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第6話 雨降る夜にキラキラと輝く星々

 職員室がある校舎とは別棟を一通りを見回り。

 建物を三階で連結している渡り廊下を通り抜けた。


 突き当たりに窓がある。

 大きな窓だ。


 雨の気配。

 風が強い。


 雨粒は、窓ガラスに叩きつけられ、そこで数えきれない花を咲かせた。風は、校内を狙う。サッシの隙間を、勢いをつけても、抜けれず、ピューと甲高い悲鳴を上げ消えていった。


 わたると雫の二人は、神崎さやかたちと別れ、校内を見回っていた。


 さやかのわたるでは頼りないといった内容の発言も、「しずくさんが一緒なら大丈夫だろう」というからす神父の主張で一蹴された。


 彼らは、森宮の血筋なら、それなりの手練てだれだろうと思っているらしい。


 特に、これといった反対もなく。

 今、こうして、わたるしずくの二人は、並んで歩いているのだった。


 窓の外の風景は、それなりに荒れていた。

 わたるたちが中学校の敷地に足を踏み入れた時の様子。


 それを振り返ると、職員室で儀式めいたことをしているさやかやからす神父を含め、渉たち彼らには、濡れた地面や水たまりは、毎夜、雨降りだったと主張しているように思えた。


 わたるは、外の風景、丁度、校門辺りに気を取られている。

 しずくは、その横顔を見ながら、

「せっかくの機会を台無しにしちゃって、ごめんなさい」

 と言った。


 目の焦点をガラスに合わせれば、黒いガラスが鏡のように二人の姿を映している。


「機会?」

 わたるは、そう口にしながら「ああ、そういこと」と勘づいた。


 しずくは、自分の想い人を、神崎 さやかと思っているのかもしれない。


 彼は、

「助かった」

 とだけ言う。


「なになに、ムスッとしちゃて」

 しずくは、子犬のようにわたるの体に触れることなくジャレついた。


 そういうところだよ!

