第4話 アニメの世界とスキル
恭兵の意識と同時に次第に感覚が戻っていく。まるで再び肉体が構築されていくかのようだ。
これがあの世に行くときの感覚なのだろうか?
目を開けるとその先にあるのは華やかな自然が広がる天国か、暗闇に業火が広がる地獄か……。
どっちにしても恭兵は恐怖心から目を開けられない。
でも何かが変だ。
感覚が戻ると同時に自分の背後に硬くて冷たい何かが広がっていく。これはコンクリートとのような……いや、これはコンクリートだ。
車に撥ねられて地面に横たわっているのだろうか?
恭兵は恐る恐る目を開けた。
「……えっ⁉」
恭兵は上半身を起こし、周りを見回して愕然とした。
何故ならそこは二次元……周りがアニメの世界になっていたのだ。
場所は何処かの学校の廊下だった。
それ自体妙なことだが、それ以前に恭兵は周りを見て思ったことがある。
明らかに見覚えがある場所なのだ。
(いや、まさか……ん!)
恭兵の目に入ったのは、視聴覚室のプレート。
それを見て恭兵は愕然とした。
そのプレートは浩次の書いたノベルが原作のアニメ「芽愛の支配者」に登場した物と全く同じなのだ。
(……ああ、なるほど、俺は昏睡状態で、これは夢なんだな……)
恭兵は胡座をかいて勝手に納得することにした。
すると――
〈禿 恭兵の起床を確認しました〉
「えっ⁉ 誰⁉」
突然恭兵の耳に入ったのは男とも女とも取れる謎の声。その声に感情はあまり感じない。
恭兵はブンブンと激しく首を左右に振り周りを見るが、誰も居ない。
おかしいな、と頭をかこうとして左腕を上げた時、その腕にスマートウォッチのような物が取り付けられていることに気づいた。
黒い正方形のディスプレーのような物の真ん中には「25:00:00」と赤く表示され、上部には七つの緑色の四角いランプのような物が横に並んでいる。
横に1つだけボタンがあり、押すと表示されている数字が消え、もう一度押すと現れた。
「何だこれ?」
〈私はあなたのスキルナビゲーターです〉
恭兵がディスプレーを覗き込んだ瞬間、謎の声が聞こえ、それと連動してディスプレーの下の部分で青色の光が左右に伸び縮みするのが見えた。どうやらボイスインジケーターになっているようだ。
「スキルナビゲーター?」
〈はい。ご不明なことに関してお答えします〉
「それじゃ、ここは何処?」
〈ここは、あなたの兄である城之内 ハルこと禿 浩次、原作のアニメ「芽愛の支配者」の世界です〉
「やっぱりそうか……じゃ俺は今夢を見ている訳か……?」
〈正確には昏睡状態です〉
「昏睡⁉」
〈はい。あなたはこのままですと……〉
「このままだと……?」
〈死が確定します〉
「ガーン‼」
恭兵はその場で膝をつき、四つん這いになる。
「せめて彼女は欲しかった……」
〈目覚めるには――〉
「――目覚められるの⁉」
恭兵はバッと顔を上げ腕時計のスキルナビゲーターに向かって訊いた。
〈はい〉
「良かった……」
恭兵は涙を流して喜んだ。
〈ミッションをクリアすることで覚醒することが可能です。ただし、失敗すると死か確定します〉
「よし分かった! で、ミッションとは?」
〈ミッションは、このアニメのヒロインである相川 芽愛の純血を25時間守り抜くことです〉
「純血を25時間? 要するに、強姦魔からこのアニメのヒロインを守れ、ってことか?」
〈その通りです。更にミッションをクリアすれば、特典も追加されます〉
「特典ね……何か貰えるのかな? ――いいや、ミッションの内容は分かった。とりあえず、ここがあのアニメの中だとすると、やっぱり敵はあの秋葉って奴だよな……あっ!」
(――ってことは、先にあの秋葉とかいうふざけた変態教師をボコボコにすれば楽勝じゃん)
「……ん、待てよ! スキルナビゲーターって言うことは、今の俺には何か特殊なスキルがあるってこと?」
〈その通りです〉
「ちなみにどんなスキルを?」
〈禿 恭兵のスキルは……〉
「スキルは?」
〈『体力及び耐久強化』。これは普段より数倍も体力が強化されており、腕力などの攻撃力も向上、耐久力も強化されていますので、受けるダメージもある程度抑えられます〉
「いいね、次は?」
〈『飲食及び睡眠不要』。食事や睡眠が必要ありません。以上でスキルの説明は終了となります〉
「はーい、お疲れ様――ってショボ‼ 体力が強化されてるのは良いとしても、ほぼ丸腰じゃん⁉」
使えそうな使えなさそうな微妙なスキルに恭兵はツッコミを入れた。もう少し特殊な力を想像していたからだ。
(いや待てよ。秋葉も同じように丸腰か? じゃあ楽勝かな?)
