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追手を振り切って逃げたは良いもののこの後どうすればいいのか途方に暮れるエラ。そうこうするうちに危なそうな人たちに絡まれます…!

トン……


……トンッ……トン……




 意識がない中で何かがエラを突っついている。


「ここは…」


 エラはゆっくりと目を開ける。

 まず視界に入ったのは眩しすぎる程の青い空だった。そして、次に目にしたのは、


「ぎゃっ!起きた!逃げろー!!あははは」


 棒を持った三人の子供達の笑う姿だった。子供達はねずみの顔をしていて、エラを嘲笑するたびに、ぴこぴこと尻尾が上下した。みすぼらしい服を着ていて見るからに平民だった。どうやら、その子供達がエラをつついていたらしく、エラが起きると笑いながら逃げてしまった。


 周囲は下級街の建物が並んでおり、人もそれなりに行き交っていた。エラは下級街の道の端っこで眠っていたのだ。


 エラはしばらくぼうっとしていたが、ようやく、自分の現状を思い出した。昨晩、エラは兵士から逃げ切る事ができた。そして、ここまで逃げてきて疲れきって気絶するように眠ってしまったのだ。

ついで思い出したのは昨日の惨劇だ。エラは自分の顔を触る。顔の凹凸の感触が、かつての美しさをもう取り戻せないんだという事を伝える。


 エラは周りを見渡した。昨晩は何も考えず無我夢中で走り、そのまま寝てしまったが、どうやらここは下級街のようだ。

エラが下級街に来たのはこれが初めてだった。上級街はノドム族が多かったが、下級街では四頭身で帽子を深々と被っているボウシ族や、頭が丸々動物になっている獣人など、様々な種族の人たちが行き交っている。皆それぞれの仕事のために忙しなく動き回っていた。


 行き交う人々はひそひそと話しながら、エラをじろじろ見る。


「ひぃっ…… 。」


「……っ……やだ……。」


「通報した方がいいかしら…。」


 エラが顔を向けると、皆恐ろしさに顔を歪める。

 エラは慌てて両手で自分の醜い顔を隠した。エラは突然自分が恥ずかしくてたまらなくなった。


 周囲の道にはゴミが所々落ちていて、小さなボロボロのカゴも落ちていた。エラはカゴに飛びついてかぶった。とにかく顔を隠したかった。カゴは目の位置が丁度くり抜かれていた。不審に思ったが、このカゴはただのカゴではなく、ボウシ族が被っていた物なのではないか、と気づいた。ボウシ族は、帽子を深々と被って顔を見せないようにしている四頭身くらいの種族だ。エラは上等な帽子を被ったボウシ族しか見た事がないが、平民ならば、使わない家具などで代用する事もあるのかもしれない。


 カゴを被る事で、奇異な物を見るような視線が少しだけやわらいだように感じた。もしかしたら、エラの事をボウシ族だと勘違いする人もいるかもしれない。だが、依然として、格好は昨日のドレスのまま。敗れたり汚れたりしている。足は裸足だ。どう見ても、エラはこの場で異質な存在だった。子供は遠くの方でエラを指差し笑って、大人はヒソヒソと何かを話している。


 エラは人気のない路地に飛び込んだ。

 青々とした空の下、その路地だけまるで別世界のように真っ暗だった。だが、この暗さが今のエラには心地よかった。

 エラは路地の奥まで進むと、ペタリと座り込んでしまった。路地は細かったが、人が通らないのでエラが座ってても誰かの邪魔になる事がなかった。


「叔母様と叔父様に会いたい……。」


 誰かに聞かせるでもなくぽつりと呟いた。エラは心の底から寂しくなった。おじさん達が恋しくてたまらなかった。昨日の騒動の後、彼らはどうなったのか。きっとただでは済まされないだろう。


(私のせいだわ……。私のせいで、叔父様達に迷惑をかけてしまった……。私がダンスパーティーに行きたいなんて言わなければこんな事には……。きっと私を深く恨んでいるに違いないわ……。)


 エラは膝を抱えて、カゴを被ったまま顔を(うず)めた。空腹でお腹が鳴るし、喉も乾いている。だが、何か行動を起こそうという気力が起きない。それどころか、このまま死んでしまっても良いとすら思っている。

