職業勇者、剣術よりも魔法よりも優れたチートスキルを魔王の前で習得する
いつもの即興
ここに来るまで何人の仲間が死んだだろうか? ここ魔王城内だけでも10人は死んだか?
その前はどうだ? 俺が冒険者になって魔王討伐を謳って仲間や一緒にパーティーを組んだものは何人死んだ? 伝記にあるようなとりわけ英雄譚などと呼ばれる物語の中にはその中には語られていない、目立たないような死を遂げた者も数多くいるだろう、それ考えれば俺はこの戦い負けるわけには行かないのだ。
「準備はいいな?」
「ああいつでも」
「それじゃぁ開けるぞ」
絶対的自信なのか、魔王城内、玉座があるであろうその大扉の前では、俺たちが侵入していることは自明の理で、下の階で散々暴れて俺たちはここまでやってきた、なのに大扉の前には番人はおらず、大扉に耳を当てても物音1つありはしない、けれど先遣隊からの情報では確かに今魔王はこの城にいることが確認されている。
そして俺たちは大扉を開けた、その向こうは魔王城だというのに神殿のような荘厳さがあり、一直線にしかれた赤いカーペットが玉座にまで伸びていた。
「よく来たわね勇者たちよ、私はここだ殺せるものなら殺してみるがいい!」
魔王が放つ黒く澄んだ透明感のある球が無数に放たれる、それを賢者である仲間が、魔法結界を張り皆を攻撃からカバーする、魔法が止めば、作戦通りの行動が始まった。
弓使いが矢を放ち、牽制。訥々と放たれる、毒矢や麻痺矢に魔王も気づいているようで触れずに回避する。
その回避地点に、魔法使いが火球を放つ、魔法は消耗が激しいのであまり撃たないと作戦で決めていたのだ。最後の止めなど息の根を止めるときのために。
賢者は牽制しているにもかかわらず、魔王から時折放たれる魔法を結界や、自分の魔法で打ち消していた。
そして俺はと言うと、仲間の援護の元。魔王へ全速力で詰め寄っていた。
魔王が射程圏内に入ると俺は迷うことなく一歩踏み込んだ!
魔王は自分の腰に佩いていた剣を薙ぎ、俺の剣を相殺する。
その中でも仲間たちの援護の手は留まるところを知らなかったのだが、魔王は気圧されるそぶりなど一切見せず俺たちの攻撃を防ぎきっていた、実際のところ魔王は黒い全身鎧を身に纏っているため顔色は窺えないのだが、それでも洗練された動きを見るに俺たちに分がないことは知れたことだった。
けれど引くわけにはいなかいのだ、だから俺はまた距離を取り一歩! また一歩! を繰り返した。
幾度となく行われる攻防に魔王にも俺たちにも疲れが出てきていた、魔王は微弱ではあるが肩で息をしているようにも見えた。
今しかない! 俺はそう思ったと同時に身体が動きなんと魔王の兜を捕らえていた!
鈍くもあり甲高い衝撃音が部屋中に響き渡った、その時、至近距離にいた俺にだけ覗かせる、魔王の真実。
捕らえられた兜にはひびが入り2つに割れ、小気味良い音と共に地面に転がり落ちる。俺はその途端援護してくれていた仲間たちに手を挙げ、攻撃を辞めさせた。
仲間たちを振り返らずとも動揺の気配はひしひしと背中に押し寄せてきたのが分かった。
けれどこれ以上俺に戦いの意志はなかった。
異国の物語のようにぱっくりと割れた竹や桃の中からはそれはそれは美しい、姫が顔を覗かせていた。兜を割った瞬間にも、女性特有の甘美な香りや、長く流麗でせせらぎのような髪、魔王と呼ばれるには憎たらしくなく、強面が身支度をして出て行ってしまったような女性の顔。
魔王ではなく、魔王女だったのだ。
俺は今まで教わってきたすべての戦闘訓練、申し訳程度もしもの時のために教わった魔法さえも忘れ。あまつさえ今まで戦って命を落としてきた戦友のことも忘れて、最強のスキルを身に着け俺は今魔王女に挑む。
「そなたのような魔王がいてたまるか! 本当の魔王はこの私だ! さぁ! 魔王の銘だ! 貴様我と夫婦になれ!」
この場にいるもの俺以外の時が全て止まった。
名付けるならそう。 【ザ・クロック】
この後、魔王と呼ばれる黒鎧と、勇者を見たものはいない。
伝記では、勇者は自身を犠牲に魔王を倒した。とだけ綴ってある。
弓使い、魔法使い、賢者の3人は勇者の最後を語ることはなく、国の英雄として亡くなったと言われている。
そして真実は恋のように永遠に語り継がれることはなかったと言う。
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