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お風呂ハプニング!?

<あらすじ>

革命に敗れ、エラ達は『迷いの森』で針鼠が回復するまで生活することになった。


<人物紹介>

エラ(20)…黒髪黒目のイシ族の美女。下級貴族ホール家の一人娘。女王にかけられた呪いで不細工になっているので頭にカゴを被っていてボウシ族と間違えられるようになる。目が見えなかったが、魔法で「どこに何があるか」はわかるようになった。更に、対象物の『内包的なもの』もわかるため、人の感情、物の役割、本の内容などもわかる。周りからは『イシ』『女イシ』と呼ばれている。


『白い教会』•*¨*•.¸¸☆*・゜

針鼠(16)…金髪碧眼で、耳の長いノドム族の男。壊滅した『白い教会』のリーダーで元王子。


貴族•*¨*•.¸¸☆*・゜

レナード・リー・フィンドレイ(19)…金髪赤目で、耳の長いノドム族の男。大貴族フィンドレイ家の次男。金髪をいつも後ろで縛っている。女王の1番のお気に入りであったがエラに恋してしまい、女王に魔法で殺された。

女王(36)…金髪赤目で、耳の長いノドム族の女王。綺麗な女性だが、周りの貴族とうまくいかず常に精神不安定である。エラの事を、レナードを誘惑したと思い、深く憎み呪いをかけた。

 それから2日経過した頃、針鼠の容体が好転した。『魔法使いのうろ』の回復の効果が効いているのだ。

 骨にひびがはいったのか動かなかった左足や、肋骨の痛みが和らいだ。痛々しかったあざや傷が良くなっていた。

 針鼠の口は相変わらず悪かったが、エラは一緒に過ごしいく内に段々流し方がわかるようになっていった。


 また、その頃、エラは書斎で一冊の魔術書を見つけた。正確には、魔術書は他にも大量にあった。魔術書があれば、新しい魔法を覚えられる。だが、どれもはっきりと、危険な本だというのが頭に伝わってきて手を出せないでいた。だが、この魔術書だけは違う。この本は魔法使いの書斎の机上に、一枚の手紙と共に置いてあった。手紙は所々文字の書き方がわからない幼児のようにぐちゃぐちゃと書かれていた。手紙にはこう書いてあった。


 『この森に迷い込んだ者へ。この場所を見つけたと言う事はきっとあなたは名のある魔法使いなのだろう。私はもうここを使う事はないので、あなたの憩いの場として喜んで提供する。ここにある物を存分に使うとよい。ただし、あなたが高名な魔法使いである事を承知であえて述べると、ここにある魔術書を読む時はくれぐれも注意して欲しい。読んだ後、人である事を保てなくなる物が少なくない。だが、この一冊の本だけは比較的安全である。目で読めばそれが焼かれて潰れるだけだ。あなたならば目以外の方法で読む事ができるだろう。これを是非役立ててほしい。』


 手紙の文字が、書き方がわからない幼児の物ではなく、なんらかの理由で書き方を忘れた者の字なのでは、という考えが一瞬エラの脳裏をよぎった。

 そんな事はすぐに忘れて、エラは机上の一冊の本を手に取る。これを読めば、魔法に関する知識が増える。

エラは少し葛藤した。

 黒目が言うには、魔法を使うたびに体が疲弊し、呪いの進行が早まるという。つまり、魔法を覚えて使おうとすればする程エラの寿命は減るのだ。


(……今更じゃない。私はとっくの昔に覚悟を決めたわ。)


 エラは迷いを振り払った。


 更に、3日後には針鼠は立って歩けるようになるまで回復した。残念ながら左腕は深い傷のせいで指が麻痺し動かない。その他数カ所まだ痛むらしく、まだ普通に生活するには支障がある。だが、それでも、この短期間でこれほど早く回復できたのは驚くべき事だった。


「この分ならここを出ていけそうだな。今日王都へ出発しよう。」


 針鼠が言うと、エラは猛反発した。『迷いの森』にどんな危険が待っているかわからないのに、中途半端に回復した状態で出発できない。エラでさえ、沼の周りしかよくわかっていないのだ。また、王都に万一たどり着いてもそれはそれで命を危険にさらされる。

 口論した末、もう1日様子を見るという事で話がまとまった。


(針鼠って無鉄砲ね! あれで本当に『白い教会』のリーダーだったのかしら?)


