魔女っ子、お節介①
「アカリ。一体これはどういうことですか?」
これはロゼッタが起きて「おはよう」した直後の言葉。
あたしはテーブルいっぱいに御馳走を用意して迎える。
「これはね~ あたしに良くしてくれてるからそのお礼!」
ロゼッタはあたしの魔法で作った料理を眺める。
求めていた笑顔ではなく、険しい顔。
でも嬉しいはずや。
目が覚めたら仕事が終わってんねんから。
寝ぼけ眼を擦ったすぐやから、頭の処理が追いつかへんのやろな。
「これ、アカリが作ったのですか?」
「そうや。よーできてるやろ。冷めへんうちに食べや」
「このテーブルクロスは魔法ですか?」
「そうや。オシャレやろ」
「もともと敷いてあったテーブルクロスはどこですか?」
「あの十字架が水玉みたいに刺繍されてるやつ? あれなら畳んで階段とこおいてるで」
ロゼッタは黙って十字架が刺繍されたテーブルクロスを手に取ってから、あたしが用意しておいた料理をテーブルから下ろしていく。
ロゼッタのその態度は一つ一つが不機嫌なように感じた。
は? なにしてるん?
「ちょっと、なにするねんな! なんでそんなことするん?」
「それはこちらのセリフです。 神の創られた物をぞんざいに扱うなんて許せないです」
何? 神の創られた物ってなによ。
でもあのテーブルクロスがロゼッタにとっては大切なものだったってことよね?
勝手に家の物を移動させたあたしが悪いのかもしれへん。
「ごめん。勝手に移動させて」
ロゼッタは少し俯いた。
「いえ、こちらこそごめんなさい。アカリに説明していなかった私が悪いのです」
「説明してくれへん? あたし理解するから......」
「はい。私は聖女見習いなんです。聖女を目指して修行する身。唯一の神を信じるウキョルンパ教の教徒なのです。聖女を目指すには神を信じなければならないのです。それは心だけでなく、常日頃の態度でも示す必要があります。神はいつも私たちを見ていらっしゃるのですから」
そういえば、ロゼッタは聖女見習いって言ってたよな。宗教上の理由で、そのテーブルクロスじゃないといけないってことだったんやね。
ロゼッタは俯いたまま謝る。
「ごめんなさい。その料理も食べることができないのです」
「お肉とか、食べちゃいけないものが入ってたりしたん?」
「いえ、聖女見習いは贅沢禁止なのです」
贅沢禁止? 神は教徒に貯金でもさせたいん?
「でも昨日の夜ご飯は美味いもんたべたやん!」
「私は汁物と果実以外に口をつけていません」
ロゼッタは俯き続けている。
あたしなんか馬鹿みたいや。
ロゼッタを喜ばしたいと思ってやったのに。
余計なお世話やったみたい。
「気持ちは嬉しかったです」
「ごめんな......」
朝から重たい空気がのしかかってくる。
ロゼッタは窓を開けて、新しい空気を取り入れた。
そして、外を見て震えだした。
「ふふーーん。実はサプライズはまだまだあるのでーす」
あたしはテンションを無理やり上げて、調子を取り戻した。
実はロゼッタのため思ってしたのは、料理だけではないねんなーこれが。
家の周りを囲むように植えられた木や花の水やり。
あたしはそれをしておいた。
毎朝ロゼッタが寝起きにしてた仕事。
かわりにしておいたのだー。
「な、なんてこと......」
ロゼッタは拳をぎゅっと握りしめて、わなわな震えていた。
あ、あれ......ロゼッタさーん......なんか思ってた反応と違うんやけど......。
いや、まあ、嬉しいときも感激で震えることあるよね?
「花びらの上から水をかけましたね?」
「あ、気付いちゃった~。そうそう、あたしが水をあげたんやで~」
ロゼッタは花を悲しそうな顔で見つめている。
少しして立ち上がると、今度は隣に植えてある木の前で立ち止まった。
「こっちの木にも水をあげてしまいましたね?」
「うん。そうやけど......」
なんかさっきから、ロゼッタが求めてる反応をしてくれへん。
なんでなん?
「私、アカリに植物の水やりしてほしいって頼んでいないです」
「それはあたしがサプライズで......」
「しかも魔法をつかったんですか?」
「そうやけど......それがどうしたんよ」
ロゼッタは俯きながら呟く。
「アカリはご飯を食べるとき泥のついた足で食べますか?」
「よくわからん質問やけど、そんなんするわけないやん」
「そりゃそうですよね。そんなことしたら料理を作った人に失礼ですし、料理になった素材にも失礼です」
「まーそうやんな」
「家庭菜園の水やりを魔法でするというのは、それと同じでとても失礼な行為です。水やりは作業や仕事ではありません。ここにある花たち一つ一つに声をかけながら、ジョウロで優しく適切な水のやり方をしなくてはならないのです」
ロゼッタは単調で静かな声で言った。
それが、ロゼッタはあたしに対して怒ってる、というより呆れて悲しそうに見えた。
それを見たあたしは胸が針で刺されるような感覚に陥った。
あんまり弱音とか吐きたくないけど、つらい。
これならぶち切れて、怒鳴り散らしてくれた方がいいわ。
だってあたし......次どういう一言を言えばいいのかわからへんなるもん。
「ロゼッタのアホぉぉぉおおおおおお」
「あ、ちょっと待ってください! アカリ」
あたしは思ってもいないことを言って、家を飛び出した。
ロゼッタの呼び止める声なんて、聞こえなかった。
魔女っ子ではなく魔法少女と言えば。喧嘩っぽくなってお互いを知るという。