臨時5便:「―遊戯 続行―」
「――まったく、よくもここまで集まってくれたモンだッ」
SAの全周は、未だに各勢力の巨大な軍勢に包囲されている状況にある。
侵外は施設外の展望エリアに再び繰り出て、その光景を呆れた様子で見つつ。携帯端末のカメラ機能でその光景を撮影している。
何も物見雄山のそれで撮影行為をしているわけではない。
SAを取り巻く状況を撮影し、それを業務連携のための危機管理アプリで上げて報告するための手順だ。
アプリケーションに簡単な詳細を入力し、撮影した画像を添付して送信。
これにて管制センターや、侵外等の拠点である事業所に情報が届いて共有される。
「いいだろう。これで向こうでも状況はある程度掌握できる」
送信が確実に送れた事を、ビュワー画面で確認しながら言葉を零していた侵外。
「次は電話――」
そして、続く手順作業に掛かろうとした侵外。
しかし、そのタイミングで。
上空を何か大きな物体が勢いよく飛び抜け、その気配が少なくない風圧と同時に伝わった。
「ッ!」
それにすぐさま感づき、上空を見上げ振り向く侵外。
その何らかの物体はすぐに飛び抜け、施設の向こう側へと隠れてしまったが。そのシルエットを微かに捉える事は出来た。
そして、今の状況で飛来して上空を飛び抜ける何かといえば。SA施設を包囲する軍勢の内の、いずれかの手勢である事は十中八九明らかだ。
「ヤロ――渥美さんッ、侵入されましたッ。駐車場のほうに降りたかもしれませんッ!」
すぐさま身を翻しつつ、身に着けたトランシーバーで施設内にいる渥美にそのことを伝える侵外。
《あら、困ったね。了解、こっちで――ん?はい――えっ》
渥美からはすぐにそんな返答の声が返り、続く言葉が上がり掛けたが。
しかし直後にそれが、別の何かに気を取られる声に変ったのはその時だ。
「渥美さん?」
続け通信の向こうには、何か少なからずの騒ぎの音が聞こえ。侵外は訝しみつつ呼びかける。
《ごめん、よりまずい事になった。さっきの保護した子が、駐車場の方に飛び出して行っちゃったってッ》
「なんですってッ?」
間を置いて返されたのは、渥美からの緊張感の無い声での。しかし状況としてはよろしくない知らせ。
天使の悪魔の混血の娘、クアクレスが。SA職員の制止を振り切り飛び出して行ってしまったとの旨。
それに侵外の顔も苦く険しいものに変わる。
「いらない責任感にでも駆られたかッ?」
そして零す侵外。
クアクレスのその行動理由に察しを付ける事は容易だ。
彼女には状況を自分のせいと気負い。さらには共に逃れて来た人たちを、自分が護らねばならないと背負い込んでいる節がありありと見えた。
おそらく今しがたに侵入した存在物体は関係者、いや最悪敵対者であり。それから身を挺して人々を護るつもりだろう。
《さっきのお店のお兄さんが追って行ったらしいッ。ボクも今から追いかけるよッ》
「了解、自分もすぐに追いつきますッ」
続け聞こえ届いたのは、食事処の従業員の桜井がそれを追いかけて行ったらしい旨と。渥美もこれよりそれを追いかける旨。
侵外はそれに了解し、そして自分も向こうへ合流する旨を伝える。
「ったく、面倒続きだッ」
そして悪態を隠すことなく零しつつ。侵外は駐車場へ向かうべく駆けた。
場所はSA施設の駐車場へ。響く拡声器からの広報の放送を受け、少し急く動きで避難する利用者の姿が散見される。
そしてその最中に同時に、そのど真ん中に一人の少女が、単身降り立つ姿があった。
外見年齢は十代後半程か。
美麗な真白い髪に飾られるは端麗な顔立ち。そして年相応以上の豊かなボディは、やたら露出の高い衣装で飾られている。
この惑星世界に近い次元軸に、並行して存在する付随世界――魔界。