 その日の夜エラはまだ気が立っていた。

 針鼠は目的を優先しすぎて、自分の命を粗雑にしている。今日の出発はエラがなんとか止めたが、針鼠の方はかなり渋々だった。明日はもう彼を止める事はできないだろう。エラは針鼠のことが心配だった。


(ずっともやもやしていても仕方がないわね。風呂につかって気分を変えましょう。)


 エラは大浴場へむかった。『魔法使いのうろ』には大浴場がある。大貴族の邸宅にありそうなくらいの大きく豪華な浴場で、風呂の中心には男性の彫刻が飾られている。この浴場にも魔法が施されていて、入ると、たちまちお湯が満ちて、壁からもお湯が無限にふきでた。ちなみに、エラは初日らへんは水を湖まで取りに行っていたが、途中からここで手に入れられることに気がついた。最近では魔法で水を出せるようにまでなっていた。

 エラは魔術書を手に入れて以来、新しい魔法を少し練習した。食糧調達が最優先事項だったためそんなに時間をさけられなかったが、確かにできる魔法が増えた。たとえば、水を出したり、武器の強度をあげたりできるようになった。魔法を練習していく内に、魔法はただ唱えればできるものではないというのがよくわかった。イメージや魔力の込め具合、手の動きなど、技術が必要だった。


 エラは脱衣所につくと、頭のカゴをおき、服を脱ぐ。エラは自分の体を手で触って確認した。


 今日に至るまで、やはりエラに変化がなかった。見た目だけでいったら呪いは進行していないのだ。エラは少し不可解に思ったが、この状況をありがたいと思い受け入れた。

 エラは一通り自分の体を確認すると、大浴場の扉を開いた。その間も黙々と考え事を続ける。


(明日ここを出ていくにしても荷物を整理しなきゃね。食糧は何日分で、道具はどんなのが必要なのかしら? 慎重に考えないと……。水も持って行った方がいいわよね。いくら魔法で出せると言っても、無限じゃないもの。それにもしかしたら、途中で私が死んでしまうかもしれないし___)


 エラはふと足を止めた。


 目の前には大きなお風呂がある。

___そして、その風呂には針鼠が入っていた。じいいいいっとこちらを見ていた。


「きゃああああっ!?」


「いや気づけよ。」


「いや声かけろよ! 何息ひそめてじっと見てんのよ!」


 エラは咄嗟に自分の顔を隠すべきか、胸を隠すべきか、下を隠すべきかわからなくなり、


__ドボンッ


と風呂に入った。急いで彫刻の裏に隠れる。


「……さっさと出てってよ!!」


「やだよ。俺は普通に風呂につかってただけで、勝手に入ってきたのはイシだろ。なんで俺が気ぃつかって出てかなきゃなんねえんだよ。嫌ならお前が出てけよ。ま、俺は別に嫌じゃねえけどな。」


「で、出てくから向こう見ててよ!」


「やーだー。イシが勝手に俺の視界に入ってんだろー。」


(こいつッ……!)


 エラは怒りと羞恥で顔を赤らめた。エラの反応が余程面白いのか針鼠はいつになく上機嫌に笑う。


「なぁに? こっち見ちゃって、いやらし〜。男の裸に興味ある?おねえちゃん大人になったもんねぇ?」


「見てない! それに、男の裸なんて腐る程見てきたわ!」


「え、おねえちゃん見かけによらず結構遊んでたの?」


 針鼠が意外そうに驚く。


「違うわよ! あなたが動けなかった時、体拭いてあげたじゃない!」


 あー、と針鼠が納得したように頷いた。


「逆にそれ以外で見た事ないの?」


「……。」


 エラは無言で答えた。


「へー、イシって経験ないんだ。へー。」


 針鼠は何がそんなに面白いのか、心底愉快そうに耳をぴこぴこ上下させている。最近わかったことだが、針鼠は耳に感情が出やすい。


「うるさいわね! 嫁入り前なんだから当たり前でしょ!?」


「おねえちゃん、寂しいんなら俺が相手してやっても良いんだよ?」


(このッ……クソガキッ……!!)


 エラの頭に大量の怒りマークがつく。一方針鼠は眩しいくらいの笑顔だった。


「その分ならキスもまだでしょ?」


 針鼠は上機嫌でまだエラを煽る。


「あ、あたりま……」


 エラはそこで言葉が止まった。そういえば、エラはキスだけはしたことがあった。針鼠の心肺蘇生をしたとき、人工呼吸でキスをした。

 ガーンッとエラの頭の中で効果音が鳴り響く。


(初めて裸を見たのも……キスしたのもこんな……こんなクソガキなんて……。)


 エラはショックで頭がフリーズした。

 針鼠も気づいたらしく、ピンッ…と耳がたった。


「あ、もしかしてキスしたのって俺……」


「うっさい!! ばーか! ばーか! ばーか! ばーか! ばーか! ばーか! ばーか! ばーか! ばーか! ばーか! ばーか! ばーか! ばーか! ばーか! ばーか! ばーか! ばーか! ばーか! ばーか! ばーか!」


