お茶当番は遠慮いたします。
姉さん、事件です!
王宮事務官候補生として、働きはじめてから、一週間。着任のご挨拶も申し上げていない王弟殿下のご尊顔が間近に迫ってきてます。
たしか婚活旅行中だったはず。それより、何より、なんか温い吐息が、妙に生々しいっす。
あれっ、そういえば、たしか私にはお兄様しかいなかったぁー。まじでパニックしまくりなドキが胸胸の五秒中。じゃなくてー、完全に思考も焦りが進攻しております。味方の冷静、平常よ、いつ援軍に来てくれるのー。
頭の中が明後日の方向へ舵を切り始めたとき、バーンっと、大きな音が聞こえたかと思うと、白目を向いて気絶する根性を見せることもないまま、絶妙なタイミングで怒鳴り声とともに扉が開きました。
「オイ、こら、テメェ、そこの変態。何してんだ」
救世主、メシアが来たー。はずなのに、真っ黒な短髪のアラガーキ先輩。お目目が逆三角? かわいく言うと猫のようなツリ目の荒い言葉遣いが標準装備で、男気の塊。でも、頼れる兄貴なんです。
けど、今は、王弟殿下と私を蛇のように睨み付けてます。まるで、竦み上がるカエルの気持ちです。
本当にどーして、気絶しないの私。
その後ろから、マドレーヌ先輩が顔を出しましたが、ホンモノの救いの手じゃなかったようです。
「あら、まぁ。ここに犯罪者がいるわ。衛兵、この王弟殿下のそっくりさんを海に沈めてきてちょうーだい」