魔女っ子、戦う!!
あたしとロゼッタは全速力で走っている。横腹痛いけど関係ない。そうせなあかん理由がある。
あたしの頭上すれすれを巨大な火の玉が通り過ぎて行く。すると目の前にあった木が火だるまになってミシミシと音を立てて崩れ去った。
「あんなん当たったらシャレにならへんで」
「行く手を阻まれました」
「なんやって!」
気付いたら、あたしらの周りを火柱が囲んでいた。森やから、よく燃えてしまう。
「あたしらここで木炭になるんか」
「木じゃないので木炭にはなりませんよ」
「ナイスツッコミやけど、今そんなんゆってる場合ちゃう......っ!」
あたしはロゼッタを引っ張った。ロゼッタはあたしを押し倒す形で倒れ込む。
すると今までロゼッタのいた場所に燃えた木の枝が落下してきた。
「こうなったら一か八か試してみるか」
あたしは起き上がって、手を真っすぐ突き出す。そして、頭ん中で棒状の物をイメージした。
するとあたしの手のひらを光の粒子が覆い、深紅の宝石がついたステッキを形作った。
「やった! でた、【プリカルステッキ】」
あたしは【プリカルステッキ】を手首の周りでクルクルと一回転させる。
このグリップ、そしてこの軽さ。使い心地は最高や!
これはミラクルモードもプリンセスモードもちゃんと使えるかもしれへん。
「アカリ。それは何ですか?」
「これは【プリカルステッキ】いうねん」
「よくわからないですが、玩具でしょうか?」
「玩具ちゃうわ! とりあえず、ここで観たこと誰にも言わんとってな」
「はい、誰にもいいません」
あたしは【プリカルステッキ】を横に振り魔法の呪文を唱えた。
「ぱぴぱぴぷぺぽぽぺぽぺぷぴぱ~ 変身! ミラクルモード」
そう言うと、あたしの服装が黒のローブ姿になる。頭には三角形のコーンのような帽子。
きっと今のあたしの服装は、おとぎ話に出てくる魔女っぽいに違いない。
あたしの変身姿を見たロゼッタは口をぽかんと開けている。
「まあ、驚くよな。またあとで説明するわ」
あたしは右手を上げて「魔法の絨毯」と叫ぶと、空の彼方から絨毯があたしの足元へと舞い降りてきた。
あたしは絨毯の上に足を踏み入れた。
そして、まだ口をぽかんと開けているロゼッタに、絨毯の上に招く。
ロゼッタはよくわからないといった様子で絨毯の上に乗った。
「じゃあ行くで」
あたしがそう言うと、絨毯はあたしとロゼッタを乗せ宙へ浮き始めた。
「わわわ! アカリ。この絨毯、空を飛んでますよ!」
「うん、空飛ぶ絨毯やもん」
絨毯はあたしらを乗せて、空を加速していく。
振り落とされないギリギリの速さで、一気に雲を突き抜けた。
「空を飛ぶなんて......まるで夢のよう!」
「詳しい説明はできひんけど、これは魔法やで」
「それはおかしいです。そんなことができる魔法使いみたことありません......うわっ」
ロゼッタが向かい風に振り落とされそうになった。
「大丈夫? しっかり捕まっとかなあかんで」
あたしはロゼッタが飛ばされないように手を握る。
すると横目に火竜が追ってくるのが見えた。
「あんたしつこいな。いい加減にしー」
あたしは振り切るために蛇行運転する。
火竜は一挙手一投足くらいついてくる。
まるで鬼ごっこ状態。火竜という鬼から逃げてるように空を走る。
スピードはほぼ互角や。ぜんぜん火竜との距離が開かへん。
「すごいです。火竜にも劣らないスピードで空を飛べるなんて」
ロゼッタ感心してる場合じゃないで!