 エラはまた涙が溢れるような気がしたが、何も出てこなかった。昨日も散々泣き散らしたので、疲れて泣く気力もわかなかった。あるいは、エラの『2番目に大切なもの』として涙を奪われたのだろうか。


「お嬢ちゃん、何か困ってるの?」

  

 エラはびっくりして立ち上がった。気づいたら、4人の男達がエラを取り囲んでいた。耳が長く凶悪そうなノドム族が二人と、トカゲ頭の獣人と、少し背が低くて片目が潰れたドワーフだ。


「手伝ってやろうか?」


 男達はニタニタ笑っている。


 男達は屈強な体に立派な武器防具を身に付けている。皆胸に月の刺繍があしらわれた胸章をつけている。エラはこの胸章を見た事があった。

 ギルド『歩く月』のメンバーだ。


 エラ達の国_ローフォードでは、現女王が即位してからは周囲国との小競り合いが頻発するようになった。特に、南のヒートンとはここ2年緊張状態が続き、もういつ全面戦争が起きてもおかしくはない。それに伴い、兵力を増強する必要があった。しかし、自由にクエストを受注して金を儲けるギルド文化が栄えていたローフォードでは、下手に兵士になるよりもギルドに入った方が稼げるし条件も良い。従ってなかなか兵士の数が増えず、国力を高める事ができなかった。そこで、女王は「公的なギルド以外を認めない」という法律を定め、『歩く月』をこの国で認める唯一のギルドであるとした。鍛冶ギルドや、商人ギルド、魔物討伐ギルド、後はとても公では口にできないような闇仕事を担うギルドまでもが『歩く月』に吸収されて、国の便利屋のような位置付けになったのだ。戦争が起きた時も騎士団に並ぶ主戦力として重宝されている。『歩く月』は、スキルや力の強さが一定の水準を満たしていないと入る事はできない。市民達の間では一目置かれる存在だ。エラ達貴族の間でも、騎士になれなかったら『歩く月』に入りたいという貴族が少なくない。

 『歩く月』のトップは女王だ。

 すなわち、今目の前の男達は、女王の手下、という事になる。

 エラは身体中から汗が流れるのを感じた。


「私……助けなんていらないです。」


 エラは本能的に逃げ出そうとしたが、既に周りを囲まれてしまい逃げられなかった。


「ボウシ族……?にしちゃデカいな。色々と。」


「あんたのその格好、訳ありなんだろ?…おっと、別に通報しようなんて考えてねーって。ただし、ワチ達最近懐が寂しんだ。嬢ちゃんの身に付けてるネックレスやら宝石やらをくれたら助けてやってもいいぜ。」


「そのドレスも破れてはいるが、随所にある宝石は高値がつきそうだな。」


「女ひんむかせるならついでに遊んでかね?」


「ばっか最初からそのつもりだよ。」


 男達は次々と好き勝手言って大笑いしている。エラは恐怖で身震いした。さっきまで死んでも良いとすら思っていたのに、今は目の前の脅威から一刻も早く逃れたかった。


「いいから、ワチ達と来なって。」


「やめて……!」


 男達の内、トカゲ頭の獣人に腕を掴まれて咄嗟にエラは振り解いた。それが気に障ったのか赤毛のノドムが凶悪な顔で睨みつける。


「あんま調子乗ってんなよ、このアマ。まだ逆らうってんなら__」


「お前達、何をやってるんだ!」


 突然、別の男の声が響いた。エラも、エラを囲んでいた男達も驚いて声の方を振り返る。

 振り返ると、耳の長いノドム族の男が立っていた。年はエラと同じくらいだろうか、碧い瞳をもち、金髪にバンダナを巻いた青年だった。


「『歩く月』の奴らか!国を守る側の人間が喝上げとはこの国も終わったもんだな。」


 青年はすぐに駆け寄って来た。

 『歩く月』の男達は最初こそ青年の登場に驚いていたものの、すぐにニヤニヤと笑い出した。男達が屈強な体に頑丈そうな武器防具を身に付けている一方で、青年は細身で軽装備もつけておらず短剣を一つ持っているだけだった。青年はエラを助けようとしてくれているようだが、見るからに弱そうだ。エラは落胆した。


