怖い噂ばかりの女王様。初めて会って挨拶したけど…
__女王陛下だ。
初めて見る女王はエラが思っていたよりも若く美人に見えた。しかし、目はとても冷ややかでエラの背筋を凍りつかせた。心臓が早鐘のように鳴っている。今にも止まりそうだった。
「はしたない真似はおやめなさい。もうあなたも17になるのですから、一国の姫として相応の振る舞いを心がけなさい。」
「ごめんなさい……。」
女王が冷たい瞳で睨みつけると、姫はしゅんとなり長い耳が垂れてしまった。女王はすぐにエラの存在に気づき、視線を向けた。エラは心臓を貫かれたような気持ちになった。
「あら、あなたが姫のお世話係の……エラ・ド・ホールでしたよね?」
エラは緊張で動かない体にムチ打って、スカートをつまみ、片方の足の膝を曲げる。
「おは、お初にお目にかかります。我が国の太陽のご尊顔を拝し、恐悦至極に存じます。」
「姫から話は聞いています。姫と仲良くしてくれてありがとう。」
エラは目を大きく広げた。
あの女王が、エラにお礼を言って、
_そして、微笑んだのだ。
エラはずっと女王は血も涙もない冷酷な人だと思っていたので、まさか優しく微笑まれる日が来るとは思っていなかった。
「と、とんでもございません!私の方こそ姫様と懇意にしていただき大変嬉しく存じます!」
「ふふっ、ホール家の娘と聞いていたから心配していましたが、礼儀正しそうな子で安心しました。これからも精神誠意姫に尽くすよう、日々精進なさい。」
女王は再び微笑むと、優雅な足取りで女王の椅子に腰掛けた。
それが合図かのように、帽子を深々と被った四頭身くらいの人々が楽器を取り出し、三拍子の音色を奏で出した。
そして、貴族達も動き出した。お菓子をつまむ者もいれば、他の貴族に挨拶してまわりだす者もいた。しかし、多くの貴族達はダンスを踊り始める。彼らは魔法の靴で階段をあがるように宙に浮かぶ。中には小さく見える天井まで上っていって踊る者もいた。さまざまな色のスカートが音楽に合わせて一斉に舞って、花園の蝶々のようだった。
ロウサ城のダンスパーティーでは特別にこの魔法の靴を履き、スカートの下にショートパンツを着用するようになっている。空中で踊るのは、エラは初めてだ。普段の彼女ならば緊張したり不安になったりしているところだが、今はそんな事など吹っ飛んでいる。それだけ、女王の姿が印象的だったからだ。
「……ねえ、エラ。お母様の事、どう思った?」
姫が前触れもなく聞いてきた。
「ど、どうって……?」
エラは思わず聞き返した。
__思ったよりも普通の人だった。
正直そう思っていた。エラは意表を突かれてドキドキした。
「私ね、本当はエラがお母様の事を怖がってる事、知ってるの。」
エラの心臓がドクンとはね返った。姫は少し不安げな表情だった。
「エラだけじゃないわ。他の子達も大人も皆お母様の事を恐れているの。」
「__」
「で、でもね!それは本当のお母様じゃないのよ。今だけ少しきつくなってるだけでね。_お母様はまだ若くて女だから周りの貴族達に軽んじられてしまう事が多いの。それに、私も、……ほら、私ってグズで頭も悪いでしょ?だから裏で馬鹿にされる事も多くて…。」
エラはすぐに否定できなかった。
自分の身の周りでは直接言っている人を見た事がない。が、女王や姫が周囲からどういう評価を受けているのかはなんとなく察していた。嘘ついてまでそれを否定して、姫を励ます程エラは器用ではなかった。
「お母様は私を守るために必死で、ちょっと攻撃的になっているだけで、本当は優しい人なの。噂だってある事ない事色々言われてるみたいだけど、誰も本当のお母様を知らないだけよ。でも、そのせいでお母様は孤立してますます周りに意地悪な部分を見せてしまう。私……私ね、エラ、……前に、育て親に恩返ししたいエラがすごいって言ったでしょ。」
