針鼠の過去。復讐への誓い。
<あらすじ>
革命に失敗し、仲間を失ってもなお女王への復讐を果たそうとする針鼠。エラは針鼠の復習の理由を聞く__
<人物紹介>
エラ(19)…黒髪黒目のイシ族の美女。下級貴族ホール家の一人娘。女王にかけられた呪いで不細工になっているので頭にカゴを被っていてボウシ族と間違えられるようになる。目が見えなかったが、魔法で「どこに何があるか」はわかるようになった。周りからは『イシ』『女イシ』と呼ばれている。
『白い教会』•*¨*•.¸¸☆*・゜
針鼠(?)…金髪碧眼で、耳の長いノドム族の男。壊滅した『白い教会』のリーダーで元王子。常に、頭にバンダナを巻いている。
貴族•*¨*•.¸¸☆*・゜
レナード・リー・フィンドレイ(19)…金髪赤目で、耳の長いノドム族の男。大貴族フィンドレイ家の次男。金髪をいつも後ろで縛っている。女王の1番のお気に入りであったがエラに恋してしまい、女王に魔法で殺された。
女王(36)…金髪赤目で、耳の長いノドム族の女王。綺麗な女性だが、周りの貴族とうまくいかず常に精神不安定である。エラの事を、レナードを誘惑したと思い、深く憎み呪いをかけた。
俺の母_エミリアは心の優しい人だった。
王の妃という身分でありながら、誰にでも分け隔てなく尊敬心を持ち、思いやりをもって接していた。王にはもう一人妃がいた。その女の性格は最悪だったよ。そいつはエミリアよりも優秀で、美しい女で、エミリアに負ける要素がなかった。それでもあいつは母を侮辱し嫌がらせをし続け、王妃の座から退けようとした。エミリアが王子を産んだのが余程気に食わなかったんだろうな。エミリアは嫌がらせを耐え続け、父王にも報告しなかった。俺は子供ながらにもう一人の王妃の事が大嫌いだったよ。
俺はある日、
「あいつがいなくなればいいのに。」
と言った。すると、母は言った。
「そんな事言ってはダメ。人間良い所と悪い所の両方を持っているものよ。私たちはあの人の悪い所を見ているだけ。あの人にもきっと素晴らしい部分があるのよ。」
とんだお人好しだな。もう一人の王妃は父王には性格の悪さを取り繕ったようだが、父はそれを見破っていたようだった。次第に母に愛情を傾けるようになった。だが母は、そんな父王に、二人の王妃を平等愛してくれと頼んだ。そうでなくてはもう一人の王妃がかわいそうだ、と。
その内に、父王は病で忽然と亡くなってしまった。亡くなる直前もう一人の王妃が『王家の指輪』を受け継ぎ、王位を継承した。
そこからが地獄だった。
あの女___女王は、王位に即位した途端、母と俺を捕まえた。罪状は『先王が病に伏せっているにもかかわらず、若い男と不義理の関係を結んでいた』だった。勿論、でっちあげだ。母エミリアは生涯父王を愛し続けた。あまりにも屈辱だった。貴族達はすぐに女王の側につき、母と俺には味方がほとんどいなかった。忠誠心の厚い者達が何人か味方してくれた。
だが、女王は彼らも母も捕まえた。そして、俺の目の前で全員、火炙りの刑にした。
母は泣きながら父と俺の名前を何度も叫んでいたよ。力尽きる最期の時まで。何度も何度も。俺は何もできずにただ見ている事しかできなかった。あんなに優しかった母や忠臣達を、残酷に殺してしまう世界そのものが受け入れられなかった。
あの日から俺の中に炎がある。ずっと俺を蝕み燃え続けている。ずっとその炎に焼かれて苦しくてしょうがない。ただ、あの女_女王が苦しむのを想像する時だけは痛みが和らぐんだ。あの女を殺せばきっとこの火は消える。
そうすれば、きっと消えるはずだ。皮膚が焼けただれる匂いも、パチパチと人間を焼く火の音も、母の狂ったような叫び声も、全部___
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針鼠はそこまで話して、ひ…ひひ…ヒ、とまたあの奇妙な笑い声をあげた。声は乾いていて、虚しい響きだった。
「その後、俺だけは国外への追放を言い渡された。まだ幼かったし、王の血をひく者だったからさすがに死刑にできなかったんだろう。だが、その道中山賊に出くわした。後でわかった話だが、それは女王の差金だった。山賊に殺されかけた俺を、密かに母を支持していた兵士が命懸けで逃がした。俺は再び王都に戻り、身分を隠し下級街の一画にあるギルド『歩く月』に転がりこんだ。当時はまだ国に吸収されていない、荒くれ者の巣窟だった。奴らはガキだった俺を快く受け入れたよ。知識もなく剣もろくに振れないガキの何を気に入ったと思う?__顔だよ。」
針鼠は、ヒヒヒッと口角を吊り上げた。
「信じられるか? まだ10歳だったガキにあいつら興奮してんだ! 詳しく聞きたいか?」
「……いいえ。」
エラは静かに首をふった。