少女は、その魔界世界を統べる上級魔族の、その一翼を務める存在。
その名を、アリュシェンと言う。
外見こそ十代後半程の少女だが、その正体は齢数千を越える悪魔族だ。
「――なんだここは?珍妙な場所だな」
その降り立ったアリュシェンは、彼女にとっては見慣れぬSA施設を、なにか訝しむ視線を見渡しつつ。
しかし次にはその興味を外し、向こうにあるSA施設建物の方へと目を向ける。
「現れたか」
そして気配と、施設建物より現れた姿を見止め。次にはしかし、つまらなそうな色に言葉を見せながら零す。
現れ、駆け出て来て。そのアリュシェンと少しの距離を離して相対したのは、他ならぬクアクレスだ。
「……!悪魔長……いえ、アリュシェン従姉様……!」
そのクアクレスは、大分に臆し怯える色で。しかしそれを、虚勢にて踏みとどまっている様子で。
そのアリュシェンを、従姉と言う言葉と合わせて呼ぶ。
「私を姉などと呼ぶな、『穢れた落とし子』」
しかしそのアリュシェンは、大変に侮蔑を含めた色に、嫌な物でも見る目でクアクレスを見返しながら。
そんな命じ叩きつける言葉を返す。
神族の男と魔族の女の間に生まれた禁忌の子、クアクレス。
そのクアクレスの母方の血縁で、クアクレスとアリュシェンは従姉妹同士の関係にあった。
しかしアリュシェンは、仇敵たる親族の男と恋に落ちた、裏切り者も同然の魔族の女との間に生まれたクアクレスを。
従妹と見る気はまるで無く。むしろ身内からそれが生まれたからこそ、それを恥であり侮蔑でしかない対象と見ていた。
「どこに消えたかと思えば、このような得体の知れぬ所に身を潜めていたか」
また侮蔑の色でクアクレスに返し、彼女からすれば不可思議なSA施設を、再度見回すアリュシェン。
「クアクレスさん!」
そこへクアクレスの背後より、追い付き現れたのは桜井。そして一緒に着いてきたのは犬の子。
桜井はクアクレスに追い付きそのまま前に出て、彼女を庇うように立ち。
犬の子はさらにその二人の前に庇うように立ち、アリュシェンに向けて『ウーっ』と唸り威嚇を始める。
「なんだ、お前にあっては人間の男にでも絆されたか?父母と変わらず、救いようが無いな」
しかしそんな現れた桜井を一目見て、だが差して興味は示さぬように。
アリュシェンは嘲笑い、呆れるようにそんな言葉を零す。
「……!」
しかし、アリュシェンのそれに同時に含まれるは、微かな怒気に気圧されるようなオーラ。
嘲笑いつつも、目の当たりにしたものを不快に思っているらしい。
それを受け、桜井はクアクレスを庇いつつも。冷や汗を垂らし、顔を険しくする。
「面白くないな――この珍妙な場ごと、焼き尽くしてしまうか?」
そして次に、アリュシェンが返したのはそんな言葉。
「!……おやめください!この場所の方々は、関係ありません!」
しかし次に、その言葉にクアクレスは目を剥き。訴える言葉を発する。
「私に命じる真似などするな、穢れた子が」
しかし次には、それにまた不快感を感じたのだろうアリュシェンが。大変に冷たく刺すような眼光で。
桜井とクアクレスの二人を射抜いた。
「っ!」
「ぁぅ……!」
その形容し難い圧力、身の危機を感じるまでのそれに。二人は身を震わせ、あるいは臆し萎縮する。
「――すみません、よろしいですか?」
しかし、そんな所へ。
場に合わぬトーンで言葉が割り込まれたのは直後。
それは向こうのSA施設建物側から追い付き現れた、他ならぬ渥美からのものだ。
追い付き到着し、場の只ならぬ気配を嫌でも感じた渥美は。交通管理隊員、係員として場に介入すべく割り入った。
「いかがなされました?まずは落ち着いてください、状況をお伺いしたいのですが――」
渥美はそのまま桜井とクアクレスの横を抜け、前に出て。
