原初の神
ソレは暗闇にあった。前も後ろも、右も左も。上下さえわからず、そもそも立っているのか座っているのか、自分の状態さえ分からなかった。
ソレは光が欲しいと願った。ただの光ではなく、太陽のように暖かな光を望んだ。すると、空間が明るくなった。しかしその煌々とした光は近すぎて暑かった。何だったかは思い出せないが、知っている光はもっとずっと上にあったはずだ。光に対して上に行けと繰り返し念じると、その苛烈な熱源は上へ上へと昇っていき、ソレが望んだ暖かさをもたらす光となった。
次にそれが望んだのは大地だった。頭の片隅に土地の奪い合いで争いが起こっていた記憶があったからだ。ソレは地図を広げるように四角い盤面の上で果てのある海と、点在する陸地、広大な場所には山を思い描いた。そういえば裏にも大地があると聞いたことがあるなと盤面の裏に表と対になるように陸を増やしていく。ところで裏側にある陸地にはどうやって立つのだろう。悩んだそれは裏の大地に吊り下げられた建物や道を作り、そこに住む者たちが翼のあるモノたちと共存できるように願った。翼があるモノたちには、空を飛ぶための風が必要だ。そういえば裏の大地には風が吹き荒れる場所があると聞いたことがある気がする。思い出すと、裏側には風が吹き荒れた。
ふと、ソレは自分の喉が渇いていることを思い出した。すると忽ちそれが作り出した空間の底の部分に水が湧きあふれ、喉を潤すことができた。
光や海、大地、そして水。それが望んだものは揃ったが、何かが足りない。ぼんやりと上を見上げると、そこには光だけがあった。空というものはないのだろうか。あれは確か澄み渡った青だった。そう、この水面のように。そして空ができた。その次は人が欲しくなった。願えばどこからか人が生まれ、表にも裏にも人が住まうようになった。いつか聞いた下半身が馬や魚の人間や耳の尖った歳を取らない人間、小柄だが力の強い人間なども現れるようになった。
けれど彼らはソレと時を同じくしなかった。ソレが瞬きをする間に、人々は一生を終えてしまう。寂しくなったソレは、自分と同じモノを望んだ。
どこからともなくソレが最初に作った光や地面といったものに命が宿った。地水火風を表すそれらは、ソレとともに過ごすことになった。それだけの数があっても少ないと感じたソレは、事象の全てに命を宿らせていった。
いつしかソレと同じモノが増えて、最初の地水火風の四人は人々を助けるために精霊となり、古い付き合いのモノが居なくなったソレは世界の狭間に引き籠ることになった。
それでもソレは孤独を嫌い、人々に試練を与え、数多の試練を完遂した者の望みを一つだけ叶えることにした。
今もまだ、ソレと同じモノは生まれ続けているが、ソレが望むモノは今だ現れない。
世界の狭間に在るソレを、人々は原初の神と呼ぶ。