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大貴族フィンドレイ家子息レナードとの出会い

 姫はエラの前に青年を突き出した。


「エラ、これ、どう!?」


「……ど、どうって……??」


 突然の事にエラは戸惑う事しかできない。青年は「『これ』って…」と苦笑しながらエラに向かって背筋を伸ばした。


「レナード・リー・フィンドレイよ、エラ。」


 姫が紹介すると、レナードと呼ばれた青年は片手を胸にあててエラに頭を下げた。


(____!)


 エラは身を引き締めた。フィンドレイ家は国の三大貴族の内の一つである。


「え、エラ・ド・ホールです。」


 エラも慌てて挨拶した。


「どうぞよろしくお願いします。……では、私はこれで……。」


 そそくさと逃げようとするレナードの首根っこを姫が強引に掴んで、再びエラの前に突き出した。


「すぐ逃げようとしないで!せめて一回だけでもエラと踊ってよ!あなた私にこの間の借りがあるでしょう?」


「借りの総数でいったら殿下の方が圧倒的に多いと思うんですが、」


「つべこべ言わないで、言う事を聞きなさい!エラに気に入られなかったら、最低限あなたの友達を紹介しなさい。」


 「良いわね!?」と姫はレナードに、睨みつけた。姫はすぐに誕生日を祝う貴族の群衆に飲み込まれていった。

どうやら姫はレナードとエラをくっつけようとしているようだった。エラはちょっと気まずくなった。

「ふー……やれやれ」と、レナードは面倒臭そうに首をかく。


「あの、フィンドレイ公子様。」


「レナードで構いませんよ。」


「……レナード様。申し訳ございません、私のせいで大切なご学友との談話を妨げてしまいましたわね……。あの、姫様には上手く取り繕いますので、戻っていただいても差し支えありません。」


「ははっ、気にしないでくださいよ。殿下の突発的なご命令はよくある事です。ここは一曲、お姫様のご機嫌をとるためにも共に踊りましょう。それに、男としては、美人と踊れるなんてむしろ暁光(ぎょうこう)ですよ。」


 レナードはウインクした。

 エラは顔が真っ赤になった。


 レナードは柔和な笑顔を浮かべ、物腰が柔らかい。話しやすそうな人で、エラは密かにほっとしていた。

 レナードは片手をエラに差し出してくれた。


「?どうされました?」


「……いえ、その……私、空中で踊るのが苦手でして。そもそもダンスがあまり得意ではないのです。……あ、いえ、下手という程ではないと思うのですが…。」


 エラは言葉を濁す。フィンドレイ家の子息を前にしてダンスが下手だとは思われたくない。しかし、レナードの前にも3回踊ったのだが、エラは空中での踊りに慣れる事ができなかった。


「そうですね……。それでしたら、ちょっとこっちに来てくれますか?」


 レナードは少し考えた後、エラの手を引っ張った。


「??」


 エラはレナードに引かれるがままについていった。

 レナードはホールの出入り口とは正反対の方角にある扉まで来て開けた。その扉の先には外庭があった。そこには誰もいないかと思いきや、意外にも何人かの貴族達が(たむろ)していた。ホール内の光の粒が庭でも浮いていて、夜ではあったが、暗くなかった。


「ここ、いつも若者の溜まり場になっているんですよ。休憩だとおもって軽い気持ちで踊りましょう。宙に浮かぶ必要もありませんよ。」


 魔法なのか、外に出ても不思議と音楽が聞こえてくる。

 今、さっきまで流れていた曲が丁度終わった所だった。レナードがエラの手をとると同時にすぐに次の曲が始まった。

 エラが好きな曲だったので少しだけ気持ちが和らいだ。

 周りの同年代ぐらいの若者達も一部が踊り出す。が、ホールの中の時とは明らかに雰囲気が違っていて、次々とペアの相手を変えたり、喋るのに夢中でほとんど体が動いていなかったりと、かなりカジュアルに踊っていた。


「まだ緊張します?」


「すみません、相手がフィンドレイ家のご子息とあっては、どうしても……。」


「息子といっても次男ですけどね。」


「……っ!」


 エラの足が絡まって体の重心が前に傾いた。


「おっと!」


 レナードは手慣れた様子でエラを抱き止めてすぐに体勢を整えた。


「なるほど、不得手というのは謙遜ではないようですね。」


「も、申し訳ございません……。」


 レナードはいたずらっぽく笑った。

 場を和ませるかのようにバイオリンの高音が鳴り響く。エラがこの曲の中で一番好きなフレーズだった。

 エラはしばらくの間曲に心酔しながら集中して踊っていた。レナードは、エラの目から見てもかなりのダンス上級者のようだった。彼はただ黙って微笑みながらエラのたどたどしいダンスにあわせてくれた。


 ふと、エラは途中で我に返った。


(何をやっているの私ったら!せっかく姫様がレナード様を紹介してくださったのだから、少しでも親しくなれるように話をしないと。レナード様だってきっとダンスより会話をメインでするためにここへ連れてきてくださったんだわ!私がダンス下手なせいで気を遣って話さないでくださっているのね。私ったらなんて気が利かないのかしら。)


「あの……!」


「はい?」


「私の家はホール家なのですけれど…。」


 数年前まで小貴族に降格されたホール家は貴族の間ではよくない意味で有名である。しかしエラが自己紹介をした時、レナードは全く反応がなかった。彼はホール家の事を知らないのではないかとふと思った。


「存じ上げていますよ。」


 レナードはあっさり頷いた。


「何も思われないのですか?」


「特には気にしてませんよ。」


 レナードはニコッと微笑んだ。エラは何も言えなくなった。


(あーもう!私の馬鹿!全然話を膨らませられないじゃない!変な事聞くんじゃなかったわ!)


