プロローグ
私立・丸葉学園――
空はすっかり夕日の橙色の光に染まっていた。
生徒も校舎から殆どいなくなる頃、本来誰もいないはずの視聴覚室に2人の人影があった。
1人はこの学校の男性教師・秋葉 洋二郎、28歳。黒ジャージに刈り上げたショートの髪型をしている。印象は体育教師のそれだ。
もう1人はこの学校の女子生徒で理事長の娘でもある相川 芽愛、バレッタが付いたホワイトブロンドのロングストレートの髪型に、17歳とは思えないほどの整った美しい顔立ち、グラマーな体つきはグラビアアイドルにも匹敵し、殆どの男性を魅了するほどだ。
ドン‼
女子生徒は挟まれた。密会する教師と生徒の禁断の関係――
「先生、やめてぇぇぇー‼」
――ならば多少はロマンがあるが、芽愛が教師と挟まれているのは、壁ではなく床だ。床ドンなんて言葉があるならそれだろう。
しかも秋葉は芽愛の両腕を掴み、何処から取り出したガムテープで芽愛の両腕に巻きつけ、さらに近くの机の脚にも絡ませることで拘束した。
泣き叫ぶ芽愛、そう彼女は襲われている最中だ。
秋葉は他の女子生徒に手を出し、それが理事長によって暴かれ解雇にされたのだが、その報復で芽愛を襲っているのだ。
「今こうなっているのは母親の所為だろ、恨むなら母親を恨み――なっ!」
そう言って芽愛が着ている制服のブレザーとブラウスを掴み、無理やり引き剥がした。
「いやぁぁぁー‼」
芽愛のブラが露わになる。
「助けて、誰かぁぁぁー‼」
叫んでも芽愛の声は視聴覚室の防音設備によって妨げられ外には殆ど届かない。
「いいぞ、もっと叫べ。今もっと楽しくしてやるからな」
秋葉は芽愛のブラへと手を伸ばす。もう芽愛になすすべなく秋葉に玩ばれるだけ……。
「うりゃぁぁぁー‼」
そう、この男が現れなければそうなるはずだった。
男は視聴覚室のドアをドロップキックで破ったのだ。
前髪を立てたショートのストレートヘアーに黒のライダースジャケットという、この学校の関係者ではないことは格好を見ても明らかだ。
「何だ⁈」
突然現れた男に混乱する秋葉。
「離れろ、変態教師がぁぁぁ‼」
男は秋葉に向かって強烈なパンチをお見舞いし、それを受けた秋葉は、そのまま視聴覚室の奥まで吹っ飛んだ。
それを確認すると、男は芽愛に近づいた。
芽愛は、今度はこの男に襲われる、と怯え目をギュッと瞑る。そして男の手が、芽愛の両腕を掴む。
(もうダメ……)
「そもそもお前、こんなところに2人きりで連れてこられたら、何かされる、って思わなかったのか?」
「……え?」
男は説教的なことを言いながら、芽愛の両腕を拘束していたガムテープを剥がした。
男の予想外の言葉と、自由になった両手を見て芽愛がキョトンとしていると、男が芽愛の前に顔を近づける。
「早く逃げろ。前もちゃんと仕舞えよ」
芽愛は我に返り、男に頷いて胸元を抑える形で視聴覚室から出た。
起き上がった秋葉は――何故か――近くに置かれていた鉄パイプを手に取り、男の隙を窺う。
男は秋葉に背を向けていると……。
「え、何‼? ――」
突然男が出した大声に、秋葉は一瞬ドキッと身震いする。
「――何でだよ⁉ 秋葉こいつはここにいるのに何で彼女があぶないんだよ!? ――」
男は自分の腕時計に向かってブツブツ何かを話しており、秋葉には気づいていない。
何をしているのか分からないが、今が反撃のチャンスだと鉄パイプを振り上げ……。
バン!
乾いた音と同時に秋葉の眉間に風穴が開いた。
男の手に握られた拳銃が火を噴いたのだ。銃口からはまだ煙が上がっている。
「今度は相手を見て襲いな!」
男がそう言って銃口から上がる硝煙を吹き飛ばし、ズボンに拳銃を引っ掛ける形で仕舞った。
すると――
「きゃぁぁぁー‼」
「ったく……これが25時間も続くのかよ!」
芽愛の悲鳴を聞き、男は視聴覚室を出て全力で廊下を駆け抜ける。
男は、禿 恭兵、21歳。本来ならここには――いや、この世界には存在しない人間だ。
そんな彼が芽愛を守る理由はただ1つ。
芽愛の純血が散ったその時、恭兵の命も散るからだ。