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私はあなたの光になりたい

作者: ぽむ

私はあなたの光になりたい


彼女は僕によくそう言った

白いワンピースに向日葵が良く似合う女の子

キラキラと眩くて、根暗な僕が怖気付いてしまうほど


そんな僕には当たり前に友達もいなくて

教室に居場所などなかったし

父は単身赴任でなかなか家には帰ってこず

母と母の浮気相手が平気で居るような家も居場所にはならなかった

ただ僕が安心して息ができる場所が河川敷

川に降りる土手の所に座って星を眺め空気を吸う

この何気ない瞬間が僕にとっては最高なんだ


夕暮れ、そうやっていつもの様に母と浮気相手のいる家から逃げだし河川敷に行くと今日は珍しく小さな明かりが燈っている

最悪なことにその灯りが燈っているところが

僕のいつもの定位置なのだ

しょうがないので少し離れた場所の階段に座ることにした


川の流れる音、無数に瞬く星と啜り泣く声

物思いにふけていた瞬間あれ?と僕は我に返った

女性だ、女性の啜り泣く声が聞こえる

その声の主は僕の定位置に座った彼女のものだった

いつもの僕なら絶対に話しかけないし

そんな度胸も勇気もない

それでも今日は何故だろう

話しかけてみたいと思ったんだ

僕は近くまで行って声をかけた


「大丈夫ですか?どうかされましたか?」


すると女性はビックリして


「わっ!!」


と驚いた

その顔には少し涙が滲んでいる


「ごめんなさいね、特に悲しい事があったわけじゃないんだけど」


と笑い

何故泣いていたのかを説明してくれた

彼女は久々に夜の散歩をしようと外に出た

少し歩いた先にこの河川敷があったので

ここで本を読んでいたと教えてくれた

今のところ泣く要素なんか1つもない

僕は流石に意味がわからなくて


「で?なんで泣いていたの?」


と聞く

そうすると彼女はニヤついた顔で

僕の顔の前に本を差し出してきた

そこには〜犬と人間の感動物語〜と書かれている

拍子抜けした、膝の力が一気に抜けていくのを感じる

要は彼女はこの本を読みながら

感動して周りに聞こえるようなボリュームで泣いていた

ということか

なんて人騒がせな人なのだろうと思った

僕のその姿があまりにも面白かったのか彼女は高らかに笑った

その瞬間向日葵みたいだとふと思った

あまりにもどうでもいい事で泣いていたので

僕が仏頂面になった事に気づいたのか

彼女は腰を上げながら


「君にその本を貸してあげるよ、その仏頂面もその本を読めば

私みたいに感動しちゃうんだから!!」


そう言い残し半ば強引に本を押し付けて彼女は帰っていった

嵐が過ぎ去った後のようだ

僕はその本を眺めながら止まっていた

そういえば彼女の名前も年齢も分からなかったな

明日ここにまた来てくれるのだろうか

けど久々の散歩って言ってたし会えないだろうか

また話をしてみたいなと

そんな事を考えながら僕も帰路に着いた

その瞬間目の奥がズンと痛んだ


次の日の学校

テストも近かったので図書館で勉強しようと思い移動した

その途中女の子とすれ違った

あれ?と振り返る

なんとその子も振り返っている

昨日は暗くてよく顔が見えなかったがあの子だ

あの子に違いない

僕に本を押しつけて帰った嵐のようなあの子

彼女もそれに気づいたのか

その顔に笑顔がパッと咲いた


「あーー!!昨日の男ね!!」


彼女は大声でそう言った

まさか同じ学校だったなんて


「どこにいくの??」


「テストが近いから図書館に行って勉強するんだ」


「なら私もちょうど勉強したいと思ってたの!