 彼は心で叫び、口では、

「こんな時に、そんな話かよ」

 と少し乱暴な口調で、ジャレつく彼女を振り払う。


 雨は止む気配はない。

 外は、相変わらずの荒れ模様だ。


 わたるから少し離れた場所。

 そこに、しずくが、彼の真正面に向かいあって立つ。


 正しい姿勢。

 それでいて自然体。

 彼女は、とにかく凛としていた。


「そんなことばっかりよ」

 しずくは、自分の頭を指差しながら、全てを台無しにした。


 これだよ〜


 わたるは、がっくりと肩を落としてしまう。


 空気が変わる。

 さやかとからす神父の職員室での祈りが終わった。


 冬のあさの心地よさ。

 空気が冷たい。

 バイ菌を殺し、清潔を保つ。

 病気だったら完治して健康になる。

 そんな空気感。


 職員室では国語教師の国枝先生が不機嫌を隠さない。

「茶番だな」

 と彼は言った。


 教頭のおばあちゃん先生が、そんな国枝先生をなだめた。


 教会を霊的に構築する儀式。

 さやか達は、祈りを捧げることで、校舎を一つの教会と為した。


 職員室は、その霊的教会では礼拝堂とした。

 神聖で邪霊なら不可侵の領域。


 生徒の一人が、神崎 さやかに話しかけた。

 彼は、さやかの同級生で顔ぐらいは知っている仲。


 彼は問う。


「神崎、雨が止んだら外に出れるだろ?」


 それなりに、時間かけた儀式だ。

 彼らが、そう思うのも無理はない。


 生徒たちには、死者が出ていることは、伏せられていた。

 事実は知るのは教師のみ。


 からす神父は、そのことが気に入らないが、事実を公表する気はなかった。


 小さな教会と呼ばれる簡易結界は、新たな死者を防ぐ為。


 というのも、からす神父にとっては、名目だ。


 さやかが返答に困っているとからす神父が代わりに答えた。

「雨が止んだら外を調べます」


 微笑みのからす神父。

 その柔和な笑顔に見惚れるご婦人も多いだろう。


 それも平時でのこと。

 閉じ込められている状況。

 しかも、三日目に突入していると、

「何しに来たんだよ」

 となる。


 雨風がひどい。

 これで、雷が鳴らないのが不思議という天候。


 別の女生徒は、少し涙目で、

「神頼みなんか、全然役にたたないわ。だって、それなら、あたしたちと一緒じゃない」

 と顔を机に埋め、伏せてしまう。


 国語教師の国枝先生は、

「あいつらは、大丈夫なのか」

 と鴉神父に詰め寄っていく。


 さらに、

「校内の見回りなんて無意味」

 とも言い。


「だいたい、森宮は」

 と言いかけたところで、


 さやかとわたるの担任、姫川先生が、

「国枝先生!」

 と割って入る。


 内申書で森宮 渉の過去を国枝先生は知っている。

 それは、当然、担任である姫川先生も同様だ。


 姫川先生は、国枝先生に、

「どういうつもりですか」

 と言っている。


 それ以外、特に、森宮 わたるの過去に言及する発言はでで来ない。

 代わりに、別件で、わたるが話題になった。


 男子生徒が妙にざわつく。

「そうだ、それ! なんで、あいつら、二人っきりなんだよ!」


 それに食いつくのは、神崎 さやか。

「どういう意味よ」


「おお〜こっわぁー」

 男子生徒が、頭に角を二つ指てはやしながら、さやかをからかう。


 先ほどの女子生徒が復活。

「なになに、神崎さん、森宮くんのこと好きなの?」


 彼女は、涙目のまま、鼻をすする。

 それでも元気。


「あんなの嫌いに決まってるじゃない!」

 食いつく場所を間違えたさやかは、顔を真っ赤にして怒った。


 わたると一緒で、今宵が退魔士としての初仕事、小学生の男の子と女の子、たけるとこのはが騒ぎ出す。


 それは、全く別の話題。

 騒ぐといっても、主にうるさいのは、たけるで、このはは、つき従っているといった感じ。


 他愛のない話題。

 たけるは、

「のどが渇いた」

 と言った。


 たけるの背後では、このはが、首が壊れそうなぐらい、うんうんと何度もうなずく。


 のどの渇きを覚えている者は、この場に少なくない。

 ただ、それは、まだ切羽詰まったものではない。


 それよりも、なによりも、女子生徒の興味は、神崎 さやかへと……、そして、それを男子生徒たちがはやしたてるという構図が強い。


 教師たちは、それを静観するらしい。


 おばあちゃん先生が麦茶を、子供たちへと運ぶ。


 女子生徒たちの神崎 さやかへの質問攻め。

「どこが、いいの?」

「あんなので、いいの?」

「えーーーー!」


 最後に「なんで??」などといった具合。


 先ほど涙目になっていた女子生徒は、鼻水をすすりながら相変わらずだ。


 それでも、

「あたしなら」

 とからす神父の顔を見た。


 対岸の火の粉が降りかかってきたからす神父は、ニコッと笑うだけの軽い対応で慣れたもの。


 女子たちの、

「きゃー」

 という空気。


「なんでえい」

 と男子たちは、面白くない。


 実は、からす神父は、生徒たちの話をまったく聞いていなかった。


 邪をはらい、場を整える簡単な仕事。

 ……のはずだった。


 二人の犠牲者。

 校長先生と学年主任の死因。

 直接の死因はともかく、二人とも、外に出ようとしてらしい……


 高齢な二人が、塀を登る?

 とか、


 元気な生徒なら、勢いで外に出るんじゃ?

 とか、疑問はある。


 時間のズレが本当なら、ここの邪霊は強大なのだろう。


 結局は、

「初心が大事だな」

 とからす神父はつぶやいた。


 たけるとこのはが、

「みんな! きいて!」

 と二人同時に叫ぶ!


 さらに、たけるが

「きいて! きいて! きいて! きいて!」

 と繰り返すたび、このはは、フンスフンスとうなずいた。


 子どもにしか出来ない力技だ。

 皆の興味が、たけるとこのはに向いた瞬間、

「せーの」

 と二人の掛け声。


 キラキラ星を歌いはじめた。


 女子生徒たちのマシンガン質問トークに陥落寸前だった、神崎 さやかもホッと一息。真っ赤だった顔色も、元通りになっていく。


 からす神父は、椅子に腰をおろす。

 外の風景は、相変わらずの荒れ模様で校門は見えない。


 突拍子のない子どもらの歌唱。

 歌声は、透き通って美しい。


 職員室の天井にそれぞれが夜空を思い浮かべる。

 それぐらい容易くさせてしまうぐらい力がある。


 晴れ渡った夜空に広がる星々は、キラキラとまばたき美しい。


 キラキラと舞い落ち、やがて皆を眠りへといざなう。


 天使の歌声が皆を眠らせた。

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