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戦闘員A

作者: 京城 杜歩

短編です。すぐに読み終わると思います。

仮面ライダーのショッカーをベースに何かプロットを作ろうと思い書きはじめたものです。

基本はセリフ無しでつらつらと書いて、結果、起伏のある話にならなかったので話を展開せずにリリースする事にした次第です。

今日も、都会の片隅を自転車をのんびりと漕いで走る青年「山田はじめ」。

見た目もごく普通の一般的な大学生であり、警察に職務質問をされても学生証を提示すれば万事解決。

だが、そんなごく一般的な風貌、学生という身分にも関わらず、彼のアルバイトは「戦闘員A」である。


闇に潜む秘密結社のアルバイト戦闘員である彼は、A、B、Cというアルファベットで呼ばれるだけの名もなき戦闘員。

主なバイト内容は、フルタイムの怪人や団員のサポートのみ。

連絡が既読になれば数分で完全に消去される秘密連絡用アプリの指令を受け、

指定された時間と場所に赴き、黒く光るタイトなラバースーツのような戦闘服を身にまとって作業をする。


ただ、主な仕事はトラックに乗っている荷運びや設置作業などの力仕事で、工事現場と変わらない。

だが、体力勝負かと言われたらそんなこともない。

その理由はただ一つ。戦闘服の能力が素晴らしい。

伸縮性に優れ、強靭で、汗のムレは通すが、雨などの水はしっかりはじく。

そして何より、これを着ると常人の何倍もの力を発揮でき、素早く動くこともできる。

まさに夢のような機能を持った服が貸与されているのだ。

そんなアルバイトも時給ではなく日給制。しかも2万円の最低保証。素晴らしいバイトである。

そんな素晴らしいバイトに出会ったのは1年前。


自転車を漕いでスーパーで買い物をした夕方の帰り道。

山田は目の前でバンに連れ込まれる女性を目にした。

そして車が急発進すると同時に、自転車のペダルに目いっぱい力を込めた。

山田はその持ち前の正義感で女性を拉致した車を追い、廃工場に入って行くのを見届けた。


そして、廃工場の前に自転車を止めて中に入り、工場の中に先ほどのバンが止まっているのを確認すると、

警察に連絡しようとスマホをポケットから取り出した時、

車から怪しい黒い全身タイツを着た人間たちが先ほどの女性を担いで出てきた。

さらに、そこに突然まるでファンタジー系のゲームに出てくるような耳の長い色白の中性的で美しいエルフが現れた。

攫われた女性が地面に転がされ、女に向かってエルフが黒い何かを差し出すと、何かを言い争い始める。


工場の外でそれを見ていた、そこに轟音と共に一台のバイクが猛スピードで突っ込み、エルフと女性の間を横切った。

エルフはそれを避けようとのけぞり、手に持っていた黒い何かを手から飛ばしてしまった。

するとバイクに乗った男は何かを叫ぶと全身が赤色のバトルスーツに変身し、

攫われた女性も立ち上がり何かを叫ぶと、全身がピンク色のバトルスーツに変身した。


そこからは、黒い全身タイツは赤とピンクのパンチ一発でやられ、投げられて地面に伏した。

エルフも何かレーザー銃みたいのを出して攻撃していたが、また突然消えた。

そして倒れていた戦闘員が立ち上がってバンに全員乗り込むと猛スピードで廃工場を出て行った。

赤とピンクも赤が乗ってきたバイクに二人乗りをして廃工場を去る。


結局、それを見ているだけで山田は警察に電話をしなかった。

