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『魔刻』-新人退魔師の事例-  作者: 夢乃モグラ
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噂の幽霊屋敷

 腕に覚えのある海将は、ちょっとした小遣い稼ぎのつもりで応募したバイトで、見た目が小学生の様にしか見えない胡散臭い所長に騙される様に、幽霊退治を手伝うことになる。

 仕事の内容は『呪いの人形館』と呼ばれる幽霊屋敷に巣食う悪霊を、霊媒少女、碓氷レイを補佐して祓うこと。しかし、レイは小生意気で、二人は仕事の始めから衝突を繰り返す。

 果たして彼等は、仕事を完遂することが出来るのか?

 

 とある国立大学の掲示板の前、甲島海将は今日も暇だった。

 入学して半年以上が経過し、大学生としての生活にも慣れて来た。

 半期の成績が発表され、心配された単位の修得もまずまず、少し気を抜いて、学生らしい遊戯に耽ろうかとも考えて、現実に向き合うと、先立つモノが少々不足気味な事に気が付いた。

「何か小仕事でも…」と、掲示板に張り出されたバイト募集のチラシを眺めていると、その中に気になる案件を見つけた。

 雇い先は『紅超常現象研究所』。仕事内容は『研究調査の補助及び補佐』。

資格要件に取り立て記載は無いが、特記事項に、体力・腕力に自信がある方、特に頑丈で格闘技経験等ある方、優待遇と明記してある。

 因みに、彼の実家は、江戸時代から続く柔術の道場であるからだ。

 それ故に、彼は物心付く前から、その修行を始め、歩き始めると同時に受け身を覚えた。

 それに、報酬が破格に良い。

 一回の仕事の依頼の最低報酬は十万円以上。

 出勤は依頼ごとの不定期(月一・二回)。

 だが、応募の動機はそれだけではない。…むしろ理由は良く判らない。

 数多ある求人募集のチラシの中で、特に、この募集要項に惹かれたのは何故だろう。 

 海将は、引き寄せられる様に掲示板からチラシを剥ぐと、連絡先にメールを送っていた。

 返信は直ぐに来た。

『今回は我が研究所の求人募集に応募頂き有難うございます。付きましては契約の詳細を話したいと思いますので、履歴書、印鑑等持参の上、本日中に下記の住所に御来訪下さい。お待ちしております。 FROM ー紅超常現象研究所ー 所長 紅ミサト』

 一読して、『かなり強引な要求だな…』とも思ったが、その時もまた諦めるよりも、言われるままに『急がねば』と言う感情が優先された。

 不思議と、急かされる事に、あまり違和感を感じなかった。

 仕事内容が、好待遇と感じる以前に、絶対に何かに惹かれていた様な気がする。…惹かれていたと言うより、むしろ何かに取り憑かれた様にと言った方が良い。


 履歴書をコンビニで購入して、書式に従って簡単に書き込み。

 昼食を挟んで、三時間後には指定の住所の雇い先の建物の前に到着していた。

 大学より少し郊外にある。地上3階建て。鉄筋コンクリート造り。

 こぢんまりとして目立た無い外観をしているが結構キレイな建物だ。

 表看板は『紅超常現象研究所』とだけ、建物に他の企業・店舗が入っている様子は無い。

 ビル一棟が、研究所の所有する施設なのだろうか?

 周囲を見回しながら、玄関に入って、ケッコウ美人で礼儀正しい、受付の女性に、携帯端末の返信内容を見せながら要件を伝えると、直ぐに求人募集の担当責任者に連絡を取ってくれた。

 その時気が付いたのだが、

『募集担当の責任者が所長? 所長ってこの研究所で一番偉い人だよな…?』

 なんだか仰々しい感じもする。…受付の女性に案内されて、行き付いた先も所長室だった。


「やあやあ、よく来てくれたね甲島海将君。今回は応募してくれてありがとう! ああ、自己紹介が送れたね。私はここの所長の紅ミサト。人材管理の担当も私がしている。…何せ、ここの人員は適正があって、扱いが難しいからね。今回の様に運良く適材適所とはいかなくて…。アア、履歴書は? 持って来てくれたね では、早速、詳しい仕事内容の説明と、正式な契約を…」

