あの頃の未来
*本作は小説をうたっていますが、会話の類はほぼ存在しません。
*本作はおそらく完全なフィクションです。作者の妄想と理想と独自解釈を元に作成されています。
*本作が処女作です。下手なのは承知の上です。批判はやめてください。落ち込みます。
*ある人、ある人たち向けに作った作品です。それ以外の人にはさっぱり意味がわからないと思います。
以上を考慮の上読んでいただけると嬉しいです。
あの頃の未来
『春は、あけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、少しあかりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。』
春は夜明けがいい。少しずつ山ぎわが明るく白んでいく中、紫がかった雲のたなびく優雅さをなんと言おうか。
一面の銀世界は東京生まれ、東京育ちの私には少し眩しすぎた。まだ寝起きの私の目には鋭く刺さるような明るさで、目もまともに開けていられない。一面の可憐な白に乱反射する朝のお日様の陽気はまだこの世界を温めきれていない。
年明けすぐに大学時代の友達と岩手県へ旅行に行った私は、ほんの二週間前の景色を思い出していた。
一面に広がるのは、赤・青・緑。オレンジからピンクまで。鮮やかな色。刺すような強い光ではなく優しく、柔らかい包み込むような光。手を伸ばして触れられるのは冷たく寂しさを感じるような雪ではなく、暖かな人の温もりを感じるどこまでも続く虹。
今まで何度も見てきたあの景色を見ることはもうない。自分で決めたことだったが、いざ見られなくなると寂しい。いつか、あの虹を自らも虹の中から見下ろしたことがある。あの時の虹も綺麗だったが、やはりあの場所から観ないと感じられない感情、感動がある。あの頃の私はこんなに辛い中にも自分のきらきらしたものを見つけたくて、見つけて欲しくて、必死でもがいていた。
目標にしていた大学に合格して嬉しかった反面、どうしても叶えたい夢があった。大学進学には賛成してくれた両親も二足の草鞋を履こうとする私にはなかなか首を縦に振ってはくれなかった。それでもどうしても諦められなかった私は、親の反対を押し切って、足を一歩進めたのだ。一日経つごとに一歩、また一歩と夢に続く階段を登っていることを実感した。先へ進むごとに夢が現実味を帯びて私に笑いかけていた。そして運命の日、夢をこの手に掴んだ。半分は諦めかけていた夢に届いたのだ。
それからは、叶えた二つの夢の中を交互に走り続けた。次なる夢に向かって走り続けた。私がはじめて彼女たちと出会ったのはもう五年も前の話だろうか。当時十九歳だった私から見るとまだみんな子供だった。十五歳くらいの少女が私と同じ夢を持ち一歩踏み出し、私と同じように夢を叶えている。純粋にすごいと思った。私たちにとってこの夢は部活のようなものだった。学生生活の外ではあったが、放課後から集まってのレッスンはまさに部活のそれであった。誰も経験がない中で集まり、同じようなスピードで学び、成長していく中で、ある感情が芽生えた。
「みんなの共感になりたい」
ふとした時に発した言葉は、この集団の中の私の位置を決定づけるものだったのかもしれない。「この中じゃ一番のお姉さんなんだから!」この事実だけで自分を奮い立たせ、辛い時も苦しい時もみんなの「共感」になることを選び、進んでいった。
ある日、ここまでの努力の決算が行われた時、はっきり言ってあまりいい結果が得られなかった私は、自分の悔しさを押し殺しながら、共に頑張ってきた仲間の「共感」として、仲間を励まし、応援し、慰めた。一人になって気持ちを落ち着けると必死に堪えていたものが一気に溢れ出した。止めたくても止められない。悔しさとやるせなさ。大学との両立、最年長のプレッシャーどちらもかからない、誰もいないところで泣いた。
「みんなが、一本の道を走っている中、どうして二つの道を走っているのか。この道の先はまだどうなっているか分からないけど、最後には、一つの道に繋がってると思うんです。ふふふっ。」彼女は笑っていた。
『二兎追う者は一兎も得ず』ということわざがある。同時に二つを追いかけてもどちらも手に入れられないことを指す。確かに同時に追いかけてもそう簡単に両方は得られない。それでも諦めきれない二つの道がある。だから限界まで頑張るんだ。『二度あることは三度ある』ではなく『三度目の正直』、『急がば回れ』ではなく『善は急げ』、『二兎追うものは一兎も得ず』ではなく『一挙両得』を信じたい。手が届くチャンスがすぐそこにあるんだ。だったら「やらない手はないよね。」
みんなと同じように道を進めていない。自覚が出始めたのはいつの頃だろう。大学の卒業が近ずくにつれ、足並みを揃えることが出来なくなっていった。三年間必死で追いかけて、追いかけて。二つの夢。手が届きそうな距離。進まない脚。悔しかった。差し迫った大学の卒業へなんとか足動かした私にもう一つの夢へ進む脚は残っていなかった。あの頃走り出した夢への道の途中で私は脚を止めた。
孤独だった。同時に進み始めた道にはどちらも応援してくれる頼もしい仲間がすぐそばにいた。それが片方だけになってはじめて、こんなに人に頼っていたんだと知った。
『騒々しいのが嫌いと思っていたけれどみんなの声はないと足りない』
この時の気持ちを短歌として残しておく。八・七・五・七・七にあの時の寂しさを閉じ込めて。
