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クソみたいな人生の転機

御園(みその)優月(ゆづき)は母を亡くして以来、実父と後妻、腹違いの弟達から虐待を受けていた。

ある日、家の事業が傾き父親に売りにだされそうになるのを察知して優月は家を出ようとすると、予期せぬ人物との出会いがあった。


最悪の出会いと思い込んだが、それは最高の再会だと後に気づくことになる──




 私の人生はあまり良いとは言えなかった。

 実父に構って貰った記憶は全くない。

 母は、私を愛してくれて大切にしてくれたけど亡くなってしまった。

 そこから一気に悪くなった。

 実父は何も言わずにいきなり再婚。

 母が死んで葬式をして一週間もたたずに。

 そして実父と後妻は私を冷遇した。

 その後に産まれた弟と妹だけを可愛がった。


 まぁ、そんな親だ、弟と妹も、ロクでもない。

 学校に上がるなり、私の周囲に色々仕向けて私を排除――まぁ俗にいういじめをさせるよう仕向けた。

 ロクでもない奴らだ。

 なのに外面だけはいい。


 ムカつく。


 高校だって、私にはお金も出したくないが高校と大学出さないと外聞が悪くなるからと言われた。

 だから公立――でも頭のいい高校に入学した。

 腹違いの弟と妹は私立のお金が凄くかかる、中学に入学した。


 連中は私を馬鹿にして、嗤っていた。


 そうしてると、とんでもない事が起きた。

 実父の会社が傾いたのだ、大きく。

 何とかしのぐにはお金がいる、でも誰も出資してくれない。


 実父達は私に売春でもなんでもして金を稼いでくるように言った。

 私は、もうこいつ等駄目だと逃げる準備を始めた。

 その矢先の出来事だった――





 学校が終わる、相変わらずクソムカつく腹違いのクズ共がやってくれたことで私はこの学校でもいじめられている。

 教師たちは無視、この国いじめ対策最悪なんだよ、公立だといじめ見つけると評価下がるから皆無視しやがる。


 でも、もう関係ない。


 私は今日、家に帰ったらそのまま家を出る。

 二度とここには戻らない。



 そう、決めていた、だけども――



 スマートフォンが震える。


 今どの国でも就学の年齢になると皆スマートフォンを持つのを義務付けられ、定期的に新しい機種に更新する事も義務付けられている。


 舌打ちして、取り出すと番号が表記されていた。

 だが、誰か分かった。


 実父だ。


――何だ、今まで一度も連絡なんてしなかった癖に――


 嫌な予感がして着信拒否する。

 すると別の番号から。

 今度は後妻だ。

 同じく着信拒否する。


――さっさと家に帰ろう、嫌な予感がする――

――そして家を出ていこう――


 私はそう決めると、急いで家へと向かった。

 帰ったら、出て二度と戻らないと決めた家に。



 家に帰ると、まだ誰もいないらしく鍵がかかっていた。

 鍵を開けて、物置部屋兼私の部屋に行き、母の形見とかそういうのを前々から隠していたのを全部鞄に詰め込んで写真もぶちこんで、母の残してくれた通帳とか印鑑も詰めて部屋を飛び出そうとした。

 腕を掴まれた。

 真っ白な、男の手に。


「?!」

 驚いて振り向くと――白銀色の長い髪に、碧眼で、白皙の思わずびびって硬直する位綺麗な男性がいた。

 その男性は実父が着るスーツよりも明らかに何ランクも上の黒いスーツを着ている。

 明らかに別世界の存在なのが分かった。


 けれども、何か頭にひっかかっていた。

 どこかで見かけたような顔なのだ。

 しかし、何と言うか思い出せない、きちんと。

 すごーい昔、どこかで似たような顔の人物にあった気がするのだが、どこでだったか全く思い出せない。


優月(ゆづき)

「……あの、どなたですか?」

 何故名前を知っているんだろう、この男性は。

「――私は君の結婚相手だ」

「……はい?」


――は?――


 男性の言葉に、耳を疑って、少し考えて、理解した。


――あのクソ野郎共私の事売りやがったな!!――


 頭が沸騰するような怒りが沸くのと同時に、すーっと褪めるような絶望が押し寄せる。


 自分は、逃げられないし、踏みにじられるだけの人生を歩むしかないんだって分かって。


――どうでもいい――


 一気に、全てがどうでもよくなった。

 逃げたところで、無駄なのが分かる。


 何をやっても無駄だ。


――どうしてもっと早くに逃げ出さなかったんだろう――


 辛いけど、泣けなかった。


 悲しいけど、喚けなかった。


 ああ、私の人生は、こんなものかと、他人事のように感じてしまった。


 他者に踏みにじられるだけの人生。


 灰色の世界。

 色のない世界。



 神様はいつも見てくださると言うが。

 そんなの嘘だ。

 だったら、何で優しいお母さんが死んだ?

 だったら、どうして他人を蹴落とすことしか頭にない連中が我が物顔で歩いてるの?

 ねぇ、どうして?

 どうして……



「……あのさディラン、どう見てもお前不味ったんじゃねぇか?」

「……」

「はい、其処無言になるな」


 何か話をしている。

 でも、どうでもいいことだろう。


「お前、優月ちゃんを助けたいからあのオッサンに金出したんだろ?」


――たすけ、たい、から?――


 一致しない言葉が飛び出してきた。

 私は耳を疑った。


「というかさ、何で養子とか考えなかったんだよ?」

「私は優月を他のどこぞの知らん男などにやりたくない」

「って言ってもさ、さっきの反応的に、優月ちゃんお前の事覚えてるか微妙だぞ?」


 俯いてた顔を上げる。

 先ほどの男性の隣に、黒髪に青い目の男性がいた。

「おい、ディラン。ちゃんと説明しろ」

「……優月、こんな場所では話したくない。君の安息がないこの場所では話したくない、だから私に着いてきてくれないか?」

 ちゃんとその人の顔を見れば、私の事を――心配している顔をしていた。

 だから、私は頷いて鞄を持ってついて行った。



 高そうな車、長い車、外車の類だと思う。

 それに乗るように促されたので乗る。

 車内は広く、普通の車とかバスと違って長いソファーみたいなのがあった。


 躊躇いながら乗り込んで座ると、白銀色の長髪の男性は私の隣に、もう一人は向かい側に座った。


「……あの、さっきのはどういう意味ですか?」

「ん?」

「助けたい……って……」

「……そうだな、その説明の前に見て欲しい物がある」

「……?」

 男性はそう言って、黒い鞄の中から、何かを取り出した。


 少し古い感じの小さなクマのぬいぐるみ。

 首の青いリボンに、ハートマークの片割れがついている。


 私はそのぬいぐるみに見覚えがあった。


 急いで鞄の中から母親の形見の袋の中に入れてあるものを取り出す。

 袋の中には、ピンクのリボンに、ハートマークの片割れがついた、クマのぬいぐるみが入っていた。

 私の方のぬいぐるみの背中には自分の名前がローマ字で刺繍されている。


 男性は持っているぬいぐるみの背中を見せた。

 ローマ字で私の名前が、刺繍されていた。


「――10年以上前に、君から貰った物だ」


 男性は静かにそう言った――




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