魔女っ子、お節介③
――シヤァァァアアアア。
「誰や?」
背後から歯の隙間から空気の漏れるような音が聞こえて振り返った。
すると、丸太のようにぶっとい体の蛇さんがこんにちはしていた。
「こんにちは~」
――シヤァァァアアアア。
蛇さんの口元には動物の毛らしき物がついてた。
あの毛は黒狼とかいう犬コロの毛に似てる気がする。
「なんやあんた。美味しいもん食べたんか?」
蛇さんは頷く。
こいつあたしの言ってることが分かってるんやろうか?
「で、次はあたしを食べたいと?」
蛇さんは頷く。
そうかそうか。なるほどね。
すると、蛇さんの口元からまがまがしい霧が出始める。
あれを吸い込んだらヤバい気がするわ。
あたしの生物としての勘がそう告げてる。
さて、あたしは箒で飛んで逃げるとするか。
そう思って箒で十メートルほど上空に飛び上がった時だった――
――グォォォォォオオオオオ
あたしは突然の強風に身体を流されて大木にぶつかった。
「あいたた。な、なんなんや?」
風のした方向を見てみると、そこにはこの前見た火竜がいた。
「あんた、ほんましつこいな」
あたしは火竜を睨んでやる。
けれども、火竜は今回あたしには興味がない様子で、地にいる蛇さんのところへ降りて行った。
火竜と蛇さんはお互いに距離をとって睨み合っている。
体長は同じくらいや。二匹の怪獣が向かい合ってるって思うくらいの迫力があるわ。
「なんや、あんたら手を組むんちゃうやろな?」
蛇さんは徐々に火竜との距離を詰めていく。
そして――
ガブリッ。っと一噛された。
蛇さんが。
蛇さんはぐったりと倒れる。
火竜は足で丸太みたいな蛇さんの身体をむんぎゅと掴んで、どこか空のかなたへ飛び去った。
あたしは唾をごくりと飲み込んだ。
「す、すごいもんみてしもた......」
あたしは箒に乗って、大木から降りた。
「あいたたたたた」
さっきぶつけた足がズキズキと痛んだ。
足首が真っ赤に腫れていた。
もしかしたら、骨にヒビとか入ったかな?
マジで、あの火竜なにしてくれるねん。
これで前の含めたら一勝一敗ってところか。
直接対決してないけど、気分的に前回は勝って、今回は負けた気がする。
「おい!火竜。次会ったときは覚えてろよー」
ああもう。早いところ村に帰りたいわ。
でも足が痛くて、まともに歩けへんわ。
とりあえず魔法で適切な応急処置をして、【プリカルステッキ】の長さを伸ばして体重をかける。
魔法の絨毯使って座りながら帰るのも考えたんやけど、今火竜に襲われたらちょっとヤバい。
冷たい風が吹く。夜が近づいてる気がする。
さっきの一件以外、魔物が襲ってくる気配はない。
けど、夜までに森を抜けたい。
夜になったら多分なんも見えんなる。
勿論、魔法で照明を出したらなんとでもなるんやけどね。
ただ、あたし不気味なん苦手やねん。
ほら......火の玉とか、お化けとか......。
考えるだけでもゾッとするわ。
突然、近くの茂みから枝を踏むような音が聞こえる。
「誰や?」
あたしは音のした方向をみると、そこにいたのはエプロン姿の茶髪の女の子だった。
「ロゼッタ。なんでここにおるん?」
「アカリ。帰りましょう」
ロゼッタはあたしの質問に答えることなく、あたしの側に寄ってくる。
そして、あたしの腫れた方の足首に黙って手をかざす。
「まさか、ロゼッタ!あんた、それは......」
「回復」
ロゼッタの手のひらが眩しく輝く。
すると、徐々に痛みが消えていく。
「森に入ってからずっとなんかの視線を感じ取ったんやけど。もしかしてずっとあたしの後をつけとったんか?」
「......はい」
「だからあたしは魔物とあんまり遭遇せーへんかってんな。ロゼッタが結界ってやつを張ってくれてたんやな」
「大蛇や火竜が出てくるとは思いませんでした。アカリが無事でよかったです」
ロゼッタのあたしの足首に手をかざしたまま、少し微笑んだ。
あたしを心配して、ずっとあたしを守ってくれとったんやな。
なんでなん? なんでそこまでしてくれるん?
あたし、ロゼッタにあんなに酷いことを言ってしもたのに......。
「ごめん。今朝酷いこと言ってしもて......」
「ううん。私こそごめんなさい。私はアカリの気持ちを考えるべきでした」
そう言うと、ロゼッタはあたしの手を握った。
「私、今日一日ずっと見てました。アカリが誰かのために危険を顧みずに森に入り魔法を使っている姿を......」
ロゼッタの瞳に水溜まりができていく。
「私のためを思って魔法を使ってくれたのに、失礼な行為だなんて言ってしまって本当にごめんなさい」
ロゼッタの頬を瞳に溜まっていた水が一筋流れる。
「ごめんな。ごめんな......」
あたしはロゼッタを抱きしめた。
◇
「わぁ、アカリお姉ちゃんありがとう」
あたしは森から出たすぐにペンダントをユキちゃんに返しに行った。
ユキちゃんはペンダントを頬に当てる。
「見つかってよかったね」
「うん! これは死んだお母さんに貰った想い出のペンダントなの。......本当にありがとう」
「それはとっても大切なもんやね。次は鳥なんかに盗られないようにね」
「うん」
ユキちゃんはペンダントを首にかけ、走り去っていく。
そして、ユキちゃんと入れ替わるように、ロゼッタが歩いてくる。
「お疲れ様です」
ロゼッタは微笑んで言った。
「ロゼッタぁ。お腹すいたーー」
「はいはい。今夜ご飯の支度をしますね......あっ、アカリも......もしよかったら手伝ってください」
「うん!!」
あたしは満面の笑みで返事をした。