「うるせえ……。」


 エラはもっと針鼠から遠ざかろうと、壁まで移動し、彼に背中を向けて縮こまる。針鼠はこれ以上は何か言う気がないらしく黙って湯につかった。出ていく気はないらしい。


その後エラが、子供はノーカンじゃないか、と思い始めた頃、針鼠が口を開いた。


「そのリボン……。」


 エラは針鼠の一言でやっと気づいた。リボンをつけたまま気づかずに浴場にきてしまった。リボンは、チビがくれた紺色のリボンだ。チビにもらった日以来ずっとエラはこれで髪を縛っていた。結局カゴを被るので、針鼠はこの事を知らなかったのかもしれない。エラはリボンを置きに脱衣所に戻りたくなったが、やはり針鼠がいて動けない。

 ふいに針鼠がぽつりと言った。


「その……悪かったな。あんな事言って。」


「え……。」


 エラは絶句した。

 「あんな事」というのは、文脈から考えて、チビがエラにリボンをプレゼントした晩針鼠が罵倒した時の事だろう。針鼠の口から思わぬ謝罪の言葉が出てきて、エラは一瞬何を言われたのかすら理解できなかった。やがて、頭の中で咀嚼する。


「えぇぇぇええ!! 気にしてたの!!?」


 エラは思わず振り返りそうになるが、慌てて体の向きを戻した。一瞬針鼠の申し訳なさそうな感情が伝わってくる。本心で謝ったみたいだった。


「うっせえ悪いかよ……。」


 針鼠は若干逆ギレっぽい口調だった。だが長い耳はペタンと垂れ下がっていた。


「……いいえ。ちょっと意外で。」


 というかもっと他にも謝る事沢山あるでしょ、とツッコミたかったがあまりにも針鼠がしおらしかったのでやめた。


「……別に似合ってなくもねえよ。……その色、お前の黒い髪に……合ってると思う。」


「……たとえ本心でなかったとしても、嬉しいわ。きっとチビもうかばれる。」


「……。」


 針鼠はそれを最後に黙って立ち上がると、浴場から出て行った。


(子供ってやっぱりよくわからないわ……。)


 エラは心の中で呟いた。







.☆.。.:.+*:゜+。 .゜・*..☆.。.:*・°.*・゜ .゜・*..☆.。.:*・°.*・゜ .゜・*..☆.






 次の日の朝、針鼠は窓から差し込む日の光で目が覚めた。

 まだ体をよく動かしていないからよくわからないが、昨日よりは体調が良い、気がした。いずれにせよ、針鼠は今日こそは本気で『魔法使いのうろ』を出ていく気だ。


 寝室の入り口ではエラが立っていた。


「あら、今起こそうとしていた所よ。」


 エラは言った。針鼠はなんだか違和感を感じた。妙にエラの声の調子が明るかった。エラはいつものようにカゴをかぶり、相変わらず表情が見えない。だが、いつもと違っていた部分もあった。


_エラの腕に紺色のリボンがまかれていた。


「おい、それ……。」


 針鼠は最後まで言う事ができなかった。エラは針鼠が言わんとしている事がわかった。


「これね。髪にまくのもいいけど、結局カゴに隠れてしまうもの。()()()()()()()。」


「……呪い、か。」


「……。」


 エラの無言は肯定を意味した。

 女性にとって()()を奪われる事がどれだけ辛い事か、男である針鼠にだってわかる。それに、エラにとってチビの形見を飾る事のできる()()を奪われる事はこの上なく心苦しい事だろう。


「……大丈夫よ。むしろ、スッキリしたわ。いつ何を奪われるかずっとビクビクしていたんだもの。それに結局カゴで隠しちゃうから変わらないわ。」


 わざと明るく振る舞うエラに、針鼠はかけてやる言葉が見つからなかった。







<作者フリースペース>

ここまで読んでくださった方とありがとうございます!あと、ブックマークも新たにつけてくださった方もありがとうございます!!


今回はエラがなんで魔法で見えるようになったか補足します!

エラが『見える』のは魔法そのものとは少し違います。この世界では魔力が触覚や視覚などに次ぐ第六感的な位置づけです。黒目などの普通の魔法使いはこの感覚を「なんとなく」感じ取りながら魔法を使っています。しかし、エラは「目がみえなくなった=視覚に頼らなくなった」事ではっきりと第六感を感じ取るようになり、この力で世界が見えるようになりました。「魔法で見えるようになった」というよりも「元からある感覚に初めて気づいた」という感じです。魔力は元々強いのですが、この第六感をはっきりと認識できるようになった事で強力な魔法使いに成長していきます。




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