「なあ、あんた、女助けて正義のヒーローにでもなったつもりなのか知らねえが、よく見てみろ。この女どっからどう見ても訳ありだろ?」


「だからなんだっていうんだ!弱い者を理不尽に恐喝して、金稼いでいる事には変わりないだろ!お前らの悪事を全部本部に言いつけてやる!その女についてはしかるべき場所で処遇を決めるべきだ。」


 青年は息巻いて叫んだ。しかし、どこか心細い声だ。エラは、青年が気丈にふるまっているだけではないかと感じた。


「おい!皆聞いたか?こいつ、俺らの事を本部にチクるんだってさ!」


「そりゃ怖い!」


 大口を開けて『歩く月』の男達はゲラゲラ笑った。

 青年は怒りのあまり顔を真っ赤にした。すかさず腰に下げた短剣に片手を伸ばす。

 しかし、『歩く月』の方がはやかった。流石に戦い慣れているらしく、トカゲ頭の男が一瞬の内に青年の手から短剣を落として、腹にパンチを食らわした。


「____っ」


 エラは声にならない悲鳴をあげた。恐ろしさに身震いする。貴族の令嬢として育ったエラは暴力を見た事がなかったのだ。


 腹を思い切り攻撃されて倒れた青年に、『歩く月』の男達は容赦なく何発も蹴りをいれた。青年は血を吐いた。


「や、やめて……!」


 エラは恐怖に耐えながら声を振り絞ったが、男達は聞く耳を持たなかった。エラは恐ろしさに身がすくみ、割って入る勇気はなかった。

 トカゲ頭の男だけが一歩ひいた所に立ち、口角を吊り上げている。エラが逃げ出さないように見張っているのだ。


 青年がほとんど動けなくなったのを確認すると、ドワーフが持っていた縄で青年の腕を後ろ手に縛った。


「こいつよく見たら可愛い顔してんなあ。」


「実は女だったりして。確認してみっか?」


「やめろ!……触んな!!」


「暴れんなって可愛がってやるからよぉ。」


 男達が青年のズボンを脱がそうとする。青年は顔を青くして暴れるが、縛られた状態でうまく抗う事ができない。簡単に男達に抑えられてしまった。


「クソッ……!『歩く月』もこの国も狂ってる!お前ら全員『白い教会』に殺されれば良いんだ!」


「白い教会……?」


 男達が突然驚いて手を止めた。


「お前、もしかして『白い教会』の奴か?」


「ばか、こんななよっちい奴が『白い教会』のメンバーな訳ないだろ。大方、その信奉者ってとこじゃないのか。」


 エラは『白い教会』という言葉に聞き覚えがない。なんとなく、青年達の会話から察するに、組織の名前のようだったが、ギルドは『歩く月』以外には存在しないし、他に思い当たる組織がない。


「『白い教会』ってなんなんだ?」


 赤毛のノドムもエラと同じで、『白い教会』という単語を聞いた事がないらしく首を傾げた。トカゲ頭の男が呆れたように首をふったが、片目の潰れたドワーフが「こいつはまだ新人なんだ。」と言った。


「『白い教会』は違法な犯罪者ギルドの事だ。国が認めた訳でもないのに、勝手にギルドを名乗ってやがる。何度もテロ行為を繰り返してくる迷惑なうじ虫共だ。」


「『白い教会』は正義のギルドだ!じき、お前らに制裁を下してくれるだろう!」


「いいか、ガキ。」


 ドワーフが青年の胸ぐらを乱暴に掴んだ。


「『白い教会』なんてもう時代遅れなんだよ。奴らは壊滅した。リーダーの『猫』だか『ハムスター』だか…」


「『針鼠(はりねずみ)』だよ、兄貴。」


「……『針鼠』は1年も前に俺ら『歩く月』が捕らえて処刑した。昨日はフリン牢獄を残党が襲撃したようだが、それもわずかな生き残りだけだ。そしてワチらが一人残らず捕まえてやった。_そうだ、良い事教えてやるよ。まだ、ワチらしか知らねえ事だがな、来月の1日にそいつらを公開処刑する事になってるんだ。一般市民のお前らにはまだ知らせちゃいけねえ貴重な情報だぜ。」