 ノックを入れて室内に入るなり、対応に現れた所長らしき人物を見た瞬間、海将は、失礼だが、思わず言葉を失って、その状態で固まってしまっていた。

 現れたのは何と言うか、…所長の印象からは酷く掛け離れた存在だったからだ。

 女性である上に、容姿が、かなり若い。若いと言うより幼ささえ感じる。

 中学生か小学生と言ってもいい様な外観の少女だったからだ。

 しかも、室内なのに、コスプレしているかの様なトンガリ帽子。

『魔法少女かい!』と思わずツッコミたくなる。

 彼が指摘しなかったのは、矢継ぎ早に、畳み掛ける様に喋り続ける室長少女の勢いに呑まれたのと、発言の内容に違和感を感じ無かったから…。だから、その違和感は、そのまま流された。

 誘われるままに執務室のソファに座り。言われるままに履歴書を取り出し手渡していた。

「イヤ~、予定外の依頼が入っちゃってね。人員の配置が間に合わくって困ってたんだ。…悪いけど今からでも仕事に入ってもらいたいのだけど、いいかな?」

 履歴書に目を通しながら、紅ミサトは、最早、契約が成立したかの様な調子で喋り続ける。

「ハイ? 今からですか? …まあ構いませんけど。仕事の内容が、補助業務としか聞いていなくて、…結局、自分は具体的に何をすればいいのでしょうか?」

 仕事探して来たのだから、それはやぶさかではないのだが。…問題はそこからだ。

「仕事の内容は、まあ、そのままかな…。正規社員に付いて現場に向い。業務遂行の手伝いをする。

うちの研究所の仕事は調査や資料の収集が主だけど、時々、現場を妨害する不届きな存在が現れることがある。そんな時には自動的に実力で排除する業務に移行する」

「ハイ? 超常現象研究の現場を荒らす不届き者って?」

「マア、ガチモンの悪霊とか妖怪とかかな、偶に居るんだなこれがァ」

 ミサト所長は、事も無さそうに軽快に応える。

 海将の中に、一抹の不安が沸き上がったのは言うまでもない。

「…自分、腕っぷしには自信がありますので、人間の素人相手なら五人位に囲まれても何とか出来る自信がありますが、幽霊の類と対戦したことは無いんですが…」

 何故だろう。このヒトを前にすると、『そんなの居る訳ないでしょう』と笑い飛ばす気にも、怒って席を立つ気にもならない。…まともに信じ込んでしまう自分がいる。

「アア、その辺は心配しなくても大丈夫。…私の出した募集要項に気付いて、ここに来た時点で彼方には適正がある。アレには私特製の呪符が編み込んであるのだから。…選ばれない者は、そもそも、招かれない。この研究所に辿り着くことさえ出来ない。それ以前に、存在に気付くことすらないかも…。それに彼方は『甲島流柔術』の継承者でしょう? あの甲嶋為衛門が創った」

「ウチの流派をご存知で…?」

 海将は、そちらの方に驚いた。江戸時代の初期から続く由緒ある流派とは言え、地方の町道場の話である上に、明治以降は、最近まで廃れていた流派でもあるからだ。

 開祖、甲嶋為衛門は、嘗ては近隣に名が轟く程の豪の者としてて知られていたらしいが、所詮は巷説の噂話程度のこと…。今では、その逸話は直系の子孫が僅かに語り継ぐのみだ。

 その異聞の中には、魑魅魍魎と闘い撃退したと言う類のモノも、確かにある。

 一族の中で細々と継承されていた技を甲島流格闘術として道場を再興したのが海将の父、武則だ。父は現在、巷で、そこそこに顔と名の知れた総合格闘家となっている。

 因みに、海将は四人兄弟。皆、父から流派の手解きを受けたが、長兄の出雲は警察官。次兄の陸相は自衛官。そして、彼海将は三男で只の大学生だ。甲島流道場の看板を引き継ぐのは、もっぱら四男の空だろうと言われている。彼は高校に入ったばかりで、まだ若いが、格闘技に関しては他の兄弟が目を見張る程の才能を持っている。

