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第15話 二人の時間 

 それから時間が経ったが、変わらず恭兵キョウヘイはアウトドアテーブルの椅子に座りながら周りを警戒していた。

 上には屋根が有るので浩次コウジに見つかることは無いだろう。

 それよりも不気味なほど周りが静かな所為で、風の音すら「誰かが来たのでは?」と警戒をしてしまう。

 すると、そこへ芽愛メイがやって来た。


「ちょっといいですか恭兵さん?」

「勿論」


 恭兵が返事を返すと、芽愛は恭兵の隣に座った。

 しばらく沈黙が流れ、気まずい雰囲気に恭兵が話を始めた。


「それにしても、何でも出来るんだね。部屋だってすぐに綺麗にしちゃったし」

「たいしたことじゃないですよ。私はただ……」

「たいしたもんだよ、勉強だってできるし、俺なんか勉強出来ないから高校は定時だし……」


 恭兵は視線を芽愛から逸らして落ち込んだ。

 それも恭兵の頭上に青白い人魂のような物まで現れる程だ。


「俺って……男として終わってるよなー……」

「そ、そんなことないですよ、恭兵さん! 恭兵さんだって、良いところあるじゃないですか⁉ あの車だってそうですし、銃の扱いもすごくカッコよかったですよ。恭兵さんは学校で習わないことをいっぱい知っていて……えーと……その……凄いですよ⁉」

「無理にフォローしようとしなくてもいいよ……」

「そ、そんなことは、ないですよっ‼」


 慌てて否定する芽愛だが、恭兵の目には、どう見ても無理にフォローしているようにしか見えない。

 何故なら、アニメのコミカル描写で見るようなワタワタする芽愛の姿がそこにあったからだ。

 このアニメでは見ないので意外な感じだが、やはり気が晴れない。

 そんな落ち込んだ恭兵を何とか慰めようとする芽愛が、恭兵にあることを訊いた。


「そういえば、恭兵さんが書いているノベルも、アクションものなんですよね?」

「主にね。でも芽愛ちゃんが読んでも興味持てないと思……う……」


 恭兵の話を聞いた芽愛は、眼をキラキラと輝かせていた。


「私、アクションもの大好きなんです!」

「えっ、そうなの?」

「はい」


 意外だ。

 芽愛にそんな設定があったなんて、恭兵には信じられなかった。

 もしかしたら気を遣ってそんなことを言っているのだろうか、と思ったが、明らかに芽愛は心から興味を持っている。


「ちなみに、今書いているものは、どんな内容なんですか⁉」

「それは――」


 恭兵は今書いているノベルの内容を芽愛に話した。

 

 今書いている内容は、恩師を殺された女刑事が、犯人が居ると思われる暴力団を追いかけるが、単独行動など問題を起こしたため、捜査から外されてしまう。

 それでも自分の手で犯人を捕まえたい女刑事は、犯人に関係する暴力団を狙う暗殺者の男と手を組み、恩師を殺した犯人を探すアクションものだが、この物語のテーマは『立場を超えた男女の愛』つまりラブストーリーだ。

 普通のラブストーリーを書くことが苦手だったので、自分の好きなジャンルをプラスして出来たのが、この作品だった。

 

「面白そうじゃないですか! 現代の『ロミオとジュリエット』みたいで!」

「ロミオとジュリエットとはちょっと違うけど、立場の違う男女が恋をする、って意味なら似たようなものかな?」


 その後も、恭兵の話を嫌な顔一つせずに聞く芽愛。

こんなに真剣に自分の作品のことを聞いてくれる人は、利輝を除いて他に居なかった。

 女子なら芽愛が初めてだ。

 そこで恭兵の中に疑問が湧いた。


(待てよ! 兄貴って、あまりアクション物に興味なさそうだったよな? それなのに何で芽愛ちゃんにそんな設定を付けたんだ?)


 そんなことを考えていると、利輝が前に言っていたことを思い出した。


 ――実は浩次にはゴーストライターの疑惑があってね。


 だとしたら納得だ。

 浩次は、他人の作品を奪っている。

 昏睡から目覚めたら、早速調べさせないと。


「あの……恭兵さん?」

「えっ?」

「難しい顔をして、どうしたんですか?」

「何でもない、まさか本当にアクション物が好きだったことが意外だなぁ、って思ったっていうか……」

「ちなみに、他にも考えている企画とかあるんですか?」

「それは……」


 その後も恭兵は、今書いている物以外にも、企画として考えている物を幾つか芽愛に話した。

 その芽愛も、聞き流すことなく、真剣に恭兵の話に耳を傾け、自分なりの意見を出してより物語の面白さに磨きがかかる。

 こんなに的確にアドバイスをしてくれる人は他に居ない。利輝もアドバイスをくれることはあるが、芽愛の方がアイディアは豊富だ。

 そして何より、芽愛と話していてとても楽しい。


「君みたいな彼女がいればな……」

「えっ?」

(ヤベッ‼)