 青年はショックを受けたように固まった。ドワーフは青年の反応が心底面白いらしく満面の笑みを浮かべた。


「いいねえ、その顔興奮するぜ。」


「こっちの女諸共楽しめそうだぜ。」


 突然の青年の登場で、すっかり青年ばかりに気をとられていた『歩く月』の男達がやっとエラに関心を戻した。


「前からボウシ族の顔ってどんなんなってんのか気になってたんだ。」


 茶髪のノドムはそう言って、エラが被っていたカゴを強引に取った。男達は上機嫌でエラの素顔を見た。


 そして、次の瞬間には信じられない物を見た、という顔で固まってしまった。


「こ、こいつ……ボウシじゃねえ。イシ……なのか……?」


 エラの呪われた顔は、戦場慣れした男達にも衝撃的な物だったようだ。

 男達が硬直する数秒間は、エラにとって長く感じた。


 この時、男達の背後で、青年は眉ひとつ動かさずに、ギラギラとした目で見ていた事に誰も気がつかなかった。


 数秒後、最初に動いたのは片目が潰れたドワーフだった。ドワーフは素早い動きでエラの喉元にナイフを突きつけた。


「な……っ、ど、どうする気だよ。」


「こ、殺すに決まってんだろ!得体の知れない流行病かもしんねえ!うつったらたまったもんじゃない!」


 ドワーフの腕は震えていて、鳥肌が立っていた。エラの中で、今にもナイフが喉をかっ切るんじゃないかという恐怖と 人々の化け物を見るような目の苦痛がごちゃ混ぜになって爆発しそうになる。


「いや、これは病じゃない。呪いの類だ。」


 トカゲ頭の男が断言した。


「どっちみち気持ち悪いよ!殺しちまおう!」


「兄貴!殺すより見せ物小屋に売りつけようぜ!」


 手下のノドムが嘲笑する。だが、ドワーフは聞いていない。相当怖がっているようだ。ドワーフがナイフを振り上げた。

 エラは今度こそ、本当に終わりだと思った。体に力を込め、目をぎゅっと瞑った。


と、その時___







「ひ、ヒヒ…ヒヒッ…」



 奇妙な笑い声がドワーフを静止させた。


 また、新たに別の人間が来たのか。


 男達は周囲を見回す。

 だが、すぐに、声が他の人間の物ではないことに気がついた。声は、さっきまで男達にボコボコにされていた青年の口から発せられていたのだ。


「___っ」


「悪い悪い。豚共がくっせえ息吐きながら、ぴいぴい怯えてんのがあんまりにも可笑しくてなあ!つい、笑っちまった!…ヒヒッ…ひ…」


 青年はさっきとは全く別人のように、馬鹿にした目つきでひたすら笑っていた。気でも触れたのだろうか。


「……な……なんだとてめェッ!」


 呆気にとられていたドワーフが我に返って殴りかかった。しかし、ナイフは使わない。脅威ではないと感じたためか、それともまだ後で青年を楽しみたいと思っていたのか。

 だが、その判断は致命的な誤りだった。


「___っ!!」


 突如、突風のような蹴りがドワーフに直撃した。

 ドワーフの体がぐらりと横に倒れる。

 その場にいた誰もが一瞬何が起きたか理解できなかった。


 蹴りを入れたのは、さっきまで散々殴られてぐったり倒れていた、青年だ!

 後ろ手に縛られた状態でドワーフに回し蹴りをくらわしたのだ。


「…鼻ァ_折れ…アあ」


「____!!!」


 ドワーフは鼻を抑えている。抑えた手の中から赤黒い液体が流れ出て、痛みで涙が出ている。


(……ち、血が……。)


 エラは一気に体が寒くなるのを感じ、心臓がバクバクした。


 ドワーフが壁際に倒れ込むと青年は容赦なくドワーフの頭を壁に踏みつけた。ドワーフは口からも血を吐いた。ドワーフは倒れて動かなくなった。


__一瞬、時が止まったようだった。


 『歩く月』達は何が起きたか理解できない。皆、口を開けて動かない。

 一番頭が追いついていなかったのは、エラだった。ドワーフはいっこうに起き上がるそぶりを見せない。エラはドワーフの姿を視界に入れる勇気すらなかった。


 トカゲ頭の男が急いでドワーフに駆け寄る。


「……死んでる。」


 一言、呟いた。

 エラは地面に尻をついた。


(……し、死んだ?今の、い、一瞬で……?)