「別に信じなくても良いけど、甲嶋為衛門は生前、今の彼方がしようとしている仕事と、同じ様な仕事をしていた時期があるの…」

 海将は、コクリと頷いていた。真偽はともかく、それは知っている。だが、噂には尾ひれが付くものだ。そして誇張されて行く。だから彼とて信じ込んでいた訳では無い。 

「だから、その子孫の甲島君が、今、ここに現れたことに、私は運命めいたモノを感じているわ。…大丈夫、何が在っても充分な補償が付くし、危険手当が付けば一回当たり仕事の報酬が、最低でも五拾萬は下ることは無いわ。…後、安全を考慮して、ウチの研究所で開発した退魔強化服も支給しちゃう。防弾。防刃。防寒機能に加えて魔除けの効果まで付与された優れモノよ。動力も筋力強化機能も無いから、動かすのは基礎体力が基本だけど、君の体力なら問題は無いでしょう。むしろ問題は、今回、君とペアを組む予定のウチの正規構成員の方かな…。彼女、腕は立つんだけど、世間ずれしない上に気難しがり屋なお嬢ちゃんでね。…馴れるまで取り扱いには注意が必要かな」

「女の子ですか?」海将は眉を顰めていた。

 彼は女性嫌いと言う訳では無いが、厳粛な様で大雑把、堅苦しい上にむさ苦しい男ばかりの生活環境で育って来たので、根本的に異性の扱い方に自信がないのだ。

 因みに、中学校・高校も共に男子校の出身者だ。

 知らないことは不安に繋がり、苦手意識に変化しやすい。

「そう、君の仕事は、むしろ彼女を迫り来る危険から守り抜くことにある。…任せたよ海将君!」

「ハア、それはもう。…もっと詳しく今回の仕事の話を聞かせてもらいませんか?」

 海将は『勝手なことを言うなこの人は…』と思いながら、ここは仕事と割り切ることにした。

 やはりそうだ。…今回も不思議と、彼の頭に仕事を断ると言う選択肢は思い浮かばなかった。

 良く考えればおかしなことだ。

 目の前で、ニコニコと笑う、この魔法少女が何か仕込んでいるとは思いもしなかった。

 後に判った事は、目の前の女の子が、他人の考えを操るのなんてお手のものの、魔法少女ならぬ、本物の魔女であるという事実だった。…今の彼は、そんなこと知る由も無い。


 その約一時間後。雇用契約の手続きを終え、仕事の内容の詳細な説明を受けた海将は、研究所から支給された耐心霊強化服と、移動用バイクに跨り、指定された現場に向うことになった。

 出発に際しては、ミサト所長と、受付の女性までもがやって来て彼を見送ってくれた。

 これも、後で知った話だが、彼女の名は六道美香。研究所の事務方の責任者で、肩書は一応、副所長さんであるらしい。小柄なミサト所長と並ぶと、ともすれば親子の様にも見えるが、二人は高校時代の同級生からの付き合いであると言う。高長身でスタイルの良い女性である。ミサトと比べると、より大人の女性らしい魅力が際立つ。…所作や肉付きから察するに、武道経験者である事に間違いは無い。それも相当の実力の持ち主だと海将は一目で看破していた。

「彼、大丈夫でしょうか? …今回の依頼は、既に本格的な心霊対象案件に認定されている上に、対象の霊格は低いけど、観察されている霊障レベルはAランクの結構、危険度が高い物件ですよ? …正規の退魔職員とは言っても、レイも初心者ですし…」

 頬に手を当てて心配そうに言いながら、美香は、隣で手を振って遠ざかる海将の背中を見送るミサトに、僅かに視線を移す。…こう見るとミサトは無邪気な子供の様にさえ見える。

「大丈夫でしょ。イザとなったら私が出るし。近くに待機要員もいる。何より、今回の仕事の主な目的は将来を嘱望されているレイちゃんの大事な昇格試験だからね。私達が手を出しては意味が無い。彼女には場数を踏んで、もう一皮も二皮も剥けてもらわないと。彼女の事だから、与えられた環境を上手く使いこなして私達の期待に応えてくれるさ。きっと…」