恭兵は自分の顎に手を添えて考えた。
確かに特殊な力は無いが、それは相手も同じだからだ。
それなら今のスキルでも十分かもしれない。
そう考えていると――
〈次はユニークスキルの説明をします〉
「まだあったんかい⁉」
スキルナビゲーターのマイペースな説明に恭兵は腕時計型のディスプレーを睨みつけた。
〈ユニークスキルはスキルポイントを消費して使うスキルです。スキルのポイントの残量はこのナビゲーターウォッチの上部に表示されています〉
恭兵は腕時計のディスプレーこと――ナビゲーターウォッチの上の部分を見た。
どうやらこの緑色の七つのランプがスキルポイントの数のようだ。
「それでユニークスキルはどんなのがあるんだ?」
〈まずは『武器及びマシン召喚』。銃などの武器や車などを召喚することが可能です。ただし武器によって消費するポイントが異なります〉
「例えば?」
〈ハンドガンやナイフ類などの小型武器であれば1ポイントを消費。ライフルなどの大きな物は2ポイントが消費されます。マシンを召喚する時は3ポイント消費します〉
「ちなみにポイントは消費したら終わりなの?」
〈スキルポイントは30分ごとに1ポイント回復します〉
「武器召喚は良いね。どうやればいいの?」
〈まず「オーダー」と声明を出してから召喚したいものを指定してください〉
「じゃ……オーダー、ハンドガン」
恭兵は召喚を行ったが何も起こらない。
「どうなってんだ?」
〈曖昧なオーダーだったため召喚が失敗しました〉
「曖昧? あっなるほど。じゃあ改めて、オーダー、ベレッタ 92FS」
恭兵がオーダーするとナビゲーターウォッチに横にゆっくり回転するワイヤーフレーム状の拳銃・ベレッタ 92FSが映し出された。
〈ベレッタ 92FS、召喚します〉
スキルナビゲーターがそう言うと、恭兵の手に光が現れあっという間に拳銃・ベレッタM92FSへ変わった。
恭兵は試しに拳銃のスライドを引き、排莢口からマガジン内を覗いた。そこには間違いなく実弾が入っている。
恭兵は拳銃の安全装置を一度オンにすると、スライドを引いた時に起きた撃鉄が自動で戻る。
この拳銃は安全装置をオンにすれば自動で撃鉄が戻る構造になっているからだ。
撃鉄を戻した理由は、単に暴発を防ぐためだ。
撃鉄が戻ったことを確認した恭兵は、もう一度安全装置をオフにしてズボンに引っ掛けた。
「……ところで弾が切れたら、またポイントを消費するようなのか?」
〈いいえ、召喚されている銃の弾薬であればポイントは消費されません。弾薬を召喚する時は「リロード」と声明の後、弾薬を指定してください〉
「ちなみに一度に何挺までだせるの?」
〈最大で2挺までになります。さらにオーダーすると、古い順から武器が消滅します〉
「なるほど他には?」
〈『対象者追跡』スキルポイント1を消費して対象者の位置を特定します。使用時は「チェイス」と声明を出した後に対象者の名前を言えば、このナビゲーターウォッチに現在地が表示されます〉
「相手を見失う心配も無いわけか」
〈ただし、2分間の制限時間があります〉
「時間制限あるの……」
自分のスキルを理解した恭兵。
その恭兵に向かって2人分の足音が近づいて来る。