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戦うネコと守るイヌ  作者: ゾンビ・モトモト
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07 「テレビ局にて」

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07 「テレビ局にて」


 ラミーとリオは副調整室を制圧し、タイムキーパーの女性だけを残して他の者を追い出し、ドアをロックした。それに呼応するかのようにブルは二番カメラの足元へ行き、ロケットランチャー開いて大声をあげた。

「黙って言うことを聞け。さもなくばこの建物ごと全員を吹っ飛ばす!」

 すかさずペルシャ猫のウォッカが続けた。

「このブルドッグのおっさんは本気だ。ついでにおれも本気だ!」

 ウォッカがフロアディレクターの足首に爪を立てると、彼はどさりと崩れ落ちた。女性キャスターが悲鳴をあげる。

「お嬢さん、大丈夫。ただの麻酔だから」

 バーボンはいつの間にか彼女の足元にいた。

「いや、やめて!」

 足を跳ね上げながら彼女は声をあげる。

「大丈夫。ちょっと演説させてもらうだけだから」

 バーボンはテーブルの上にひらりと飛び乗ると、男性キャスターの原稿の上に座った。その男性キャスターは目の前に座った三毛猫を抱き上げようと両手を出した瞬間にどさりと崩れ落ちた。

「番組をご覧の皆さん、ご心配なく。ただの麻酔です。二時間後に二日酔いのような症状を伴って目を覚まします。我々特殊仕様の猫は爪が麻酔針になっておりますので、ご注意を」

 バーボンは左前足の爪をにゅっと伸ばし、にやっと笑った。局のスタッフにとっては緊急事態のはずなのだが、先ほど崩れ落ちた男性キャスターの口調をまねたパフォーマンスでスタジオに軽い笑いが起こる。

 そのタイミングで、女性キャスターのインカムに聞き慣れない声で指示が出された。

「『今日はどういったご用件で』と言ってください」

 ラミーからの指示だった。女性キャスターの方も具体的な指示のおかげで腹が据わったのか、普段のようにインタビューをこなしはじめる。それに答える形でバーボンが語る。

「番組の冒頭で紹介されたダイナーを占拠している者たちもそうなのですが…」

 彼らは犬や猫に記憶を移植された受刑者であること、その前は兵士、警官、義勇軍であったこと、移植先である犬や猫の脳とうまく融合できたおかげで人間としての思考や感情を失わずにすんだこと、軍に改造されて様々な特殊装備を内蔵していること。バーボンは誠実に的確に女性キャスターの質問に答えてゆく。

「では、なぜ今回ダイナーやテレビ局の占拠といった暴挙に踏み切ったのでしょうか?」

 女性キャスターは世界で初めて事の核心に触れるのだという優越感を目にたたえつつ、あえて穏やかな口調で切り出した。

「先日、我々の部隊はかつて中国系企業の研究所であったところに潜入し、調査する任務を遂行しました。その研究所は簡単に言うとテレポーテーション(瞬間移動)の実験をしていたわけですが、実は軍はその施設を既に支配下においていたのです。潜入調査というのは表向きで、実際は我々にその装置を使用させて実験しようとしていたのです」

 バーボンは苦しげにひとつ息をした。女性キャスターはそれを気遣いつつも、好奇心を抑えられずに続けてたずねた。

「どんな実験だったのですか?」

「無事に瞬間移動させるのではなく、十六人の部隊をまるごとひとつの塊にしてしまう実験です」

「ええ!?…十六人ということは実際に行われたのですね?」

「我々に先発している隊がありました。ボクサー隊長以下十六名が大きめのビーチボールのような塊になっていました…」

「ひどい!なんてことを…」

 絶句する女性キャスターのインカムにラミーからの指示が入り、再び彼女は口を開いた。

「バーボンさん、もうそろそろお時間のようです。最後に何かおっしゃりたいことがあれば、どうぞ」

 女性キャスターに向かってうなづいたバーボンはきちんと座り直すと、カメラ目線で語りはじめた。

「私の名はボブ・ジェイミソン。妻のエリーにひとこと言いたい。エリー、おれはもう死んだことになっているはずだから、おれのことは忘れて再婚してくれ。…もうしてるかな?もしそうなら安心だ。娘のアン・ジャネットはもうすぐ二歳だっけ。やっぱりパパが『ねこ』ってのは良くないよ。賢い子だから、すぐに新しいパパに慣れてくれるよ。大丈夫。愛してるよ。それとテレビの前の皆さん、私の話を聞いてくれて、ありがとう。もしよかったら、今から出て行く私たちを悪い奴らから守ってくれないかな?じゃあ」