 所作や外見は子供のようでも、トンガリ帽子の鍔先から垣間見える彼女の眼には、他者を圧倒する眼力が見受けられる。瞳の奥底が、時折、金色に輝くのは錯覚では無い筈だ。そこには、長年の経験が培った説明不能の説得力と言うヤツが滲み出ている。

 美香は黙って見送るしかなかった。

 

 研究所を出たのは午後三時頃。現地に到着したのは更に時間が経過した夕方前だった。

 季節は秋、もう直ぐ晩秋。午後四時を過ぎると日は随分と傾く。

 指定された現場は、市街からは随分離れた郊外の山の中にある別荘地だった。

 街灯も無い山の中、陽が落ちて陰ってくると、包装された道路でも、足元が見え難くなって来る。木々に囲まれて人気の無い道は、それだけで、より薄気味悪く感じる。

 現場に到着する前に、海将は説明を受けた、仕事の内容を頭の中で反芻してみた。


 目的地は、現在『呪いの人形館』と呼ばれる観光施設の跡地だ。

 この辺の土地は避暑の別荘地として利用されているが、それでも今は閑散としている。

 だが、我が国の景気がバブルと言われた随分昔の頃には、娯楽施設の開発地として、それなりの賑わいを見せていたらしい。今は殆どの施設が、閉鎖か放置に追い込まれている状態だ。

 この施設も好景気の折、高名な人形師と開発業者が協賛して建設された娯楽型宿泊施設だった。

 建設の段階から、不幸な事故が相次いだものの、何とか開業に漕ぎ付けた途端、景気が低迷して、三年も待たぬ内に経営が破綻し頓挫した。協賛していた企業は倒産し、逃亡し、経営にも関与していた人形作家が、莫大な借金を押し付けられ、家族の不幸も重なった揚げ句、数年後、現地で失意の自殺を遂げているのが発見された。

 その後、引受け先も無いまま施設は閉鎖され、忘れ去られ、朽ち果てるばかりだったのだが…。

 数年前、この施設の跡地に国の開発計画に基ずく高速道路の計画が持ち上がった。

 業者が現地に入り、測量した結果、高速道路計画の建設用地内に今回の依頼の建築物が、そのまま残っていることが判明した訳だ。…残っていると言っても現状は廃墟である。

 巷では、施設閉鎖までの経緯が面白半分に拡散されて、この『呪いの人形館』は、一時は誰もが知る心霊スポットだったらしいが…。それらの噂の口先からも、この館の存在が消えて行ったのは、ここが訪れるものに、確実な不幸をもたらすガチ物の『呪いの館』であったかららしい。

 遊びで館に入り込んだ侵入者が、相次ぎ不審死したからとも言われている。

 追跡調査により、総計八名の不審な死に絡んでいる事は間違い無い。

 以降、施設は忌避され、地元の人間、関係者にすら存在しないかの様に扱われた。

 高速道路の建設の為、現地に入った業者は、用地の買収までは滞り無く進んだ様だが、いざ施設の取り壊し作業に執り掛かろうとする段階で、早速、問題にブチ当たった。

 重機の事故・故障から始まり、現場の作業員に、次々と突然の重病の発症や事故の発生、それに伴う負傷や入院。不幸は、その家族にも及び、揚げ句、現場の調査為に、施設に立ち寄った現場監督の原因不明の失踪。後に現場監督は、施設から程近い山林の中で死体となって発見されている。

 死因は心臓発作。

 しかし、死亡時の状態は何者かに追い回されて逃げ回り力尽きたかの様だったと言う。

 これによって高速道路の開発機関も建設計画を一時凍結せざるを得ない状況となり、こういった事例の相談先である『紅超常現象研究所』に処理の依頼が回って来たと言う訳だ。

 