 エラは何か話題はないか頭を回転させた。


「そういえば、他の方々は皆お知り合いなのでしょうか?レナード様もここへ来るまでに何人かの方に挨拶していらしたわよね。さっきだってご学友とお話ししていたと。」


「まあ、こういった会合は大体同じような顔ぶれになりますからね。スクールもほとんど同じですし。」


「スクールって……もしかして、マクファーレン校の事ですか?」


「ええ、そうですよ。」


 エラの問いにレナードはすんなりと頷いた。エラは目を大きく広げた。


 マクファーレン校は貴族の学校の中でも国1番に頭の良い学校である。特に男子は学だけでなく、剣の道も優れていなくてはならない。毎年多くの貴族達が門戸をたたくが、それを通り抜けられるのはほんの一握りだ。入学できるだけでも栄誉ある事である。


「す、すごいです……。あのマクファーレン校に通っているだなんてとても優秀なのですわね。」


「そうですね、私…というよりは、級友が皆優秀で素晴らしい人たちです。私も日々学ばされていますよ。」


 レナードは特に鼻にかける様子がない。普通ならばもっと自慢しそうなものだ。事実、さっき話をした貴族の中には同じようにマクファーレン校に通っている、もしくは卒業したという人達がいたが、自分がどれだけの功績を残したかを延々と語っていた。


(自慢話をするだけの価値もない相手だと思われているのかな……。)


 ぽつりと頭の中で呟いてしまう。

 その後もエラは、なんとかレナードに気に入られようと話を広げた。さっきまで他の貴族達にやっていたように、家系がどうだとか、得意な事がどうだとか、とにかく情報を引き出してレナードを褒めちぎる事を画策した。しかし、レナードは他とは違い自分をよく見せる事にあまり興味を示さなかった。それどころか、話せば話すほど、レナードの紳士的な人間性にこっちが感服させられた。



 _そうこうするうちに、流れていた曲の最後のフレーズが静かに終わった。

 レナードは終始笑顔でいてくれたが、結局の所、会話は盛り上がらなかった。ダンスパーティーでは通常、初めて会う相手と2回まで共に踊って良い事になっている。しかし、会話の盛り上がらなさから考えて、レナードがもう一度エラと踊ってくれるとは思えないし、今後付き合う事にもならなそうだった。これが終わったら、レナードはさっさと友人の元に帰ってゆく事だろう。

 徐々に消えてゆく弦の音色の余韻が今のエラには心地悪かった。姫がわざわざ紹介してくれた相手だけに、エラは悔しさすら感じていた。


「エラ様。」


 曲が終わると共に、レナードは何か言いたげにエラの名前を呼ぶ。


「あ、!あのまだ、他にも話したい事が……あって……。」


 エラは咄嗟にさえぎった。しかし、すぐに押し黙った。何か盛り上がるような話題を、と考えれば考える程わからなくなってしまい、頭が真っ白になったのだ。

 レナードは小さく、ため息をついた。エラは恥ずかしくなって顔を真っ赤にした。


「エラ様、お互いに()()()()()()話を盛り上げようとするのはやめませんか?」


「……え?」


「つまらない『お貴族の話』は終わりにしましょう、と言いたいんです。出自がどうだとか、学校の成績がどうだとか、優秀だからどうだとか、心底つまらないです。」



「で、でも……だって……」


「おまけにダンスも、はっきり言って酷いです。」


「____っ」


「もし人並みだとお思いになっているのなら、それ以下である事を自覚した方が良いと思います。」


 レナードはまるで人が変わったかのように悪しざまに言った。エラは泣きそうになった。そこまでレナードを不快にさせていたとは思わなかった。


「それから……」


 エラは反射的にぎゅっと目をつむった。



 _と、ほぼ同時くらいだろうか。


 静かな弦の低音が聞こえてきた。次の曲に入ったのだ。

 そして、最初の1フレーズでエラはこの曲が、何の曲かわかった。

 エラが最も好きな曲__『愛の歌声』という曲だった。


「エラ様は音楽が好きでしょう?」


「……へ?」


 また何か毒を吐かれるのかと思っていたので、思わず間の抜けた声が出てしまった。


「俺も音楽が好きなんです。この曲は特に。」


 レナードはエラに手を差し出した。


「もう一回踊りませんか?今度はつまらん話は抜きで。」


 レナードは、さっきと変わらない爽やかな笑みを浮かべた。


<作者フリースペース>


ここまでお読み下さった方、感謝感謝です!!


空中でダンスを踊る描写がありますが、女性はスカートの中にショートパンツを履いています(重要)!


一応本文でもちゃんと書きましたが、誤解があるといけないので、再度ここで書かせていただきました^^;


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