本の感想も聞きたいし着いていくわ!」


昨日の今日で本なんか1ページも進んでるわけがないけど

僕は妙にその子と話したくてうんと相槌をうった

図書館まで移動しノートをペラペラと捲りながら

他の人の迷惑にならない音量で話をしていると

その子は同じ学年の隣のクラスだった事が分かった

友達なんか居ない僕は人の顔をしっかり見ることもないし

彼女からすると僕は空気のような存在だから

認識されることもないんだと思い少し悲しい気分になりながら

話をしていた

そういえばと彼女は聞く


「名前聞いてもいい?」


僕が答えると彼女は


「素敵な名前ね!貴方にピッタリ」


と大袈裟に評価してくれた

彼女は明かりが燈るに咲くと書いて

燈咲(サナ)と名乗った

彼女の方がよっぽど名前の具現化したような人だ

そんなどうでもいいようなことを話していたら

勉強をしたのかしてないのか分からないほどまで

話に明け暮れてしまい学校が閉まる時間になった


「また明日ここでお話しましょ」


そうお互い約束を言い残し家に帰った


それから数ヶ月の間

毎日サナと図書館で勉強をしていた

テストが終わったその翌週も何かしらの理由をつけて図書館に集まるようになった

ある時サナが体調不良で1日休んだ

その日の放課後の図書館は心にポッカリと隙間ができたみたいで

妙に寂しくて、いつからかこの放課後が待ちどうしくて大切ものになっていた事に気づいた


その夜ベッドでサナについて考えた

恋と言っていいのかは分からない

僕はあまりにもそれに無頓着すぎる

生まれてこの方恋なんかしたことない

サナとは今以上の関係になりたいとは薄々感じている

でもこの関係が心地いいとも思っている

仮に僕がサナにその事を伝えたら彼女はなんて言うだろうか

この関係は終わってしまうだろうか

それとも僕の答えに笑顔でうん!と花を咲かせてくれるだろうか

今までの僕なら絶対に考えることすらなかった贅沢な悩みだ

こうやって悩んでいることすら嬉しく感じてしまう

自分が気持ち悪い


その瞬間また目の奥がズンと痛んだ

いつもならすぐ治るのに今日は収まりそうにない

僕は網膜色素変性症だ

(もうまくしきそへんせいしょう)

この病気は国の指定難病に登録されている

遺伝子に生まれつき問題がある関係で

元々視野が狭い

それでも今までは普通に生活出来ていたし

なんの支障もなかった

だがこの病気も進行すればするほど視力は悪くなり

最悪の場合全く見えなくなってしまうだろう

明日病院に行こう

行って少しでも良くなって治すしかないんだ

効いているのかさえも分からない薬を体に流し込み

僕は眠りについた


病院へ向かい診察してもらう

いつもならこの後薬を出されて帰るだけ

でも今日はいつもと違った

担当医に呼ばれたのだ

診察室に入って席に座る

座ったのを確認したと思った瞬間


「急激に病気が進行しています」


そう医者は言い放った

僕も馬鹿じゃない

それでもこの言われたことの意味が理解できなかった

頭の中で整理してもよく分からない

そんな僕を置いて医者は淡々と説明している

要は目が見えなくなるのだ

見えなくなる恐怖で震える僕を置いて

この医者は職務を全うしている

素晴らしいね

もう少し僕に寄り添って欲しいものだ

なんてどうでもいいようなことを考えていたが

よく分からないまま説明されて

どうやって帰ったかも分からないまま家に着いた

寝たら治っているなんてことは無いだろう

でもこの気持ちを寝れば寝ている間だけは忘れられるからと

自分を封じこめそのまま眠りについた


次の日いつもの様に学校で

いつもの様に1人で過ごし

いつもの様に放課後図書館に向かう

そこには先にいたサナが今日は本を読んでいる

また感動するような本を読んで図書館で大声で泣かないか心配だ

こちらに気づくと

いつものように笑顔を咲かせている

僕が席に着いたのを確認するや否や

今日あった楽しかったこと、嫌だったこと

授業中隠れてお菓子を食べたのがバレたこと

先生にこっぴどく怒られたこと

その全てを嬉しそうに伝えてくれる


気づけば僕は泣いていた

嗚咽気味に自分でもよく分からなくなっていた

こうやって泣くのはいつぶりだろう

大好きな祖母が亡くなった時だろうか

ペットの犬が死んでしまった時だろうか

どっちも5年以上前だ

僕の涙が枯れていなかった事に驚きだ

僕にも泣けるという感情があったんだ


サナは驚いている

それはそうだろう

サナは楽しそうにお喋りしていたのに

友達が急にこんな泣きだしたら

困惑してしまうに違いない

僕でも困ってしまう

それでも僕の涙は止まらない

こうやってサナの笑顔が

向日葵のような笑顔が

僕を照らしてくれた唯一の光が

見えなくなってしまう


やっと涙が引いた時

何故泣いたのかを説明しなければ

目の前の彼女は納得しないだろう

あんまり悲しい身の上話はしたくないが

僕の病気のことを正直に打ち明けた

話終わったあとサナは泣いていた

僕と同じように泣いていた

いやむしろ当の本人より泣いているかもしれない

先程と立場が逆転して僕はなんだか可笑しくなって

笑った

この子が居てくれれば

目の前が真っ暗になってしまっても平気だろう


「僕は君が好きだよ」


後悔はない

言えてよかった


「私もあたなが好きよ」


その返事は予想外だった

僕は嬉しい半面

こういう時どうすればいいのかを知らない

何も言えず立ち尽くすことしかできない

その姿が面白かったのか彼女は声を大にして笑った

僕も何故か声を大にして笑った

そんな二人の顔には涙の跡が残っている

この場所が図書館だったことを忘れていた

流石にうるさすぎて図書館の司書に怒られてしまった

2人で謝って静かに図書館を出たあと

顔を見合せてまた笑った

その笑顔が向日葵みたいだと思った


その二年後

僕の目はどんどん悪い方に進行していき

もうほとんど見えなくなっている

でもその隣には彼女がいる

僕の手を確かに握ってくれている

見えないはずの僕に光を与えてくれている


彼女は言った

「私はあなたの光になりたい」


僕は言った

「君は僕の唯一の光だよ」

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