 そう言い残したバーボンはウォッカ、ブルとともに副調整室の階段に向かって走った。


「おねえさん、名前は何て言うの?」

 放送を終えてCMに切り替えたラミーが隣にいるタイムキーパーにたずねた。

「今話してらしたジェイミソンさんの奥さんと同じ。エリーよ」

 涙を拭いながら彼女が答える。バーボンに同情したというよりも、偶然同じ名前だった妻の方に感情移入してしまったのだろう。

「そっか。エリー、おねがいがあるんだけど」

「なに?」

「もうくたくたで動けないんだ。抱っこして正面玄関とは違う出口に連れてってくれない?」

 するとエリーは恥ずかしそうに微笑んでラミーを抱き上げた。

 エリーに抱かれて副調整室から降りたラミーは、下で待っていたバーボンにちょっとした奇跡を紹介した。するとバーボンは

「へえ。やっぱり『エリー』ってのは美人が多いのかな」

 そう言って妻と同じ名のタイムキーパーの足に体をこすりつけた。ブルはブルで、

「ラミーに搭載された武器は『女ったらし』だな。俺も猫にしてもらえばよかった」

と悪態をついた。

 先行してドアのロックを解除したリオに急かされ、彼らはスタジオを後にする。ドアを抜けるときにウォッカは、おれは歌いたかったなあと言ったが、誰も聞いていなかった。



 タイムキーパーのエリーに連れられてハンプシャー通りに面した裏口から脱出したブル、リオ、ラミー、バーボン、ウォッカは大きく迂回してダイナーの裏手にまわった。表は野次馬とそれに遮られた車でごったがえしていたからだ。警官隊が突入するとすれば裏口しかない。着いてみると案の定、裏口は警官隊に固められており、その外側を一般市民が遠巻きに取り囲むような形になっていた。

「しゃべる犬を殺すな!」

「受刑者を犬にするのをやめろ!」

 人々は口々に抗議し、警官隊は突入するタイミングをはかっている。そんな状況だった。しかしブルはのん気なもので、鼻歌で『ドック・オブ・ザ・ベイ』を歌っている。

「ブルさん、大丈夫ですか?」

 ウォッカがブルの表情をのぞく。

「大丈夫も何もない。ここからがウィリアム・ロックフォールの腕の見せどころだ。まあ、しかし、ちょっと手助けくらいはしてやるかな」

 そういうブルの体内でカチャカチャと機械音がした。次の瞬間、ブルの両脇のロケットランチャーが開き、まず左のランチャーが火を噴いた。円筒形の物体が弧を描いて裏口のドアのガラスを突き破った。その結果、警官隊と群衆の目が一斉に彼らへと向けられた。

「ブルさん、何考えてんすか」

 ウォッカは言いながら後ずさりしている。

「もう少し待て」

 ブルは右のランチャーからも同じ物体を発射した。次は警官隊の目の前に落ちた。

「よし、みんな、店の正面にまわるぞ!」

 ブルの合図で全員駆け出す。

 発射されたのは二発とも催涙弾だった。店内に打ち込まれた一発目が店内の客を正面入口に押し出す。警官隊の前に落ちた二発目の催涙弾は警官隊と群衆をひとまとめに襲った。比較的に的が大きいブルやリオに向けて発砲しようとした警官もいたが、一般市民に当たれば自分が犬にされる可能性があるため、結局彼らは何もできなかった。

 逃げ惑う群衆の中をかき分けて、走りながらシェパード隊全員が合流した。全員の無事を確認したシェパードは最後の指示を出した。

「いいか!予定どおり、来月の十五日に例の場所で落ち合おう。ここからは自分のタイミングで離脱してくれ!」

 こうして十二人のシェパード隊は一匹や一頭に戻っていった。




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