「……そこからは、2年前『白い教会』に出会うまでずっと『歩く月』にいた。そこで剣の腕と人を殺す知識を身につけた。…俺の身の上話は終わりだ。」
針鼠は奇妙な笑い声をあげるのをやめた。エラはなんだか泣き終わった後みたいに感じた。
しばらく二人とも何も言わなくなる。やがて、エラは沈黙を破った。
「……あなたの事情は理解したわ。でも女王様は暴君だけれど、国の元首なのよ。女王様が今亡くなれば、貴族達の激しい権力争いの末にこの国はますます疲弊するわ。ひょっとしたら、そこを狙われて南の国のヒートンに攻めいられてしまうかもしれない。__大勢の罪の無い人々が血を流す事になってしまうわ。」
「……お前は俺を止めたいのか? あれだけの事をあの女にされてもなお、あいつを守るのか?」
「私が守りたいのは女王様じゃない! あなたよ!」
エラは思わず叫んだ。
「そんな重要な人を殺してあなた無事で済むと思ってんの? 大勢に憎まれて、想像もできないような残酷なやり方で処刑されてしまうかもしれないわ。というか、そもそもたった一人で復讐しに行くなんて無茶も良いところよ! なんのために私があなたを生かしたと思っているの? 女王様を殺して欲しいからじゃない。あなたに生きて欲しいと思ったからよ。……それが皆の願いだから。」
「……あいつらが俺に生きていて欲しいと願うのは俺に王になって欲しいからだ。それが叶わなくなった今となってはその願いは無効だ。」
「あなたに生きていて欲しいのは願いを託すためじゃないわ! 幸せになって欲しいからなのよ!」
針鼠から驚愕の感情が頭に流れてきた。
エラは革命前夜、針鼠が部屋を出て行った後に皆が話していた事を話した。皆最後には、針鼠に幸せになって欲しいと笑っていたのだ。エラはそれをどうしても針鼠にわかってほしかった。
語り終えたあと、針鼠から、初めて悲しみの感情が伝わってきた。針鼠の長い耳が少しだけ下がった。
「……それを聞いてもなお俺の気持ちは変わらない。俺は、自分のために生きる。周りがどう思おうとも、周りにどんな影響が及ぼされようとも俺は自分の決めた道を進む。」
「…………復讐は何も生まないわ。」
「……。」
「……そう。」
エラは力なく答えた。
わかっていた。針鼠は何を言ってももう止まる気が無い事ぐらい。皆の気持ちを知った所で針鼠は復讐を曲げる男ではない。
「___なら、私も行くわ!!私も…女王様に復讐するためにあなたについていく!」
「____っ」
針鼠は息をのんだ。エラは立ち上がった。
「勘違いしないでよね。あなたのためについていきたいなんて微塵も思っていないわ。私自身はあなたがどうなっても構わないんだから。これは、___私の戦いなのよ!勿論、叔父様と叔母様の事がある。女王様から解放して魔法を解いてあげたいわ!」
エラはカゴなしに自分の醜い顔がさらけだされているのにも構わず叫んだ。
「でもね、それだけじゃない!私にだって消えない炎が燃えてんのよ! 復讐は何も生まない? 結構よ! 誰の迷惑になろうとも世界中から悪魔と罵られようとも私は行くわ!そうでないと……そうでないと、もう誰も叫び続ける人がいなくなってしまう……! チビや昇り藤、黒目、皆の無念を__あの優しい人たちが確かにいたんだっていう事実を__叫び続ける人が! ……これが私のわがままだってのはわかってるわ。彼らは『白い教会』であった以上、こうなる日を覚悟していたのはわかってる。それでも私は納得ができない。たとえ、皆が復讐を望んでいなくても、私自身がそうしたいと望むから……だから私は復讐する!!」
エラは残りわずかな命である。黒目は、残された時間を何に使うか自分の頭で決めろ、と言っていた。ようやく今、結論が出た。もしかしたら、ずっと前から心に決めていたのかもしれない。
エラは針鼠に向き直った。
「だから、ここからは協力しあいましょう。あなたは自分の目的のために私を利用する。そして、私は自分のためにあなたを利用するわ。」
「……そうか。」
針鼠は、小さく頷いた。
「……イシ、…………………ありがとう。命を助けられた事にじゃない。もう一度……復讐する機会をくれた事に、感謝する。」
針鼠はそういうと、体力の限界が来たのか静かに寝息をたて始めた。
<作者フリースペース>
ここまで読んでくださった方ありがとうございます!ブックマークつけてくださった方も本当にありがとうございます!内容結構重めなのに読んでくださる人がいるのがとても嬉しいです…泣
今回内容についてちょっと補足しようかと思います(>人<;)
エラの考え
<革命前>人が望むから、革命に協力する
↓
<革命後>自分が望むから、女王に復讐する
という形に目的が変わっています!この目的の変更により、決して打ち解ける事のなかった針鼠との距離が縮まった、という流れでした!
以上補足です!次回…ついに針鼠の年齢があきらかに…!?(今更)