大学の卒業式。必死でもがきたどり着いた一つのゴールは、両親との約束に間に合わせることができた。大学を四年間でキッチリ卒業することが両親との約束であった。大学で学びたかった事はまだまだ終わりが見えないままだったが、これこそが魅力であり、私が学びたいと思った理由なのだからこれからの人生の楽しみの一つのまま残っていくだろう。何かに追われながら走るのではなく、ゆっくりと自分のペースで歩める。一つ目の夢は終わりを迎え、またその先に果てしなく長い道へと変わっていった。
立ち止まってしまったあの道。いつまた歩き出そうか考えていた。
「だいぶ置いていかれちゃったな。」
数えてみるとたった四ヶ月の間だったのにみんな見違えるように成長していて、この中に戻るのが少し怖いと感じた。おまけにあらゆる面でのブランクのせいで今までみたいに進めない自分が悔しくて仕方なかった。
それでも仲間たちは優しかった。
「いってらっしゃい」
「おかえり」
この言葉の意味が同じになった。
「いってきます」
「ただいま」
はじめて同じ意味で使った。
再び歩き出した道には石ころや分かれ道、急な流れの川、行手を阻むものだらけだった。その度に仲間が伸ばしてくれた手を取り、先に進むことができた。
はじめて彼女たちにあった時に感じた『共感になりたい』という気持ち。あの頃の私はみんなのお姉さんとして生きてきたけど知らぬ間に、お姉さんである必要は無くなっていた。今やっと、無理無くみんなと向き合える。
その時やっと気がついた。「私、無理してたんだ。」みんなのお姉さんでありたくて、みんなの共感でありたくて、。必死で作ってきたものが自分の重荷になっていたことをはじめて自覚した。
先輩の皆さん。私が唯一お姉さんでいなくてよくって、後輩としていさせてくれた存在。感謝しても仕切れないです。
後輩のみんな。後輩がいると頑張ろうって自然と思えてしまいます。とっても感謝してるよ。ありがとう。
これからこの道を歩き出すあなたへ。あなたたちと一緒に活動はできないけれど、私はあなたたちの味方だからね。頑張ってね。
そして同期のみんな。いっぱい迷惑かけちゃったね。ごめんね。みんなにはあんまり伝わってないかもだけど、みんなのことほんとにかわいいと思ってるし何があっても嫌いになれないと思う。
後のことは頼んだよ。
私は違う道を進むことを決めた。
あんまりに突然だったからびっくりしたよね。私もびっくりしてる。
この道の先に描いてた夢があったんだけど道半ばで終わっちゃうのかな?それはちょっと悔しいかも。でもこの夢に終わりは無いと思うし、きっとこれからも続いていく夢。今、私のいるこの道でできることはやったと思ってる。これからは新しいアプローチを考えるのも悪く無いよね?
この決断が正しかったのか、私にはまだ分からない。でも間違いなく先には進んでる。ちょっぴり後ろ向きな理由もあったけど足し算すればきっと前向きになってるって信じてる。
これから先、遅かれ早かれ、みんな違う道を歩いていくと思います。それでも私はここにいるみんな。私を応援してくれたみんな。私に関わるみんながしあわせになってほしい。私にしあわせになってって言ってくれたのと同じくらい、みんなにしあわせになってほしい。
居るはずの無かった場所。居場所なんてもう無いと思っていた場所に立って最後の挨拶をしている。目の前には赤やピンクの光の海。照らすのは目を向ければ前なんて見えなくなりそうな明るいライト。クリスマスパーティーの最後にみんなにお別れの挨拶なんて寂しくなりそうなことしてごめんね。こんな時間をとってくれてありがとね。最後だからちょっとわがまま言ってもいいよね。だって私わがまま姫だもん。
「春はあけぼの。」
大好きな本を読み耽っていたらいつの間にか東の空が白みはじめていた。寒かった冬が終わり、お日様の登る時間も早くなっていた。桜も見頃を過ぎ、今はもう葉桜の時期と言ったほうがいいんだろう。そんな今日は四月二十八日。私の誕生日だ。大好きな小説の主人公と同じ誕生日なのがちょっとした自慢だ。紫がかった横雲のたなびく優雅さをなんと言おうか。そんな朝だ。
また一つ歳をとった私はあの頃の道の延長線上を歩いている。どうしても入りたかった大学での生活。諦められなかった華やかできらきらしたあの場所。この二つの道は最後の最後で繋がっていた。学んだことも、あの場所にいたことも一つも無駄じゃ無かった。もし、普通の大学生として生きていたら。もし、大学を諦めていたら。いろんなことを考えたけど。全部無駄じゃ無かった。
『春の野に霞たなびきうら悲しこの夕かげに鶯鳴くも』
有難いことに、新しい道を歩きはじめてから意外とやれることがたくさんで充実した毎日を送っている。念願だったものを作り形に残すことができた。それを求めている人に届けることができた。しかもこの作品の続きまで作れるとあるから、思う存分楽しもうと思う。
自分が生きてきた証っていうとちょっと仰々しいけどそれでも足跡を残せるなんて普通じゃできない。やっぱりあの場所に感謝しなきゃね。
私には夢がある。きっと途方もなく先にあるし、すぐそこにある夢。掴みかけても少し届かなくて。そんな夢を叶えるために少しづつでも進んでいく。一歩ずつ、一ページずつ。春の夜明けに光が射す。夢に向かい歩きはじめた、あの頃見えていた紫の向こうがここだとしたら。あの紫の先はどんな風なんだろうか。淡く滲んだ紫色の向こう。