魔女っ子、都会行く前
『大聖女エルリル様より。伝令。聖女見習いロゼッタ。至急、ウキョルンパ教団本部に来られよ。以上』
今朝、兵士らしき人が家を尋ねてきた。
そして、この伝令をロゼッタが受け取ったのが事の始まり。
◇
その日の昼。あたし、ロゼッタ、そしてポコリンはテーブルを囲んで食事をしていた。
こんがり香ばしいパン。ふっわふわの白パン。硬くて長いパン。
いつも通り、あたしが村の人のお手伝いをして貰ってきたもの。
あの後ポコリンに魔法をお手伝い程度で使うことを禁止されてしまった。
けど、あたしは村のお手伝いを続けてる。
肉体労働ってやつ。
そこまでして手伝い続ける理由としてお世話になってる村で困った人を助けたいっていうのもあるけど、こうしてパンとかゴンリの実とか食べ物を貰えたりするのも大きい。
ロゼッタが作ったチーズを乗せて齧り付く。
「う~~ん!! ほっぺがおちる~~~」
「久しぶりにこんなに美味しいものを食べたポコ」
ポコリンは真剣な表情で手に取ったパンに齧り付いていた。
よく見ると、ポコリンは口の周りにチーズを付けている。
まるで別の生き物みたいになってる。
ロゼッタもそれを見て笑いを堪えようとしている様子や。
まあしゃあない。あれは笑ってしまうわ。
「あはははは、ポコリン口の周りにチーズついてんで!」
あたしは耐えきれず、ついに笑ってしまった。
「なっ!!」
あたしに指摘を受けたポコリンは、顔を赤くしてキョロキョロと見回し始めた。
あっ、もしかして布巾を探してんの? 目の前にあるのに見えてないんかな。
慌ててる時に限って探してる物が目に入らないって、あるあるやんね。
あたしはそんなポコリンの挙動が面白いので教えてあげない。
すると、ポコリンは自分の白い腕の方を観た。
そして、口を徐々に腕に近づけていく。
ぽ、ポコリン。あんた、まさか......。
「ポコリン。そんなことしてはいけません。これ、どうぞ」
ロゼッタが笑いを堪えながら、布巾をポコリンの目の前に突き出した。
ポコリンはロゼッタから、布巾を奪い取る勢いで受け取り、口を拭く。
「ロゼッタ。助かったポコ。お前は命の恩人ポコ」
「そんな。大げさです」
ポコリンは自分の目の前に置かれていた布巾を手に取って、ロゼッタから受け取った布巾と見比べる。全く同じものが自分の側に置いてあることに気付いた様子。
ポコリンはあたしの方をギリッと睨んだ。
あ、もしかして布巾が手元にあることを教えてあげなかったんバレたかな。
あたしはごめんと手を合わせるポーズで答える。
そのまま喧嘩するか? というオーラが一瞬出たが、それはロゼッタによって止められることになる。
「アカリ。話があるのです」
ロゼッタが話を切り出してきた。
「どうしたん?」
「アカリ。私は王都へ行く用事ができました。今夜出発なのですが......」
ああ、今朝、兵士が来て言ってたやつね。
もしかして留守番頼みたいとか?
「うん。あたしに任せときー! ロゼッタがいない間、盗みに入ろうとする不届きなやからから絶対に家を守るから!」
「いえ、そうではないのです」
ロゼッタは横に首を振った。
「どういうことや? 家守らんでええんか?」
「家なら大丈夫です。この村の人は盗みに入ったりする人たちではありませんし。それにこの家には盗られるようなものはありません」
「いや世の中悪い人間とかおるで?」
「大丈夫です。私の家に張ってる結果に知らない人が触れれば村の腕自慢たちが駆けつけてくれるようになっています」
「それなら大丈夫?なんかな」
この家思った以上に、防御力は硬いみたいや。
「そんなことより、私が言いたかったのはこうです。アカリも一緒に王都へ行きませんか?」
「あたしが王都に......?」
「はい。」
「ロゼッタは仕事やろ。あたしも行ってええん?」
「是非。村の中よりも刺激的な物に溢れているので、もしかすると記憶が戻るキッカケになるかもしれません」
ポコリンがあたしとロゼッタの会話に割り込んでくる。
「オイラも大賛成ポコ」
「ポコリン?」
「アカリはこの世界を知らなさすぎるポコ。魔法についてもそうだポコ。だから一回人の集まるところへ行って、見てくるといいポコ」
「そういうことなら王都はうってつけです! 冒険者や王国の魔法使いもいますし、色んな魔法が見られると思います。用事が済めば私が案内します」
ロゼッタはそういうと食べ終えた食器を手に取り立ち上がった。
「それでは、私は出発の準備をします。今夜は馬車の中で過ごすことになるので、今のうちにゆっくりしておいてください」
そういってロゼッタは食器を片づけた。
「よし、じゃあちょっと昼寝でもしようポコ」
ポコリンもロゼッタに続いて席を立ち上がった。
「えっ、ポコリンもあたしたちと一緒に行くの?」
「当然ポコ。アカリはオイラが見てなければとんでもないことをやらかすポコ」
ポコリンと再会してから一週間過ぎたけど、このウサギずっとあたしを視野のどこかにいれている。
そんなに信用無いんかな。あたしって。
ポコリンに注意されてから魔法を使用してないのにさ。
ちょっと揶揄ってみる。
「そんなこといって~。 ずっとあたしを見てるし、もしかしてあたしのことが好きなん?」
ポコリンは鼻で笑った。何こいつ。
「誰がお前を好きで見てるんだポコ。オイラにはすでに女王様がいるポコ」
「それ、あんたのお母さんやろ?」
「愛の前に親子など関係ないポコ。アカリだってアカリのおかあさんのことが好きだろポコ」
あんたみたいに、マザコンではないわ。
というか家族の記憶が曖昧でなんともいえん。
「んー、どうなんだろうね。あたし、実は家族のことも思い出せないっぽくてさ。なんとも言えへんわ」
「お兄ちゃんのことも覚えてないポコ?」
「ちょっと待って!!あたし、お兄ちゃんおるん?!! なあなあどんな人なん?」
「しまった! 教えるつもりはなかったポコ。勘違いポコ」
「教えろおおおおお」
あたしはポコリンに掴みかかった。
「やめろおおおおポコォォ。そ、そうだ!ロゼッタは家族とかどうしてるポコ?」
ポコリンは話をそらすために、出発の準備をしているロゼッタに質問した。
こいつ、ここ数日で、都合が悪ければロゼッタに話を振る癖ができた。
「私の家族ですか......」
ロゼッタの家族のことが気になって、あたしの手が一瞬止まってしまった。
それを見逃すポコリンではない。
身体をひねる様にして、あたしの腕の中から脱出した。
まあいいか。
それより、ロゼッタのこれから話すことが気になる。
「今も王都にいます......」
ロゼッタは小さな声で呟くように言った。
その顔は少し暗くて悲しそうな......。
とても、消極的な話題のように思えた。
「それなら日頃お世話になってるし挨拶しないとポコ。だなアカリ?」
ポコリンはロゼッタのそんな様子に気を遣うことなく言った。
この鈍感ウサギ。
「えっ、まあ、うん」
「私の家族ならお気になさらず。......きっと取り合って貰えないので」
ポコリンもようやくロゼッタの様子から、家庭事情を察したのだろう。
その後、あたしは話題を変えて、出発の時間を待った。