 辿り着いた現場は、鬱蒼とした茂みに覆われる山の中にあった。

 施設の門の前には、重機が置かれているが、施設内には殆ど足が踏み入れられた形跡が無い。

 海将は、背嚢から警棒にも兼用出来る懐中電灯を取り出して、門の外から、闇の中に僅かに浮き上がる施設の建物を照らして見る。…思っていたよりも大きな建造物だ。

 薄暗い宵の中で見ると、威圧感と不気味さが尋常で無い。途端に帰りたくなった。

 しかし、ここまで来て、それは無責任だ。意を決して門扉を潜る事にした。

 門に鍵は掛けられていない。足を踏み入れたのは、嘗ては手入れされた広い庭園の様だが、今は、生い茂った木々が不気味さを一層際立たせている。

 僅かに残った石畳の通路を辿って、施設玄関に辿り着いた。

 白い洋館。…この国の伝統的な建築物とは懸け離れていて西洋の城の様だ。

 設計に携わった人形作家は、明治期には爵位を買い漁った程の富豪の末裔と言うから、そう言ったハイカラな趣味を受継いでいたのかも知れない。しかし、嘗ての面影はもう無い。

 今の処、自分以外の人間の気配は感じられない。

 ここで落ち合う筈の研究所の職員の姿は、未だ見受けられない。

 このまま、ここでジッとしている気にも成らない。…増すのは弱気ばかりだ。

 海将は、意を決すると、洋館の正面玄関の扉に手を掛けていた。

 その時、突然誰かに背中を叩かれた。

「!!!」

 海将は、声にならない声を上げて飛び上がり、踵を返して身構えていた。

 そこに居たのは、今迄何処に居たのか、何処から現れたのか、白衣の上に千早を纏い緋袴を履く、巫女装束を着込んだ見知らぬ少女だった。…歳の頃は十代後半。キッチリと切り揃えられた長い黒髪が、さらに清楚さを際立たせている。美少女と言っても良い。

 片手に僅かな光源の灯火具を持ち。気配も無く暗闇に浮き上がっている姿は、一瞬幽霊かとも思って、海将は飛び上がって身構えたが、間違い無く実在する人間の様だ。

 危なく、咄嗟に警棒と兼用の頑丈な懐中電灯で殴り付ける処だった。

 海将は冷静でいられた自分にむしろホッとしていた。

「…臆病者」

 しかし、少女が漏らした辛辣な第一声に、海将は己が耳を疑った。

 静かで抑揚の無い綺麗な声なのに、相手の剥き出しの精神を抉る様な鋭さがある。

 彼女の声には、調子良く乗せられるミサトの声とは違い無抵抗に心に染み入る作用がある。

 そんな効用のある言霊でも宿しているかの様だ。

「まったく、こんな役に立ちそうに無いド素人寄越して、どう言うつもりかしらミサト様も…」

 感情の起伏の乏しい無表情な顔で、辛辣な言葉が、その口からポンポンと飛び出して来る。

「あ、あの…、君、いや、彼方がミサトさんが言っていた碓氷レイさん?」

『なッ、何おう!』と憤り立つ自分を抑え込んで、海将は辛うじて真面に対応出来た。

「そうよ。…そこをどいてくれる屑。私は先に進みたいから。怖いなら彼方は先に帰ってもいいわよ。付いて来ても良いけど、くれぐれも私の邪魔はしないでよね」

 彼女の言葉の中に好意は無い。彼に対する嫌悪しか感じ取れない。即ちツンデレでは無い。

 このまま帰ってやろうかとも思いながら、こめかみが引き攣るのを必死にこらえ、海将は彼の横を素通りして、躊躇い無く施設内に入って行くレイの後を追ったのだった。

 報酬と雰囲気に、安易に流されたとは言え、彼女一人をこの場に置いて踵を返すのは無責任に思えたからだ。それに、彼女は単に他人とのコミュニケーションを取るのが下手なだけの不器用な少女なのかも知れない。…そうであればまだ理解が出来る。そうであって欲しいと海将は切に願った。


      ☆彡  

永遠の魔法少女、紅ミサトの再登場。

但し今回の主役は、格闘技の得意な男の子と、霊媒の女の子。

可能な限りの短編を目指して『魔刻』シリーズの第二編。

連載三回の予定です。

スランプなので軽く行きましょう。


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