エラは小さくコクリとうなずいた。
「……あれね、私も同じなの。私も、たった一人で私をここまで守ってくれたお母様にいつか恩返ししたいわ。だから、あなたと仲良くしたいって思ったのよ、エラ。だからお願い、あなただけでも本当のお母様を知っていてほしいの。」
エラは息をのんだ。姫がそんな思いを胸に秘めていたとは思わなかった。姫は普段人並み以上に明るく振る舞っているが、そういう一面を周りに見せているに過ぎなかったのだ。
三拍子の優雅な弦の音色と、貴族達の会話の声が一瞬遠のいたように感じた。
不安そうな姫にエラはゆっくりとうなずいて見せた。
「申し訳ございません。私、誤解していたみたいですわね。女王様の事_、姫様の事も。」
エラは姫を支えたい、助けたいと思った。
口がうまくないなりに、考え考えゆっくりと喋った。
「姫様は、父の素行のせいで零落したホール家の娘である私を、家柄や背景にこだわらずに気にかけてくださいましたわ。そのように素晴らしいお方が、女王様の事を素晴らしい方だとおっしゃるのなら絶対にそうなのだと思いますわ。たとえ今苦しい状況でも、いつかきっと姫様や女王様の素晴らしさを他の方達も理解してくださるはずですわ。ですから、これからも姫様の味方としてお傍で姫様を支えさせてください。」
姫は、耳がピンと跳ね上がり、顔を輝かせた。
「エラならそう言ってくれると思っていたわ!じゃあ、これから私達、本当のお友達になれるかしら?」
「そ、それは……その……。恐れ多いかと……。」
「だめ…?」
エラは何も言えなくなってしまった。姫を支えたいと思ったが、友達になるというのはさすがに恐縮だった。姫は少し残念そうな顔をする。
「まあ今日はもういいわ。でも、いつかは本当の友達になってくれるって言ってね。」
姫はウインクした。エラはホッと胸をなでおろした。
それからしばらく、エラは上級貴族達に挨拶してまわった。
中にはホール家の名前を口に出すと顔を曇らせる者もいたが、大抵は下級貴族相手でも優しく接してくれた。姫は「エラが綺麗だからよ。」と言った。本来エラは人と交流するのが苦手な性格である。しかし、今日は姫が連れ回してくれて、色々な人に話しかける事ができた。
中にはある令嬢に興味をもたれて、今度エラをお茶会に誘ってくれると言ってくれた人もいた。
白馬の王子様にいきなり結婚を申し込まれるような事こそなかったものの(そもそもエラは全然期待していなかった)、大きな収穫が得られたと思った。
(姫様には感謝してもしきれないわ。支えたいと言ったばかりなのに、姫様に与えられてばかり。私も何か姫様にできる事はないかしら?)
そんな事を考えながら他の貴族達と話し込んでいると、姫が何か喋りながら、乱暴に誰かの手をひっぱってきた。
(……??)
姫の方に視線をやると、姫が引っ張ってきたのは同い年くらいの青年だった。姫や女王と同じ、金髪で赤い目の、耳の長いノドムだった。
「あー殿下。恐れながら私は級友と大事な話をしておりまして……」
「魔法学がどうだとか、線形代数がどうだとか、つまんない勉強の話してるだけじゃないの!そういうのは学校の授業でやりなさいよ!今日は私が主人公なんだから私の言う事を聞きなさい!」
青年は少し長めの金色の髪を後ろに縛っていて、端正な顔立ちをしていた。困ったように微笑みながら、向こうに戻ろうとするのを姫が無理やりこっちに引っ張っている。
「エラ、これ、どう!?」
姫はエラの前に青年を突き出した。
<作者フリースペース>
ここまでお読みくださった方、ありがとうございます!
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