この10分にも満たない出来事を、山田は一人俯瞰で見ていた。

だから、エルフが手に持っていたものをどの辺りに落としたかを把握していた。

エルフも、赤とピンクたちもそれを拾うことなく帰ったことを理解していた。

必然。エルフの手から飛んで行った場所にに近づくと、黒いそれはあった。


5cm角の正方形で、プラスチック製のような光沢。

真っ黒いそれは思ったよりもずっしりと重い。

左手の上に乗せて、じっくりと観察しようかと思ったその時、黒いそれは突如形状を変え左手首に巻き付いた。

驚いて手首に巻き付いたリストバンドのようなそれを腕を振ってみるが外れることはない。

全く継ぎ目なくぴったりと腕に巻き付いたリストバンドは気になるが、とりあえずその場を離れる事にした。


それからしばらくは特に何も起きなかった。

家に帰り、はさみもカッターもリストバンドを傷をつけられず、

しかし特に影響もないので、とりあえず普通の生活を送ることにした。

それからしばらくして、夕方までの授業を一人で受けた後、

学食で夕飯を食べていると、リストバンドがスマホのバイブレーション機能のように震えた。

それに気を取られていると、不意に見知らぬ男に話しかけられた。

自分と年格好も大差なく見えるその男は、親しげに「お前もバイトしているのか?」と聞いてきた。

そして、彼は自分の右腕につけた黒い時計を見せつける。

そんな彼を一瞥して、「ああ」と返事をした。


そこから彼の言葉に乗って、自分は昨日採用された人間で、

リストバンドの使い方をちゃんと聞いてなかったという話を始めると、

彼は色々な情報を教えてくれた。


黒い物体は、ある団体のバイトに合格すると配られること、

そして、その団体の名前もすべて秘密だが、高い日当が手に入ること、

彼は別のバイト仲間に紹介されてスマホで試験を受けたこと、

今は、インストールを指示されたアプリを使い、

指定された日時に指定の場所に行ってバイトをしていること、

黒い腕輪の形の変え方や、これを持つ人が近づくと共鳴して震えること、

それは仲間である証拠であり、仲間以外に口外してはいけないこと、

そして、この黒い腕輪が「戦闘服」ということ。


ひとしきり話した後、近くに他の学生が座ると彼は「じゃあ、どこかで」と言ってその場を後にした。

彼には悪いと思ったが、彼の情報はとても有益で、凡そどうすればいいか理解できた。

彼に見せてもらったアプリは見たことのあるアルバイト連絡用アプリで、

会社固有の登録番号を入力すれば、その会社が登録者にバイト募集の連絡がくる。

登録番号は、先ほどの彼のアプリを見たときに覚えたから問題はない。

問題は「戦闘服」というものがどういうものなのか、まず、この腕輪の機能を試す必要がある。


そして早速その日の夜。家からちょっと離れた公園に立つ。

左の手首にある黒いリストバンドを右手で掴んでささやく「開け」。

次の瞬間、リストバンドから黒い影が伸びて体を這うように広がり、体全体を覆った。

結果、全身を、黒い光沢を持ったタイトな全身タイツのようなものに体に覆われる。

戦闘服とは名ばかりで、正直、どう見ても戦隊モノの下っ端の姿以外の何ものでもない。

そんな姿をしていると、公園を通りの前を通った女性と目が合う。

月明かりに照らされる全身タイツの男。

急いでその場を去ったのは言うまでもない。


それから数日、腕輪の機能を試した。

思った形の時計にすること、全身タイツの上から服を着れるか、