状態、トラブルの元凶と思しきアリュシェンに向けて。普段の業務の定石どおりに接触を図ろうとした。
――パァン、と。
何か、血肉が弾け爆ぜるような音が響いたのは直後。
「――え」
「――ぇ」
思わず声を零したのは、桜井とクアクレス。
見えたのは、前方向こうでアリュシェンが片腕を突き出して翳す姿。
そして、その延長線上にある渥美の――その頭部が。半分以上、「砕け消えた」姿。
直後には、渥美の身体は。バタンと音を立てて地面に崩れ倒れる。
「……ぁ……ぃ……いやぁぁぁぁぁっっっ!!!」
次には、その光景に状況を理解したクアクレスから。劈くまでの絶叫が上がった。
「た、隊員さん……!?」
続け桜井も、驚愕の声を張り上げる。
「ふん、一体なんだ?この気の抜けた輩は?我に近づき触れようなどと、傲岸も甚だしい」
方や、アリュシェンにあっては、冷たい色を変える事も無く。
己に向かって身構える様子も無く、近づこうとした渥美の。今の倒れた姿を見下ろしつつ。
呆れ、そして少しの不快感を見せてそんな言葉を紡ぐ。
今に渥美をその姿へと至らしめたのは、無論アリュシェン。
その腕先より放たれた、悪魔の携える闇魔の力が。渥美の身体、頭部を撃ち、弾け爆ぜさせたのだ。
「戯れは終わりだ。お前も、邪魔立てする者も全て始末する」
次には、その言葉通りに遊びは終わりという様子で。
アリュシェンは踏み出し、渥美の慣れ果て倒れた身体の脇を通り抜け、桜井とクアクレスの眼前へと迫る。
「っぅ……!」
「……!」
恐るべき、そして抗い難いその存在がいよいよ迫る状況に。
桜井はクアクレスを抱き寄せ庇い。クアクレスはその腕に抱かれ、身を固くする。
「ふん。せめて仲良く、捻り潰してくれる――」
そんな二人を嘲り、そして宣言通りに事を成さんと。アリュシェンはその片腕を二人へと伸ばそうとした――
――ドグギャッ。
鈍く、しかし明確な音が。上がり響いたのは瞬間。
「――ぎぇぶぇあ゛っ!?」
「肉を打ち砕く」音と分かるそれと合わせて、同時に上がったのは何か濁った悲鳴。
「?……っ!」
「!」
身構えていた桜井とクアクレスが、伏せていたその顔を起こし、そして見た者。
それは、今に自分たちを襲おうとしていたアリュシェンの。その身姿が――真横に吹っ飛ぶ様子光景。
その恐ろしいまでに美麗な顔を、しかし台無しにするまでに、その横面をおもいっきり拉げ凹ませ砕き。
無様なまでに白目を剥き、唇を蛸のように突き出し。
「べぎゃら゛っ!?」
次には真横に吹っ飛んだ先の地面に、バウンドして叩きつけられた。
「……え」
想定もしていなかった光景に、思わずの声を上げたのは桜井。その腕中で、クアクレスを目を剥いている。
そしてしかし次には、前に別の気配を感じて視線を戻す、桜井にクアクレス。
そこに、腕を。掌底の形を作り突き出していたのは――他ならぬ、渥美。
弾け爆ぜたはずのその頭部は。
しかし、何か黒く揺らめく煙のようなものを微かに纏いながら。何事も無かったかのように、元の健常な形へと戻り、「復活」している。
「――最近、ノーミスクリアを狙ってたのになぁ――」
そんな。驚愕、不可思議の最たる姿に様子光景を見せる渥美自身は。
しかしその読めない顔に、いつもの飄々とした色で、何かそんな言葉を零しながら。
掌底のために突き出した腕を戻し。一度倒れた影響で、少し砂土の着いてしまった身体に制服を簡単に払う。
――CONTINUE?――
そんな渥美の脳裏に浮かんでいたのは、そんなワードにイメージ。
「――〝YES〟だ」
そんな、自身の脳裏に浮かんだ問いかけに答えるように。
渥美はそう回答の一言を紡ぎ。
そして、不敵でしかし確たる笑みを浮かべた――