 あまりの楽しさに、思わず本音を呟いてしまった。

 さすがにこれは嫌われたか、と恭兵が芽愛の方へ顔を向ける。


()()()()()じゃないですか?」

「えぇ?」


 思いもよらない芽愛の返事に、恭兵は目を点にした。

 言った芽愛も、我に返ったようで、次第に芽愛は顔を真っ赤に変える。


「でも俺は、さっき言った通り低学歴だぜ? それに作家としてもデビューできるか怪しいところだし……」

「恭兵さんならなれますよ、きっと。ウジウジしている暇があるなら、もっと書くべきですッ! そうすれば、学歴なんて関係なく恭兵さんを尊敬する人が出てくるはずですよ!」


 弱気になっている恭兵に、喝を入れるように少し強めの口調で話す芽愛。

 怒られているのに、どうしてこんなに温かい気持ちになるのだろう。

 いや、むしろ恭兵が欲しかったのは、これかもしれない。自分を後押しするために叱ってくれる異性が。


「――と言うより……」

「んっ?」

「わ、私の裸見たんですから、学歴うんぬんの前に、ちゃんと責任取ってください!」


 頬を真っ赤にしながら芽愛が訴えた。


(あれは事故なんですけど!)

「勿論、取れるなら取るよ。この世界に居られるなら……」

「本当ですか⁉ ――この世界……?」

(ヤベッ! 言っちまった!)

「い、いや、そのなんて言うか、言葉のあや――」

「――言いましたよね⁉」

(ナンデソコニコダワルノー……)


 誤魔化せないと悟った恭兵は、自分が別の次元の世界から来たことを芽愛に話した。

 さすがにここがアニメで、芽愛が男たちの欲望の捌け口として作られた存在だということは伏せたが。


「そうだったんですね」

「そう。上手く言えないけど、そういうこと……」

「……。これが終わったら、恭兵さんは帰っちゃうんですね……?」


 芽愛は何処か悲しそうに俯いた。


(帰り難い……)


 何とかこの世界に残る方法は無いのだろうか?

 そんなことを考えていると、ナビゲーターが言っていた、クリア特典の話を思い出した。


「ナビゲーター、ちょっといいか?」


〈何でしょうか?〉


「ところで、クリア特典、って何なの?」

 

 せめて、クリア特典が『この世界に居られる』とかであれば、芽愛との約束は守れる。

 そう考えたのだが……。


〈それはミッションをクリアしなければ分かりません〉


「アンタも分からないのかい?」


〈その通りです〉


「おいぃぃぃー!」


 何でアンタが分からないんだよ!

 これでは、芽愛を守り抜いても、この世界に居られないなら、芽愛との約束を破ることになってしまう。

 さすがにアニメのキャラクターとはいえ、それはあまりにも心が痛い。

 そう思った直後、今度は利輝のことが頭に浮かび、どっちを選んでも寂しい思いをさせる人が出てしまうことに気づいた。

 一応、利輝には両想いの彼女が居るので、完全に孤独という訳ではないが、それでも複雑だ。


(どうしよう……?)


 色々思考を回転させるが、どれも現実的ではない――そもそも、恭兵がこの世界に居ること自体が非現実的なのだが……。


「とにかく、あと――」


 恭兵がナビゲーターウォッチを見て、残り時間を確認した。


「――1時間で答えが出る……かな……?」


 恭兵は汗をダラダラ流しながら固まった。


                 〇

 

 室内にいるマイが、会話を楽しむ恭兵と芽愛を見ていた。

 会話の内容まではハッキリ聞こえないが、とても楽しそうだ。

 こんなに楽しそうに話す芽愛を間近で見るのは随分久しぶり。学校でも芽愛の楽しそうな顔は見るが、何時も遠目で話し声までは聞こえなかった。

 それでいい。

 自分から離れれば……。

 

 ――大切な家族を自分から手放してどうする?

 

 恭兵の言葉が頭を過った。

 本当はこんなことをしたくない……もっと芽愛の側に居たい。

 それなのに、どうしてこんなに芽愛を拒否したがるのだろうか?

 まるで誰かに呪いでもかけられて、娘を拒否しているような……。

 そんな寂しい気持ちに浸っていると、突然、舞が持っているスマートフォンに受信を知らせる音が鳴った。

 スマートフォンを見ると、それはスマートフォンのメーカーからの専用メールで、件名には『緊急放送!』と出ている。

 メールを開き、添付されているアドレスにアクセスすると、動画サイトに繋がり、ある動画が再生された。


「……っ!」


 映し出されたのは浩次だ。


『よう恭兵。今すぐにお前が居る居場所を教えろ、じゃないと――』


 浩次の後ろに、無理やりチンピラに引き吊り出された鹿島が現れる。

 見た感じ、鹿島に外傷は無いようだ。

 それと連絡用なのか、画面の下に番号が表示されている。


『――この女の命は無いぞ』


 これで動画は終わった。

 鹿島が人質になっていることに、舞は内心焦った。

 このままでは鹿島の命が危ない。

 だからといって、浩次に居場所を知らせたら、今度は芽愛に危険が及んでしまう。

 恭兵に相談したところで、恐らく助けには行かないだろう。

 どうすればいいのか……?

 1人悩んでいると、自分の腰に有る物のことを思い出し、それを取り出した。

 恭兵から念のためにと渡されたリボルバー拳銃だ。

 舞は銃を見て、ギュッ、とそれを握りしめる。


(これしかない……)


 何かを決断するように顔を強ばらせると、外に居る恭兵に目を向けた。


                               第3章 END

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