部分的に着ない方法やお風呂に入っても黒タイツを装着できるかなど、

思いつく限り試し、一番驚いたのはこれを着ていると、とんでもなく身体能力があがること。


そうこうしていると、最初にあったような緊張感は消えた。

そのため、夜にコンビニに行く途中で時計型にしたリストバンドが震えたとき、迂闊にも共鳴相手を探そうとしてしまった。

そして共振が強くなる方へ歩き、路肩に止まるトラックのそばに立つ人たち、助手席に黒いキャップを目深にかぶる赤い瞳の人と目があったと思ったら気を失った。


目が覚めると戦闘服を身にまとっていた。

四方を打ちっぱなしのコンクリートの部屋。

部屋の扉が開くと白衣を着た老人が自分と同じ戦闘服を着た男二人と入って来る。


暴力は趣味じゃないと言っていた老人は、その戦闘服をどこで手に入れたか聞いてきた。

そのため正直話す。すると聞いてもいない話を説明してくれた。

戦闘服はヒーロースーツ?の劣化版レベルだが、耐衝撃、耐熱防寒などの超機能を備えたナノマシンの集合体で、身に着ければおいそれと死ぬことはない。

自分たちは培養液からこのナノマシンの集合体を生産する技術を確立したが、作れるのは週1枚程度。

貴重なものではあるため脱がそうとしたが、戦闘服がそれに反応して抵抗したのでやめたらしい。

ならば、戦闘服との相性の良さと戦闘服がどれだけ宿主を守るのかのデータ採集として有用という事で、

今から戦闘服が壊れるまで拷問をされた際のデータの実験台か、

戦闘服が壊れるまでバイトするかの二択を迫られ、

……正式にバイトすることが決定した。


それからのバイト生活は、日雇いバイトと大して変わらなかった。

アプリに連絡が入って呼ばれ、連絡先に向かい、現地集合で現地解散。

みんなも戦闘服を着ているので素顔は知らない。

たまに全身マントの「怪人」と呼ばれる上司?みたいな人がいたが、会話を交わしたことはない。

ただひたすらに、戦闘服を着てトラックから荷物を運ぶ、何かのセッティングを手伝う、

時には荷物を指定のコインロッカーに入れるなどもあったが、

仕事時間は短く、終われば即日給料が連絡用アプリに入金されるので文句はなかった。


そんな日々が一年ほど続いた中、バイト中にヒーローと出会った。


それはこのバイトではよくあるもので、指定された廃工場に行き、

コンビニ配達に使われているような荷台が箱型のトラックから荷物を出しては、指定の場所に置くというもの。

何も考えずその作業に従事していると、突然、工場の入り口から猛スピードでバイクが入ってきた。

そして砂煙から浮かぶのは、青色の全身タイツを着た人間。

型には肩パットのようなものがついており、金の腕輪、腰には白い拳銃をぶら下げている。

声からして男のようだが、突然のことで何を言っているか自分には聞き取れなかった。

聞こえたのは「ヒーローが」という言葉のみ。


だが、その姿を見て戦闘服を着た仲間は一斉に荷物を持ってトラックに戻り、自分もそれに続いた。

すると、今回は廃工場にいた全身マントの人がマントを脱ぎ、まるでカマキリのような姿を現す。


青いヒーローとカマキリは組手のように徒手空拳で攻め、防ぐ。

それがしばらく続いた後、二人に向かって二人の戦闘員が走り出し、一人は青いコスチュームに体当たりを仕掛け、一人はカマキリ怪人を守るように立ちはだかった。しかし、青いヒーローは戦闘員をひらりと交わすと、パンチ一発を入れた。

