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(落語)地獄の御隠居さん

作者: 福地 正実

落語シリーズ第一弾でおま。

皆様、こんばんは。私、落語家の極楽亭転国と申します。大きなことを言うようですが、極楽亭転国といえば。

落語家ではわたくし一人のみとなっております。

本日は遠くから、近くから、足元の悪い中、血の池、針の山、賽の河原も乗り越えて、この閻魔記念会館寄席にお越しいただき、厚く御礼申し上げます。

なんですか。今、火炙りで本当に暑かったとおっしゃったお客様がいらっしゃいましたが、本日は肝も冷えるような怪談を。

というわけではございません。どの世界にも裏長屋というものがございます。まあ、長屋には欲深い家主、気の早いハチ。ぬぼーっとしたクマ。ぼんやりした与太郎などが住んでおります。これは落語の世界の決まりでございます。

ここ地獄にも裏長屋はございます。賽の河原を過ぎたあたりに定年後の鬼たちが住んでおります。

ご覧になった方はいらっしゃいますか。

ああ、二、三人手が上がっておりますな。今手を挙げた人はそのまま血の池地獄行きでございます。鬼の衆。ご案内を。


さて、ちょっと騒ぎになりましたが地獄の裏長屋にも同じような住人がおります。その名も与太鬼と申します。この与太鬼、何よりも現世の話が好きという変わった鬼でございます。

「おお、そこを通るのは与太じゃねえか。そんなに急いでどこへ行く」

「ああ、爺さんこそここに座って日干しになるのを待っているか」

「爺いの日干しか」

「じじいの日干しは鬼も食わねえ」

与太鬼はそう言って笑います。

「そう。おめえ急いでどこへ行くんだよ。そんな綺麗なもの着てよ。お、そりゃあよく見ると坊主の袈裟じゃねえか」

「おうよ、生臭坊主から取り上げた」

「酷え事、しやがるな。鬼みてえだ」

「なんの。おいらも鬼の一人よ」


客席で数名が笑い声を上げた。その瞬間に彼らはふいに白い煙のようになり上空へ舞い上がる。


「実はよ。ご隠居さん。こんど、赤鬼兄さんが家を建ててよ。本当はおれのおじさん鬼が行くはずだったんだが、今日は仕事が立て込んでいるらしくてよ。与太。おめえ、行ってこいって言われたんだ」

「ほお、新築祝いか。おめえ、家に行ったら必ずなにか褒めるんだぞ」

「へえ、でも、おじさんが言うことにゃ、ひでえ狭い家らしい」

「そうか。なら、お掃除がしやすい広さですね〜って言うんだ。あんまり広いと掃除がしにくいだろう」

「そうか。掃除ってなんだ?」

「おめえ、掃除も知らねえのか。ほら針山地獄で刺された人間どもを片付けるだろう。あれが掃除だ」

「でも、あいつらまた、元の通りなって、また針山で刺されているぜ」

「まあ、ここは無限地獄だからな。でもな、家を褒めるときっと赤鬼はおめえに小遣いくれるぜ。どうだ、褒め言葉を教えようか」

「小遣いか。良いな。あって困るものじゃなし」

「そうだな。家はどんな家か聞いたか?」

「なんでも、地上から取り寄せた檜で作ったらしい」

「ほお。それは張り込んだな。じゃあな。家は総体檜造りでようござんす」

「家は総体屁の木造りでよかったな」

「違うだろ。じゃあ、紙に書いてやるからそれ持っていきな」


少しでも笑うとそのまま、白い光になって天に昇る人間が続出しております。

それをみておりました、木戸番の格好をした鬼が愚痴っております。

「閻魔様に落語を教えたやつは誰だ。ちっとも面白くねえ。それに笑った人間は前世の罪も関係なく天国行きはおかしくねえか」

「全くだ。道楽もいい加減にして欲しい。なんだ、極楽亭転国て四股名は」

「それは四股名って言うんじゃないねえ。四股名は相撲取りだろう」

すると、高座から形相を変えた極楽亭の怒声が響きます。

「こら〜〜。何を喋っている〜。鬼でも地獄へ落とすぞ〜」

おしゃべりをしていた鬼二人。顔を見合わせて

「しまった、地獄耳なのを忘れていた」

お後がよろしいようで。

いかがでしょうか。面白くても面白くなくても評価いただければと思います。

誹謗、中傷、なんでも来い!なんてね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 隣の例の酷吏が制裁と共に 「落語家のマネして遊んでないで仕事してください」 いや、このエンマ様あのマンガの方なんじゃないかと。スモトリなトコも。
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