エラは城内で姫に再会する
＜あらすじ＞
女王に復讐するため、城に忍び込む事に成功したエラ達。しかし、そこでエラは姫に再会する。
＜人物紹介＞
エラ（20）…黒髪黒目のイシ族の美女。下級貴族ホール家の一人娘。女王に『体の大切な部分が徐々になくなっていく呪い』をかけられてしまう。現在顔、視力、髪、片肺、子宮、美しい声を奪われている。醜い顔を隠すため頭にカゴを被っていてボウシ族と間違えられる。また視力はないが、魔法で「どこに何があるか」はわかるようになった。更に、対象物の『内包的なもの』もわかるため、人の感情、物の役割、本の内容などもわかる。周りからは『イシ』『女イシ』と呼ばれている。
『白い教会』•*¨*•.¸¸☆*・゜
針鼠（16）…金髪碧眼で、耳の長いノドム族の男。壊滅した『白い教会』のリーダーで元王子。常に、頭にバンダナを巻いている。
弟ドラ（39）…大柄な虎頭の獣人。気性が荒い。
蜘蛛（25）…茶髪のノドム族。針鼠の側近。冷静沈着。
神父（35）…白髪で耳の長いノドム族。白い教会の神父。
翡翠（12）…緑髪のドワーフの少年。寡黙。
白銀（40）…翡翠の父。
貴族•*¨*•.¸¸☆*・゜
レナード・リー・フィンドレイ（19）…金髪赤目で、耳の長いノドム族の男。大貴族フィンドレイ家の次男。金髪をいつも後ろで縛っている。女王の1番のお気に入りであったがエラに恋してしまい、女王に魔法で殺された。
女王（36）…金髪赤目で、耳の長いノドム族の女王。綺麗な女性だが、周りの貴族とうまくいかず常に精神不安定である。エラの事を、レナードを誘惑したと思い、深く憎み呪いをかけた。
姫（17）…金髪赤目で、耳の長いノドム族の姫。ふくよかな体型で、顔にそばかすがある。友達のエラの事を大切に思っていたが、母親である女王を優先し、エラが呪いをかけられるのをただ黙って見ていた。
姫はエラを見て長い耳がピンッと立つ。
「だ、誰！？ボウシ族の……平民……？ なんでこんな所に……？？」
「……。」
姫はこちらを見るが、エラである事には気づいていないようだった。エラはつい黙ってしまう。
女王に呪われた日、姫が弁護してくれれば＿嘘をつかなければ、レナードが死ぬことがなかったかもしれないし、エラが呪われることもなかったし、叔父夫婦が豚に変えられてしまうこともなかった。
エラは今、かつてない怒りを感じた。今すぐ魔法で姫を呪ってやりたいとすら思った。
だが、それで手が出てしまう程自制心がない訳じゃなかった。エラが身勝手に振る舞えば針鼠達の作戦に支障が出てしまう。エラは落ち着いてどう対応しようか考えた。
「いえ、平民がここに居るはずないわ…！も、もしかして、本物の死神？」
だが、何か言う前に姫が聞いた。
「私を向こう側へ連れて行こうとしてるの？」
姫は震える声で言う。エラは少し考えてからゆっくり頷いた。姫が怖がって逃げてくれると思ったからだ。
だが、期待に反して姫は動かない。震えているが、逃げるそぶりを見せなかった。
「やっぱり、そうなのね……。」
（……やっぱり？）
姫は噴水に腰掛けたまま脱力する。
「さっき、レナードに似ている人とダンスを踊ったの。その時思ったわ。今夜は何かあるって。悪い事をした罰がようやく下されるのね……。……でも、お願い、死神さん。私を殺す前に私の話を聞いてください。言い訳をしたいんじゃないわ。ただ、話を聞いてほしい。誰にも話す相手がいなかったから。」
「……。」
エラは無言で頷いた。そうしなければいけない気がしたからだ。
「私は友達を裏切ってしまいました。私の行いのせいで一人は死に、一人はおぞましい姿になってしまいました。私はずっとあの日の事を後悔しています…。」
（……！！）
姫は胸の前で手を組む。泣きそうな顔で長い耳をペタンと閉じる。声は震え、今にも消え入ってしまいそうだった。
「私の友達＿エラは、少し気弱な所があるけど優しい子でした。だけど、あのダンスパーティーの日、お母様にいわれのない疑いをかけられて貴族に罵られて呪いをかけられてしまいました。私はあの時、エラをかばうべきでした。…でも、あの時お母様もまた追い詰められていた。敵が多く、味方の貴族たちもいつ手の平をひっくり返すかもわからないお母様はいつも孤独でした。あの時、私がお母様の味方をしなければ、きっとあの場で責められていたのはエラではなく、お母様でした。」
「……。」
姫は震える手で頭を抱えた。小さく嗚咽をもらす。
