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第7話 君なら簡単でしょ

 さやか達が霊的教会を完成させるとわたるも、それに合わせた動きをしていた。


「なんで、今さら、トイレなのよ」


 しずくの声を聞きながら、わたるはドアを開いて足を中に踏み入れた。


 かわやには邪霊が集まりやすい。

 校舎を教会に増したとはいえ、かわやの不浄は、多少緩和された程度。


 もし、この事態が邪霊の仕業なら……


 手洗い場の鏡を見て、わたるはぎょっとした。

「おい! ここは、男子トイレだぞ!」


 彼は、鏡越しに手を振っているしずくに怒鳴る。


「へぇ、これが小便器なのね」

 と彼女は、わたるの背中を通り越して、小便器に興味深々だ。


「だけら、座るなって」


 しずくは、小便器の前でうんこ座りをして、しみじみと眺めている。


 好奇心旺盛な子どものよう。

 枝でも落ちていれば、ツンツンとたたき出すかもしれない。


 だって、実際に……そぉーと……


「突くなよ」


 しずくは、小動物のように、体をビクッと震わす。

 小便器の方へ突き出した人差し指を途中で止まっていた。


「さわらないわよ」

 彼女の声色が震えている。

 尻を浮かした体育座り。

 スカートの裾を片手で抑え、床に触れないよう配慮はしていた。


 わたるはトイレの個室を確認しようと動く。

 その際、

「いいから、外で待っててくれ」

 とため息混じりに言った。


 彼が個室のノブに手を掛ける。

 金属製のレバーハンドル。

 軸のところにサビが浮いていた。


 レバーハンドルを下げる。


「誰もいないのだから良いじゃない」

 しずくは不服そう。


「女の子が男子トイレに入っちゃダメなんて誰が決めたのよ」


「逆は嫌だろ?」


「私は別にいいわよ」


 わたるが振り返るとしずくが上目づかいで彼を見ていた。


 意地悪な笑み。


「ダメなものはダメだ」

「そういうのを習慣や固定観念を利用した簡易結界っていうのよ。悪い奴を避けるのには意味ないわ」


 わたるが、のぞいた個室の中に異常はなかった。


「さやかちゃん達の結界のせいで、外は居心地が悪いじゃない」


 さやか達が、職員室で祈りを捧げ、校舎は、霊的な意味で教会になっている。

 清潔で神聖な空気。

 肌をさすような透き通った冷たい空気。


 そういえば、とわたるは思い出す。


 しずくは受肉体だ。


「こんなとこに逃げても仕方がないわよ」

「逃げたのは」

 わたるの言葉にしずくが、かぶせる。

「君よ」


 逃げた?


 彼の疑問は当然だ。

 わたるは、邪気をはらうために、ここに来ている。なにからも逃げていない。


「だって簡単じゃない。一人づつ始末すれば良いのよ」


 受肉した邪霊は、その入れ物を壊せばいい。

 彼女のいう始末とはそういうこと。


 それは、殺せと言っているに等しい。


「君なら簡単でしょ?」


 セーラー服を着た彼女は中学生にしか見えない。


 艶やかな黒髪。

 魅力的な瞳。

 透き通った白い肌。


 容姿の整った中学生。

 幼さが、かいま見える美少女。


 だからこそ恐ろしい。


 出来ると許されるは違う。

 技術が優れていても覚悟がない。


「死体があった」

 わたるがボソリと言う。


 死因の確認はおろそかなままの死体。


 もともと邪気をはらい清めるだけの簡単な仕事だ。


 わたるたちが来る少し前に中学校の霊脈が開いたのかも? それとも、わずかにヒビのような何かから漏れている?


 不確かな状況だ。


「おまえなら分かるんじゃないか?」


「君だって同じでしょ? 霊力の順番なら、君と私をのぞけば、神父さん、次に、さやかちゃんかしら?」


 紛れてしまえば、受肉体を見分けるのは簡単ではないということ。


 もしかかしたら最初から紛れていたかもしれない。

 現に、しずくも……


「なら君から……」


 これが一番合理的で間違っていても……

 誰も困らない。


 彼女は……


「こわい顔ね……私なら、こんな回りくどいことはしないわ。校門で集まった時に……、それなりに強いのよ」


 遠くから歌声が聞こえてくる。

 声が霊波となって校舎に響く。


 霊的教会となった校舎と相性の良い歌声。


 わたるたちにとって、幸か不幸か、不浄の場所であるかわやにいることで、彼らに対する影響は減少している。


「はじまったみたいね」

 しずくが廊下の方へ歩く。


 彼女のことに、さやかたちが気がついた?

 どうやって?


 外との連絡手段が断たれている。

 出自しゅつじを調べたとは思えない。


 わたるには、しずくは記憶の隙間に上手に浸透したように見えていた。


 この事態の元凶の犯人探し。


 彼の二度目の初仕事も短絡的な殺し合いになりそうだった。


 職員室は、寝息が聞こえるようになっていた。


 小学生の二人。

 たけるとこのはは、歌うのをやめる。


 寝静まったのを確認すると、彼らは職員室を後にした。


 からす神父は、薄目を開けて、彼らを見守る。

 たける達が出ていってしばらくすると体を起こす。


 寝息を立てているさやかを見て、

「のんきにぐっすり寝ちゃって」

 と言った。

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