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「母さん」

ディランは結婚したという自分について回るテルセロがうっとうしくて仕方なかった。


だが、向こうが知らないとはいえ「兄弟」であるため、あまり邪険に扱うことはできなかった。


そんな中、予想外の事態が発生し──




 自分に向かってくる悪魔を一閃し、首を刎ねて殺すと、ディランは息を吐いた。

 自分の仕事場にまでついてまわるテルセロの存在が気に障るのだ。


 そこまでして何故自分の妻に執着するのか理解できない――訳ではないからこそディランは気が気ではなかった。


 ディランとテルセロは、遺伝子上では「兄弟」だ。

 だが、テルセロはそれを知らない。

 テルセロは母親と父親について何も知らず、ただハンターとして育てられた。

 両親と事情の全てを知っているディランとは正反対に。


「……」


――家族のぬくもりを求めるのか?――


 ハンターは基本一般人から見ると「化け物」扱いされる。

 そのハンターが家族を持つなど基本あり得ないことなのだ。

 例外的にクロードは恋人ともいえる幼馴染がいるが、彼は例外中の例外、ハンターとしての実力も低めだ。


 逆にハンターとしての素質が高いディランなどが家族を持つのは夢物語――あるいは悪夢と考えられていた。

 それをディランはやったのだ。

 優月という恩人の一人を、守るために妻にした。


 家族と言うもののぬくもりをディランはほんの少ししか知らない。

 だが、ディランはそれでも家族として優月と今仕事以外の時は穏やかに過ごせている。


 アシェルとクロードがたまに訪れるのも優月の気分転換にもなっているのはいいのだが、今のテルセロに優月を見せるつもりはディランは毛頭なかった。


 何が起こるかわからないからだ。


 ディランはテルセロと言葉を交わすことなくその場を後にした。



 待機所に着くと、ディランは目を疑った。

 負傷したクロードとそれを治療する治療班とアシェルがいた。

「クロード!!」

「す、すみませ、ん」

 ごほごほと咳き込むクロードにディランは近づいた。

「何があった?! その傷は悪魔にやられたものではないだろう?」

「テルセロの野郎だよ!! 俺とクロードが談話してるの見て、クロードが一人になった時に締め上げやがったんだあの野郎!! その上クロードの仕事の端末持っていきやがった!!」

「待て、あれには――」

「そうだ、彼女がいる『アーク』の入出許可証がインプットされてる!! 早く行け!!」

 ディランは急いで優月のいる「アーク」へと向かった。






「……カレーでいいかな?」

 最近はディランさんは私に料理をさせてくれるようになって嬉しい限りです。

 お世話されっぱなしは気分がよくないですからね。


 夕飯のカレーが出来上がり、あとはディランさんが来るのを待つまでと言う時に、チャイムが鳴りました。

 チャイムが鳴るというのは大体クロードさんの時です。

「はーい」

 私は早足で玄関に向かい、玄関を開けると――そこにいたのはクロードさんではなく、赤髪に碧眼の男性でした。

 クロードさんと同じ位の年に見える位の男性でした。

「あ、あの……どちら様でしょうか? ディランさんのお知り合いですか?」

「あ――うん、そうです」

「は、はぁ……そのディランさんなら今お仕事なので……」

「あのさ、ディランの奥さんって君?」

「は、はい私ですが……」

 奥さんと問われ、躊躇いがちに答える。

 戸籍上奥さんになってるみたいだし、事実なのだが、奥さんらしいことがほとんどできていないのでちょっと後ろめたい。


「へー……」


 顔がずいっと私の顔に近づいてきたので、私は慌てて後ろに下がります。

 男性は私の方にどんどん近寄ってくるので、私は怖くて後ずさります。


「きゃぁ?!」


 後ろがソファーだった為そのままソファーに倒れ込んでしまいました。

 するとその方は私に手をのばしてきて――





「優月!!」

 ディランが住処に戻ると、靴の後が残っていた。

 ディランは靴を脱ぐのを忘れて部屋の中へと急ぎ足で足跡を追う。

「優月……?!」


「やっと、やっと見つけた、僕の母さん……」


 優月の腹に頬をすり寄せ、腰に手を回して抱き着いているテルセロがいた。


――何を、言っているんだコイツは?――

――お前の親は――


「優月、何があった?」

 ディランは優月をあまり驚かせないように静かな声で言った。

「ディランさん……その急にこの方が私を『母さん』と呼んでこのように……驚いてますが、何処か可哀想で……」

「――」


 優月には「家族のぬくもり」を知らず、ハンターとなるべく育てられたテルセロが可哀想に見えたことにディランは驚きを隠せなかった。

 不気味よりも、哀れに見えたことが信じられなかった。


「ごめんなさい、私は貴方のお母さんではないのです」

「いいや、僕の母さんだよ。間違いないよ、貴方は僕の母さんだ」


「――否定をしてもこうなんです」


 困り果ててる優月を見てディランははぁとため息をつく。


――仕方あるまい――


「優月すまんな」

「え」


 ディランは優月に謝ると、テルセロの頭に拳骨を落とした。


「っ~~!?!?」

 思わず優月から離れて頭を抑えるテルセロの首根っこをディランは掴んだ。

「私の妻を困らせるなテルセロ。お前も、私も母親と父親は不明。その上お前は試験管の中で育った。優月は母親ではない」

 優月にはまだ言ってはいなかったが、こんな形で言う事になるとはディランも思ってもいなかった。

 優月は驚愕の表情を浮かべている。

「分かったら、帰るぞ、お前の所為で大変なことになったんだからな。謹慎も覚悟しろ!」

「嫌だ! ようやく、ようやく、俺は母さんを見つけたんだ!!」

「ええい、この分からずやが……!!」

 駄々をこねる「子ども」は厄介だとディランはこの時理解した。


「――テルセロさん」


 優月がテルセロの頬をそっと両手で包んだ。


「ディランさんの言う通り、私は貴方のお母さんではないですし、まだ誰かのお母さんになれるほどの存在でもありません」


 優月は幼子に言い聞かせるように優しい声でテルセロに言い聞かせた。


「でも、貴方がそう望むなら『お母さん』というものを頑張って貴方の為にやらさせていただけないでしょうか?」


 優月がそう言うとテルセロの目が見開かれ、そしてうっとりと細められた。


「ああ、やっぱり貴方は僕の母さんだ――」

「優月離れろ、この馬鹿を連れて一度戻らなければならない」

「わかりました、ではテルセロさん。次はちゃんとした方法で来てくださいね」

「わかったよ、母さん」


 そのやり取りに、ディランははぁとため息を吐いて、テルセロを引きずっていった。



 テルセロは一ヶ月仕事以外の外出禁止の処分をうける羽目になり、暴れたのだがディランが「お前の『母親』の友人を怪我させたんだ、それ位我慢しろ」と耳打ちすると大人しく受け入れた。





「優月ちゃん、度胸あるねぇ」

 ディランさんがテルセロさんを連れて行ったあとにやってきたアシェルさんにそう言われ、私は首を振ります。

「確かに怖かったですが……彼の目が迷子の子どものように見えてどうしても……」

「……あんまり優しすぎるのもよくないよ」

「そうでしょうか?」

「そういうもの」

 アシェルさんにそう言われましたが、私はそう思えませんでした。

 母を喪ってから、愛情を与えられず育った私と――どこか似ているように見えて見ぬふりをすることができなかったのです。







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