なんか火竜の口元に炎がチラついてる。
「なんか嫌な予感がするねんけど......」
その予感は的中や。火竜は炎を球状にしてあたしらに飛ばしてきた。
炎球は絨毯に向かって一寸もたがわん精度で突撃してくる。
だが直線の軌道だったで、回避は難しなかった。
あたしに回避された火球は、そのまま天に昇って爆発した。
「まるでミサイルやな」
一撃目をあたしにかわされた火竜は、ウォォオオオオオという咆哮をあげる。
「なんや。かわされて怒っとるんか?」
「どうやら、そのようですね」
火竜は今爆発した火球と同じものを、二つ三つと作りだした。
「ちょ、ちょい待ち―。さすがのあたしでも、そんなにはかわしきれんで」
炎が弾幕となってあたしらに襲い掛かった。
攻撃をなんとか直撃すれすれで回避する。
すべての火球をかわしきった後、ロゼッタが慌てた口調で叫んだ。
「アカリ。絨毯の端が燃えています」
絨毯の端の方から煙が上がっていた。
「あんた、よくもやってくれたな」
早く消火せな墜落してしまう。
急いで絨毯を雲の下まで降下させる。
あたしは【プリカルステッキ】を天を突くように掲げて、魔法の呪文を唱えた。
「ぱぴぱぴぷぺぽぽぺぽぺぷぴぱ~ あめあめふれふれ」
すると、黒く濁った雲が絨毯の真上にやってきて――ポツリ、ポツリ――水滴を降らし始めた。
「アカリ。都合よく雨が降ってくれましたね。これで絨毯の火が消えそうです」
「雨も魔法で出したんだけどね」
「すごいです。そんな魔法があるなんて......」
さっきからロゼッタはあたしの魔法を見るたびに大げさな反応を示すな。しかも魔法を知ってるかのような反応をしてくる。普通の人は魔法が使えんはずやけどな。
あたしもポコリンと出会うまでは、ごく普通の学生してたし。魔法なんてオカルトやと思っとった。
考え事をしていると、火竜が雨雲を突き破って降りてきた。
「ああ、もうキリがないー。ぶっ倒すぞ。ああもうプリンセスモードでぶっ倒してもいいんやで」
むやみにプリンセスモードは使いたない。
あれは、闇の使者を倒すために手に入れた力や。ちょっといかつくて火を吐く程度の動物に使うのは可哀そうや。
あたしの個人的なことやけど、できるだけ平和的な解決がしたい。
そのためのミラクルモードでもあるし......。
すると、ロゼッタはボソッと呟く。
「なにか火竜に気が引けるものがあればいいのですが......」
「それや!」
なんであたしそんなことに気付かなかったんやろう。
火竜だって所詮動物やろ?
動物なら最高に注意を引く方法があるやん。
あたしは【プリカルステッキ】を構える。
「ぱぴぱぴぷぺぽぽぺぽぺぷぴぱ~ お肉お肉お肉」
空から大量の肉塊が火竜に向かって降り注いだ。
ずっと前に屋台のケバブ屋さんでみた、アレ。
密かにずっとあの肉の塊のまま齧り付きたいと思ってたんよな。なんでケバブって削ぎ落すんやろうな。そのまま齧った方がロマンあんのにな。
肉塊は森の中へと消えていく。火竜も口からよだれを垂らして肉塊の後を追って行った。
「ぎゃああああああああああ! アカリ、あれは何ですか?!」
「何ってお肉だけど」
「えっ、何の肉です?」
「あれ何肉やろうな。ぱっと見牛肉ではなさそうよな」
「ドラゴンの尻尾をぶつ切りにして焼いたらあんな感じになりませんか? ってことは龍肉ですか?」
「多分違うと思うけどな......」
火竜は肉塊の放つ芳香に耐えきれず森の中へと姿を消した。
後に火竜と遭遇した人によると、何の肉か分からない肉塊をしあわせそうに食べ、満足して山へ帰っていったそうだ。
「ふう、なんとか逃げ切れたな」
「火竜から逃げきれるなんて凄いです。普通は遭遇すると殺すか殺されるかしかないのですよ」
「なんか物騒な話やな。でも闘わずに済むんやったらそれがええやん」
「......そうですね。......私とは違いますね」
ロゼッタは含みのあることを言った。
あたしは特に気にすることはなかった。
「あっ、私の村が見えてきました。あそこです」
「おっけー。じゃあこのまま行くから、しっかりしがみついててなー」
あたしはロゼッタの村へと絨毯を飛ばした。
私が描きたい魔女っ子像とは、箒に乗って魔法の呪文を唱え、人助けやアイドル活動などをする女の子なのです。MPを消費してファイヤーボールを撃つという最近はやりの世界に、そういう魔女っ子が来たらどうなるか。素人ですがそれをやってみたいと思ったので書きました。もし、先が見てみたいって評価してくれるなら嬉しいです。