魔女っ子、お節介②
耐えられずロゼッタの家を飛び出したあたしは、村の中をぶらぶらしていた。
「ロゼッタには悪いことをしたわ......なんであたし逃げてしもたんやろ」
ロゼッタのためにと思ってやったことが、全て失敗に終わった。
ほんで謝ることもせずに暴言なんか吐いてとんずら。
きっとロゼッタに嫌われてしもたやろな......。
村を行く宛もなく歩いていると、子供の泣き声みたいなんが聞こえてきた。
「この声って......ユキちゃん?」
村の女の子であたしが最初に名前を覚えた子。
......もしかしてユキちゃんが泣いてるんか?
あたし泣き声の主を探すことにした。
すると、ユキちゃんが地べたに座り込んで号泣しているのを発見する。
すでに村の大人たちがユキちゃんを囲むように人垣を作っていた。
どうも手に負えないって感じの雰囲気を大人たちから感じるわ。
なんでユキちゃんあんな目を腫らして泣いてるんやろ?
いじめられたんか? 心配や。
あたしは近くにいた男性に尋ねる。
「どうしたん? ユキちゃんが泣いてるようやけど」
「可哀そうに。ユキちゃんが大切にしてたお守りを野鳥にもっていかれたそうだ」
「その野鳥は、どこ行ったん?」
「森の方へ飛んで行ったらしい。森の中は広いからもう追いかけられないだろうな。......アカリちゃんまさか森に入るなんて言わないよな?」
あたしは泣いているユキちゃんの側に寄り、頭をよしよしと撫でる。
「あたしが鳥から大事なもん取り返して来るからな! もう泣かんとってな」
ユキちゃんはあたしの瞳を覗き込む。
「ぐずん......ほんとう?」
「ああ、ほんとうや」
「分かった。アカリお姉ちゃん。お願い。私の宝物を取り返して!」
ユキちゃんは涙を堪えて、笑顔を向けてくれる。
それはつまり、ユキちゃんは持てる希望を全てあたしに託してくれたってこと。
だから、あたしは応えたい。
そんなあたしの気持ちに水を差すように、ユキちゃんを取り囲む大人はあたしに説教してくる。
「アカリちゃん。そんなできないことを無責任に言っちゃいけないよ」
「小さい子は本当に信じてしまうんだからね」
大人たちはあたしやユキちゃんのことを考えて言ってくれてるのやろう。
お節介と突き放してもいい。けど、あたしも人のことを言えんのや。
だから、あたしは笑顔で言う。
「ありがとうな。でもあたしには魔法があるねん。あたしのミラクルモードならユキちゃんの大切なものを奪った鳥を見つけることができると思う」
「でも森には魔物がいるよ。女の子一人では危険だよ」
「いざとなったら、プリンセスモードもあるし。気を付けていくから大丈夫やって」
あたしは大げさに胸を張って、親指を立てた。
「アカリお姉ちゃんの勇気に私はかける。私は信じるよ」
ユキちゃん......。嬉しいことを言ってくれるねぇ。
イエス。任された!
それ以上大人たちは何も言ってこなかった。
あたしはミラクルモードになり、森へと足を踏み入れた。
◇
森に入ったすぐ、どこからともなく視線を感じるようになった。
相変わらず、気味悪いとこや。
あたしはとりあえず【プリカルステッキ】を振って呪文を唱えることにする。
「ぱぴぱぴぷぺぽぽぺぽぺぷぴぱ ユキちゃんの宝物の場所に案内して」
ヒュゥゥゥゥゥゥゥウン。荒れた風が吹き抜けた。
ありゃま、何も起こらない。おかしいな。杖は光ってるから、間違いなく呪文は発動してるんやけどな。
呪文を唱えて、何も起こらなかったのはこれが初めてや。
失敗しても爆発するとか、何かアクションあるんやけどな。
そういえば、杖を倒した方角に探し物があるっていう秘密道具あったような......。
まさかね......。
カラリ。カランコロン。
【プリカルステッキ】を重力に任せて落とすと、ある方角を指すように不自然な挙動を見せた。
これ、ビンゴやん。
この杖の指す方向にユキちゃんの宝物があるんやな!
「待っててや。ユキちゃん!」
あたしは歩を進めた。
◇
少し歩くとあることに気が付いた。
「結構歩いてるのに、全然おらんやん」
そう。大人たちが言ってた魔物がおらへんねん。
ロゼッタと一緒に歩いてた時のように、黒狼が遠くを歩いてるくらいで、魔物は全然見かけへん。
その黒狼もこっちに気付く様子ないし。
「あの犬コロ、鼻詰まってんのかな」
と黒狼の心配してしまうほどに平和やった。
森へ入って三時間以上。
もはや作業となっている、杖転がし。
一向に鳥は見つからないし、本当にユキちゃんの宝物の在りかに繋がっているのか不安になってきた頃やった。
ピピピピピピピピ。
突如、【プリカルステッキ】が音を立てて光りだした。
「なんや! あんた、こんな目が覚めそうな音だせるんか!」
【プリカルステッキ】に語りかけた。
勿論、返事はない。ただの杖のようだから。
そんなことよりも――
あたしは目の前にある一本の大木を見上げた。
太くて丈夫そうなその木の枝に視線をやると、鳥の巣がくっついているのが見えた。
うーん。なんか黄色いやつおるな。
巣の中を目を凝らして眺めてみると、鳥の雛らしき産毛も生えてないような生き物の姿が見えた。
すると雛の隣に光る何かを発見した。
「きっとあれがユキちゃんの宝物よな。雛の玩具になってるやん」
あたしは箒に乗って巣のある高さまで飛ぶ。
すると光っていたのは琥珀色の宝石がついたペンダントだと分かった。
これがユキちゃんの宝物なんやな。
めっちゃ奇麗。
きっと親鳥が雛鳥に与えるためにユキちゃんから奪ったんやろうな。
「ごめんな。このペンダントは持ち主に返したろな」
あたしはそう言って巣に手を差し伸ばした。
「でも雛鳥さんからしたら、あたしも泥棒に見えるんやろうな」
あたしはそう言いながらペンダントを回収し、無くさないようにポケットにしまった。
ポケットってなんか無くならないって言う安心感あるよな。
そして、ペンダントの代わりになる光る物を巣に置いた。
「これはあたしからのプレゼントやで」
ペンダントと比べたらしょぼいかもしれへんけど、まあ光るから許してや。
最近村の人から貰った銅のコイン。
なんでもお金らしいけど、生活に必要な物は貰う事が多いからぶっちゃけお金を使う機会がなかってんな。
さて、親鳥が帰ってきて面倒なことになる前に帰るでぇ。
あたしは鳥の巣を後にした。