「＿＿＿いえ、それは言い訳に過ぎません。本当は結局の所、私はお母様が怖かったんです…！お母様が癇癪を起こす度に私は頭がいつも真っ白になっていました。とにかく、お母様の機嫌を損なわないようにといつもビクビクしていました。お母様のために、なんて本当は嘘です……。本当はあの人の事が怖くて怖くてたまらなかった。私は自分勝手な人間なんです！エラと仲良くしたいと思ったのも……あの子の家族を想う気持ちに共感『した』のでなく、『したい』と思ったからです！ 家族を大切にしている自分に酔っていただけです！ それに、エラを無理矢理自分の誕生日パーティーに誘ったのは……本当はエラのためじゃなくて自分のためなんです……！ 私を陰で馬鹿にする他の子達に、自分はこんなに綺麗な子と仲良くしてるんだって見せつけたかっただけなんです。」
姫は頭を抱えて泣いた。これ以上は何も言わずにひたすらに泣き続けた。
エラはいつの間にか、腹の底の怒りがおさまっていた。
勿論、姫の懺悔を聞いた所で、エラは彼女を赦すつもりはない。
だが、もう姫を怒りに任せて呪ってやりたいとは思っていなかった。
（針鼠、あなたは弱い人間が嫌いだわ。きっと針鼠だったら姫様の事を心の底から軽蔑し、泣いて同情を誘うなと言ってその場で斬り伏せようとするかもしれないわね。……だけど、この世の中に弱くない人間がどれほどいるの？ 私だって、もし今も父と共に過ごしていたら、姫様のようにずっと親の顔色を伺ってビクビク震える毎日を過ごしていたと思うわ。私も、姫様と同じ、弱い人間なのよ。でもね。そんな弱い自分もまた受容したいと思っているの。勿論、強くありたいと思うわ。……一方で弱い自分を受け入れたいとも思っている。……これって矛盾なのかな？）
エラは心の中でそっとここにはいない友人に語りかけた。
そのままエラは何も言わずに静かに立ち去ろうとした。
「死神さん……？ 私を連れて行かないの？」
姫は涙に濡れた顔をあげる。エラは首をふって立ち去ろうとする。
だが、急に姫ははっと目を開いて立ち上がった。
「……エラ……！？ エラなの……！？」
「＿＿＿」
エラは一瞬、呼吸が止まる。その反応を、姫は肯定ととらえた。姫は地面に膝をついた。
「ああ……！ エラ……！ 生きてたのね……！ 良かった！」
「……姫様……。」
たった一言、エラは言葉を喋った。だが、その一言は、エラのかつての美しい声ではなくしわがれた声だった。エラのカゴに隠された頭が今どうなっているのか姫は想像すらしたくない。姫は苦痛に顔を歪ませた。
「姫様、私はあなたを赦す事はできません。」
「……。」
「そして、これから姫様にとって残酷な事をしようとしています。どうか私の事をもう友達だと思わないでください。」
「私を、殺すの？」
「……いいえ。」
「……お母様を……？」
エラは静かに頷いた。姫はなおも涙を流し、何も言わない。姫がこの事を女王にバラすかもしれない、と思わなくもなかった。だが、この時どうしても姫には打ち明けたいと思った。
エラはゆっくり後ろを向きテントへと戻ろうとした。しかし＿＿
「＿＿待って！！ お母様はあなた達を罠にはめようとしているわ！！」
姫が叫んだ。
•*¨*•.¸¸☆*・゜
「＿＿なるほど、お前が『白い蝶』達が言ってた奴か。」
女王は美しい顔に冷酷な笑みを浮かべて笑う。
「……？」
青年＿針鼠は怪訝な表情になる。ふふっ……と女王はなおも含み笑いを浮かべる。
「蝶達に教えられなくとも、お前の腹に一物あるのはわかる。」
「＿＿＿＿ッ」
突然、針鼠の右腕に激痛が走る。針鼠の右腕に薔薇の大きく太い茎が伸び、きつく絡みついていた。右手に持っていたナイフが地面に落ちる。
「知ってる？ 強力な魔法使いは目以外の方法でも世界が見えるの。お前の悪意は目に見えてわかっていた。」
棘が右腕に食い込み、骨がきしむ。女王は「ああ、いい男ねぇ。」と言って苦痛に悶える針鼠の顎を引き上げる。
「＿男を失った悲しみはまた男で補えばいい。普段は拷問と性欲は別で楽しむけど、お前は苦しみに耐えている顔が一番燃えるわ。」
針鼠は拘束されていない左腕で女王に殴りかかろうとした。だが、その前に左腕も茎で掴まれてしまった。
「＿＿針鼠！！」
物陰に隠れていた蜘蛛達が飛び出してくる。白銀がファルシオンで茎を切り、針鼠の腕を解放する。蜘蛛が針鼠にロングソードを投げ渡した。
「クソッ……兵士たちが助けに来る前にさっさと片付けるぞッ……！！」
弟ドラが斧を構えて叫ぶ。
「助けなんかいらない。私はお前達がいる事もわかっていた。私だけでたっぷりとお前達をいたぶってやる。」
女王は目を細める。すると、外庭中の地面がまばらに黒ずみ始めた。
針鼠達は周囲からの異様な気配に気づき、警戒する。
「さあ、この無礼者めらを好きなだけ食い散らかしてしまいなさい！！」
＿＿大量の魔獣が黒ずみから這い上がってきた。
