな困ったような一言を零すのみ。


「?」


 しかし、そんな色々な意味で凄まじい様子を見せていた渥美が。新たな、それも複数の気配の出現接近を感じ取ったのはその直後。

 そしてSA駐車場の上空より、その複数の新たな「来客」が降り立ち現れた。

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