その一撃で2メートル近く戦闘員が飛んだのを見て、流石にこれはやばいと思って駆け寄り、肩を貸しながら立たせる。

そのあと、すぐに自分を追ってきたもう一人の戦闘員も倒れた男に肩を貸し、二人で急いでトラックに戻って荷台に乗せた。

すると、観音扉の荷台の扉が片方閉まり、さっきカマキリ怪人の前に立った戦闘員がもう片方の扉を閉めながら言った。

「カマキリ男様がみな無事に撤収しろとの事だ」

そして、扉が閉まり、トラックは急発進した。


荷台の中で、カマキリ怪人の前にたったあの人は、カマキリ怪人という上司に指示を仰ぎに行ったのかと思った。

となると、目の前で横たわる戦闘員はその時間稼ぎ。

戦闘服という全身黒タイツを着て、カマキリの恰好の人もいるけど、

意外と報連相がなっており、突然の対応にも的確な判断を出せる人材がおり、

部下への思いやりを持った上司がいる。

組織としては一流なのではないかと思った。

そんなことを思っていると、町外れで一人トラックから降ろされた。

なお、その日のバイト代はいつもよりも多めに入っていた。


それから1週間ほどバイトの連絡は途絶えた。

そして次に連絡が着たとき、バイトはいつものような荷物運びの仕事ではなかった。

アプリに示されたのは暗証番号と指定されたコインロッカー。

ロッカーの荷物を指定の場所に持って行く荷物運びかな?と思ったが、

深く考える事を禁じてロッカーを開けると、そこには小さい紙袋。

荷物を取り出し、さらに向かうのは小さな喫茶店。


店に入ると、髭を蓄えたダンディなオジサマ。

笑顔の可愛い大学生くらいの女の子が二人。若い男が一人。

コーヒーの匂いが薫る静かなお店で、席に通されるとコーヒーを頼み、スマホを見ながら少し時間をつぶす。

そしてその帰り際、通されたテーブルの下にある荷物置きに、指令で受け取った小さい紙袋をわざと忘れていった。

それで今日は終了。


それからも荷物運びではないバイトの指示は続いた。

ある駅で写真の男は降りないか。

指定された地域の月極め駐車場に写真のバイクがないかなど、

正直、べたな探偵のドラマで出てくるようなことのマネごとのようなものばかりだった。


そうしてしばらくしたある日、時計に変化させていたリストバンドがアップデートを始めた。

画面にはアップデート中の文字が表示され、全く動かない。

そして、これまで全く腕から外れなかったリストバンドはあっさりと外れた。


自由。その表現が正しいかわからない。

ただ、リストバンドが外れればバイト先との関係を維持する必要がない。

リストバンドは、最初に手に持ったような黒いキューブ型に戻ってから動く気配なく、アプリもならない。

気づけば一ヵ月経っていた。

自由は唐突に訪れたが、ただ、唐突に訪れる自由には不安が伴う。

勝ち取ったものではないがゆえに、自由でいいのか、このまま断ち切って良いのか自信が持てない。

だから、不意にアプリで呼び出しがかかったときに容易に反応してしまったのだと思う。

そして、黒いキューブ型に戻っていたナノマシンは、手荷物と再び時計型になって左手首に巻き付いた。


それはいつもと違う集合方法だった。

指定の場所にはいつものようにコンビニ配送用に似たトラックが一台あり、トラック後部の扉を開けて荷台に乗り込む。

すると、そこは荷台ではなく見たことのない広間につながった。

自分の体は強制的に戦闘服に着替えさせらており、周囲には同じく戦闘服を身にまとった人たちがいる。

数十人はいるであろう同じ戦闘員。前方を確認すればそこには演説会場のように高い位置に演台がある。

見たことのない赤い色の戦闘服を着た人間もちらほら見えた。

その赤い戦闘服たちが拍手を始めると、他の戦闘員たちも拍手し、

演題には奇妙な仮面をつけた真っ黒なマントで身体を包んだ何かが演説を始めた。

だが、自分には何のことかわからないような内容ばかりで、周りの人はうなずいていたが自分の頭に入ってこなかった。

最後に聞こえた言葉は「最終決戦」の一言。そして盛大な拍手と共にその演説は終わった。


正直に言う。それから数日たっても、特に連絡もすることは何もなかった。

「最終決戦」という言葉があったが、あの場所に自分が呼ばれたのは結社の結束を図るための賑やかし、

イベントのさくらのようなものだったのだろう。

結局、自分はあのとき語られた「最終決戦」には参加しなかった。


そして大学4年になったある朝、左手首にあったはずの時計型ナノマシンは消え、アプリもスマホから消えていた。

結末は知らないまま、バイト先と関わった証拠はすべて消えた。


いま、結末を知りたい気持ちが頭をよぎる瞬間はある。

しかし、大学で出会ったあの男は誰かわからず、SNSでもネットでもそれらしい男はヒットしない。

喫茶店も新しい店に変わり、この数年、事あるごとに記憶を辿って痕跡を探したが、

どこにでもいる「社会人A」になった自分には確かめる術はなかった。

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