魔女っ子、魔物知る
あたしはロゼッタに案内してもらって森を歩いてた。
あれから三十分くらいずっと歩きっぱなし。足元が悪いし、気味悪いところやし、体力も精神もゴリゴリ削られるわ。さっきから何度も転んで、あたしは泥だらけになってる。
「ロゼッタぁぁ。まだなんー?」
「あと半分くらい歩けば私の村に着きますよ」
「ええ、うそやろ......。 あと半分もあんのー」
あたしはグロッキーになってへたり込んだ。
ああ、情けないわ。結構体力には自信あったんやけどなぁ。気分は悪くないんやけど、なんか目が覚めてから足がよくもつれるねんな。
「アカリ?」
もたもたしているあたしを見たロゼッタは軽く微笑みを見せる。そして、バッグの中から布を取り出して、近くの木の根元に敷いた。風呂敷かな?
「アカリ。ちょっと休憩しませんか?」
「さんせーー!」
ロゼッタは風呂敷の上に座る。あたしもロゼッタの横、木にもたれかかるように腰を下ろした。
ロゼッタはバッグから布を取り出して、あたしに渡してきた。
「これで泥を落としましょう」
「おおおお! おおきにおおきに、ありがとう」
ロゼッタはホントに気が利くわ。初対面なのにめっちゃ親切やし、いいお嫁さんになるよ。絶対。
あたしが激しく泥を落としていると、ロゼッタはじっとあたしを見つめながら微かに微笑む。
「な、なんなん? もしかして変なところ泥ついてたりする?」
「いいえ。アカリがどうやってあの場所まで辿り着いたのかと想像したらおかしくって」
「確かにそう言われてみたらそうやね。あたし、この森通ってきたからあんなところで寝てたんやんな......」
あたしはどうして森の奥の墓石の上で寝ていたんだろうか?
名前や住んでたところと一緒に、直前まで何していたかも忘れてしもたみたいや。
「森には魔物がいるので、アカリが一人でたどり着ける場所とも思えないです」
「魔物? ゲームとかに出てくるザコ敵のこと?」
「げーむ? というのはよくわかりませんが、敵であることは間違いないです。見つかるとほぼ間違いなく死にます。ほらあそこに黒狼がいますね。あの魔物に見つかったら死にます」
ロゼッタの指差す方角をみたら、茂みの向こう側にでっかい犬がおった。ペットショップによくおいてる一番デカい犬の二倍は大きいと思う。あんなにデカかったらソリ引けると思うわ。それくらいデカい。
「犬じゃないですよ。狼です」
「ロゼッタ、心読めるんか?!」
「アカリならそういうと思っただけです。......にしても、アカリ。焦らないんですね」
「なんであたしが焦る必要あるん?」
「襲われたら死ぬんですよ。普通は焦りませんか?」
「そう言われたらそうやな。あんな犬......じゃなくてあの狼に襲われたらあたし死ぬよな。 でもなんでやろうか。全然怖くないねんな。もっと怖いもんと毎日のように闘ってたからかもしれへん。怖いという感覚が麻痺してしもてるんやろうな」
「アカリはあの狼よりも怖いものと闘っていたのですね」
「はっきりとは覚えてないんやけどね」
あれ? あたしアレの記憶は残ってるんやな。
もしかして、【プリカルステッキ】もちゃんと出せるんのかな?
ここにはロゼッタがいるし、確認は後でせなあかんな。ポコリンのやつが「人前で変身するな」って口うるさく言ってたし......。てか、ポコリンどこ行ったんや......。
あたしはロゼッタが用意したお菓子を口に放り込んで、飲み込む。
「この森そんな怖いとこなんや! にしてはあたしら全然危機感ないやん? 座ってお茶してるし......」
「まだ休憩していても大丈夫ですよ。魔物に見つからないように結界を張っているので。魔物に襲われることはほぼないでしょう」
「へえ、ロゼッタって凄いんやね」
「私聖女見習いなので、こういうことを専門にしてるんですよ......うっっ!」
そう言うとロゼッタは急に具合が悪くなったんか、その場で蹲った。
「ロゼッタ、大丈夫?」
ロゼッタは返事をする前に、あたしの手を取り走り出す。
「逃げます」
急に一体どうしたんよ!?
風呂敷とかお茶道具一式を木の下に置きっぱなしやし。
「なあ、どこ行くんよ」
「結界が破られました」
「え、それって魔物に見つからないようにしてるってやつだよね」
「はい。近くに強い魔物がいます。アカリ、絶対に私の側を離れないでください」
駆け出してすぐ、背後からドゴンという大きな爆発音っぽいのが聞こえた。
あたしとロゼッタは走りながら肩越しに振り向く。
先ほどあたしたちが腰掛けていた辺り一帯が燃え盛っている。
あと数秒走り出すのが遅れていたら、今頃あたしらは火だるまやったろうな。
そして、犯人が姿を見せよった。
ぱっと見でっかいトカゲで、背中に翼が生えてる。羽じゃなくて、翼ね。爬虫類やと思うけど、あんなん動物では見たことないわ。
よく見ると、大きな口から炎が覗いてる。
「あいつが火吹きよったんか」
その姿をみたロゼッタは目を見開いている。
「火竜。ドラゴンです。なんであんな高位の魔物がこの森にいるのです」
小説を書くというのはこれが初めてで慣れませんが、この話面白そうと思っていただけるなら嬉しいです。