 今度こそ体が完全に使い物にならないくらいに震え上がる。


「……兄貴!て、てめ、なにしてくれんだ!」


 どうやらドワーフの弟分らしいノドム二人が青筋立てて剣を抜いた。

 青年は目を疑うような軽やかさで跳躍し壁を思い切り蹴って反動で高く跳ぶと片方のノドムの顔面を蹴り上げた。ゴキリッ……と嫌な鈍い音がする。

 ついで、他方のノドムの顔に3発、胴体に7発、また顔に3発蹴りを入れて、最後に地面に叩きつけるように回し蹴りした。ノドム達は武器を持っていたにもかかわらず、青年の動きが素早過ぎて抗う事なく倒されてしまった。青年は赤髪のノドムが持っていた剣の先を使って縄を切った。青年は手の拘束が解け自由になる。


「貴様……!何者だ!」


 トカゲ頭の男が剣を抜き構えた。青年も腰にさげた短剣を抜いたが構えずに手の上で器用に転がしもてあそんだ。


「……馬鹿な奴らが、この俺に何の相談もせず勝手に襲撃して勝手に捕まっちまったんだ。正直俺はあいつらがどうなろうと知ったこっちゃないが、この状況利用しない手はないからな。だから、お前らから()()の公開処刑の日を聞きたかった。本当は拷問なりなんなりで吐かせたかったが…お前ら『拷問されたら死ぬ』なんていう意味わからない魔法契約してるだろ?」


 青年の言葉は返答になっていなかった。トカゲ頭の男がイライラしながら青年を睨みつけた。


「だから何者だと聞いてるんだ!!」


 青年は碧眼を光らせ口角をつりあげて言った。






「_____『針鼠』だよ。」




 トカゲ頭の男は絶句した。


「……いや、まさかそんな…奴は1年前に処刑されたはず……。そもそも、こんな若造が……?」


「もういいか?俺が誰かなんてあんま関係ないだろ。お前はここで死んで、俺が殺す。それだけだ。」


 トカゲ頭の男は怒りで体を震わせ、剣を構えた。エラならば両手で持っても持ち上げられなさそうな大剣を片手で軽々と持っている。対して青年はおもちゃのような短剣だけだ。どう考えても青年の方が不利だ。だが、トカゲ頭の男はきっと負けるだろう、とエラは直感した。


 その予感は的中した。針鼠はさっきまでふざけた構え方をしていたにも関わらず、風のようなスピードで相手の懐に入りこんで右脇から左肩までを斬りつけた。が、浅い。トカゲ頭の男はギョロリと目を向け、大剣を握りしめる。しかし、やはり針鼠は相手に反撃する余地を与えなかった。くるっと回転して胸を斬り強く蹴ってトカゲ頭は数メートル先までぶっ飛んだ。

 激しく体を強打して動けなくなったトカゲ頭の男の胸を針鼠は踏みつけた。


「クッ……ぅ……たす……け」


__ガッ


 針鼠は容赦なくトカゲ頭の男の首を短剣で斬った。血が吹き出し、針鼠の顔に少しかかった。



「___当初の計画と大分違うようですが?もう少し向こうの路地まで誘き寄せる手筈でしたでしょう。それに、しとめるのも皆で確実に、のはずでしたが?」


 突然、別の声が聞こえた。今度こそ、知らない人間の声だ。


「___っ」


 エラは唖然とした。ついさっきまで人気のない路地だったのに、建物の屋根や奥の道からぞろぞろと人がでてきた。エラはもう頭がパンクしそうになった。どうやら人々は針鼠の仲間のようだった。


「……ちょっと予定外の収穫があったんでな。」


 針鼠はようやくエラをまともに見た。

 彼の碧い瞳は、ギラギラと狂った光を放っていた。


と、思った瞬間、エラの腹に衝撃が走った。痛みに苦しむ事もなくエラは目の前が真っ暗になり、気を失った。













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