魔女っ子、魔法披露す
ロゼッタの家に来て三日が過ぎた頃。
あたしは村人とも仲良くなって、世間話をするような仲になってた。
みんな、記憶喪失とかいう得体の知れないよそ者のあたしに親切にしてくれるいい人ばかり。
「アカリちゃん。ちょっと水を組んできてくれない? おばちゃんには重くてねぇ」
おばちゃんから空のバケツを受け取る。
「ええよ。この前ゴンリの実くれたし。ちょっと待っててな。 ぱぴぱぴぷぺぽぽぺぽぺぷぴぱ 水よバケツいっぱい」
あたしは【プリカルステッキ】を振って、バケツの中を奇麗な水で満たした。
「はい、どうぞ」
「ありがとう。本当、アカリちゃんのその魔法は便利だねぇ」
「やろやろ! 魔法ってホンマはこういうもんなんやで」
あたしは胸を張って自慢したった。
この三日間であたしは一つの事を決意した。
それは、人前でも魔法を使っていくこと。
そして、魔法は人を攻撃したり、傷を癒したりするだけじゃないって知ってもらうこと。
やることが特にないあたしは、この新しい考え方ちゅうんを周りに広めていこうと思ったんや。
だからこうして、村人の手伝いを魔法でしているってわけやねん。
「魔法ってこう火の玉を出して魔物を丸焼きにしたりするものだと思っていたわ」
「ちゃうちゃう! 火の玉を出して夜道を照らしたり、料理をするための火種にしたりするもんやで!」
「そんな器用なことできるのは、アカリちゃんだけじゃないかしら」
「今はそうかもしれへんけど、魔法を日常の役に立てるっちゅー発想を持ってほしいねん」
「そうね。魔法使いたちにはそういう発想を持ってほしいものねぇ。まあ私は魔法を使えないから言うだけなんだけどね......はい、これお礼のゴンリの実ね。ロゼッタちゃんとお食べ」
「ありがとー、おばちゃん!」
お礼なんて求めてへんけど、村の人は優しいからこうやって食べ物を持たせてくれたりするねん。
これを村に貢献した分、家に持って帰るとロゼッタが喜んでくれて、皆ハッピーになる。
そんな一日の過ごし方を見つけた三日間でもあった。
◇
「ごちそうさまでした」
「はい。おそまつさまでした」
ロゼッタはあたしが持って帰った食べ物を料理にしてくれた。
めっちゃ美味しかった。
「今日ハイリさんがアカリを褒めていましたよ」
「ホンマ? なんて言ってたん?」
「アカリちゃんは働き者で良くしてくれていい子だって言ってました」
あたしはやめーや、やめーや、照れるやないかーって悶える。
あたしがなんて言ってたか聞いたのに、おかしいな。
ロゼッタはそんなあたしを見ながら微笑んでいた。
「村の人と仲良くしているようで、私も嬉しいです」
ロゼッタはテーブルに置かれたコップの水を飲み干すと、食べた後の皿を持って立ち上がった。
あたしはすかさず手のひらを向けて「ストップ」をかけた。
「こんな美味しい料理作ってもらったんやし、片付けくらいあたしにさせてえや」
「え、でも」
ロゼッタは困惑した様子を見せたが、すぐ頷く。
あたしは【プリカルステッキ】を振って、皿の汚れを全て落として奇麗にした。
「すごいです。こすってもなかなか落ちない汚れをあんなに一瞬で奇麗にするなんて」
ロゼッタは感心しているみたいや。
今までは人目につかないように魔法を使っていたから、褒められたことなんてあまりなかったけど、こうして堂々と魔法を使えばちゃんと褒められるやん。
記憶にあるあたしの世界では、周りは魔法の存在を知らなかったけど、別に隠れて魔法使う必要なんてなかったんちゃうん?
ポコリンのやつ、なんで人前で魔法使うん禁止してたんやろな。
なんかそれらしいことを説明してた気がするけど、その説明がどうしても思い出せへんわ。
『人というのは――したら――してしまう――だから―――』
その説明を聞いたときは、それであたしも納得した気がしたんやけどなぁ。
まあ、思い出せへんし、いいよな。
「お皿よ、元いた場所にお帰り」
あたしがそう言うと、皿は棚のあるべき場所に収納されていった。
「お皿の直す場所もあってます......」
ロゼッタは笑顔で拍手して褒めてくれた。
めっちゃ可愛い。やましいけど、もっと褒めてほしいって思った。
明日からはもっとロゼッタの負担を減らしてあげたいなーなんて......ね。
◇
あたしは翌日、ロゼッタよりも早く起きた。
この家に来てからロゼッタの方が早く起きて、植物の水やり、朝食の準備をして、テーブルの上に食事を並べ終わってから毎朝あたしを起こしてくれててん。
だから今日からあたしがロゼッタのために植物の水やりをし、朝食を作って上げようと思う。
いつまでもタダで住ましてもろて、ご飯まで作ってもらってたら、申し訳ないし。
幸い、あたしの魔法はロゼッタの役に立てる。
起きてご飯できてたら、きっとロゼッタも喜ぶやろうし、喜んでくれたらあたしも嬉しい。
この時のあたしは、自分が良いことをしていると信じてしまっていた。
後にロゼッタとの関係を揺るがしてしまうとも知らずに......。
魔女っ子のタブーを一つ破ってしまいました。それは人前で変身もしくは魔法を披露することです。色んな魔女っ子作品で、魔女っ子は変身するとなりたい理想体型に変身しチートのような魔法を使うことができますが、人前で変身して正体がバレてはいけないという制約があったりします。
ですが、魔法が一般に普及して認知のある異世界で、魔女っ子はその制約を守らなければならないのか。もしよければ、感想で考えをお聞かせください。