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戦うネコと守るイヌ  作者: ゾンビ・モトモト
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02 「マスチフ中佐とシェパード少尉」

よろしくお願いいたします

02 「マスチフ中佐とシェパード少尉」


 マスチフ中佐は一度舌なめずりをしてから語りはじめた。

「わたしは、もとから犬だ。話すことが、できるよう、にされた犬である。したがって、君たちに、同情はない」

 言い終わると、マスチフはその巨体にもかかわらず、ふわりと宙を飛び、最前列左端にいたドーベルマンの横に立った。そして間髪入れずにその首を咬むと、ドーベルマンの頸骨は粉々になった。即死だった。再びふわりと壇上に立ったマスチフはこう言った。

「わたしの役目は、このように、任務に、向いていない者に、刑を執行する、ことだ。任務が、終われば、君たちは、人間に戻る、ことができる。そのときは、存分に、わたしを、ムチ打て」

 そう告げたマスチフは悠然と部屋を後にした。

 このネバダ・プリズンで訓練を受けたスーパードッグやスーパーキャットは融合デバイスとリンクしたコミュニケーションユニットで話すことができた。スピーカーは喉の皮膚の下に埋め込まれている。そのスピーカーから犬のものでもない猫のものでもないうなり声がした。

「マスチフ中佐はああいう方だ。本当にもともと犬だったのかどうかは私も知らないが、あまり失礼なことは言わん方がいい」

 主任刑務官がにやりと部屋を見渡した。満足げな彼は更に続けた。

「前の二列はシェパード少尉、後ろ二列はボクサー少尉の指揮下に入る。両少尉は解散の後、私の部屋に来てくれ。最初の任務を指示する。以上。解散」

 そうして主任刑務官も部屋を後にした。


「で、少尉殿、小隊どうします?」

 隣に横たわるドーベルマンの遺体を嗅ぎながらブルドッグが尋ねた。どうやらシェパードとは旧知の仲らしい。

「すまんが、まず主任のところへ出頭してくる。中佐に咬み殺されるのはごめんだ。同じくらいにシェパードと呼ばれるのも不愉快だ。私が戻るまでの間に各自の呼び名を決めておいてくれ。本名でなくとも構わん。こんななりじゃ素性も分からん」

 そう言い残すとシェパードは部屋を後にした。

 ボクサーの部隊は部屋の出口に近い方にきちんと整列して隊長の戻りを待っている。この隊は十六頭の犬のみで構成されていた。

 シェパード隊は部屋前方に、特に整列するわけでもなく集まっていた。隊長のシェパードを除くと犬猫混成の十二頭の部隊になるはずだったが、おしゃべりなドーベルマンが咬み殺され十一頭になっていた。

「まったく隊長様の言うとおりだ。このままじゃ、おれは墓碑銘に『雑種』って書かれちまう。おれのことはガブと呼んでくれ」

 そう巻き毛の雑種が口を開くと、

「ん?Gabrielガブリエルなら『ゲイブ』じゃないのか?えらく信心深そうな名前だが

とダルメシアンが返した。するとガブは、

「いやあ、garbageガベジ『生ごみ』だよ。おれにはそれくらいがちょうどいい」

と答えて、ひと笑い起きた。犬たちが順に軽い自己紹介をし、その最後に例の、老練そうなブルドッグが口を開いた。

「おれはブルでいい。ありがたいことに人間様だったときもそう呼ばれていた。それで、猫ちゃんたちはどうするね?」

 ブルは犬の中に四匹混ぜられた猫たちに水を向けた。

 猫たちのうち三匹は明らかにおびえていた。だが相手が犬だからではない。目の前にいる犬たちは彼らがかつて標的としていた兵士や警官たちだからである。猫にされたゲリラたちはその多くが融合後に普通の猫となった。理由はまだ明らかになっていないが、歴史的に猫は犬ほど人間と密接に協力し合う関係ではなかったからだと言われている。先史時代より人間の意図を汲み取るように訓練されてきた犬の方が、人間の記憶と融合しやすいだろうということは臨床試験の前から予想されていた。

「では、おれのことはラミーと呼んでもらおう」

 端正な顔立ちの黒猫が名乗った。

「なに!?お前があのラミーか?」

 そう言ってガブが腰をあげると、他の犬たちも色めき立った。しかしブルだけは、

「まあ待て。人間だったときのことはこの際忘れろ。実際こいつがあのラミーかどうかは確かめようもない。それに本物のラミーなら味方にしておくに越したことはない」

 ブルにそうたしなめられると、犬たちはおとなしくなった。他の猫たちはラミーの由来がラム酒であると勘違いしたのか、それぞれウォッカだのバーボンだのと名乗った。ちょうど互いの呼び名を確認し合った頃合いでシェパード少尉が戻ってきた。すぐに整列させ、それぞれに名乗らせると小隊の編制をした。


ブル小隊

小隊長ブル(ブルドッグ) キム(バセットハウンド) リオ(アイリッシュウルフハウンド) 少尉シェパード

コル小隊

小隊長コル(ダルメシアン) ガブ(雑種) ジョシュ(ポインター) シープ(シェトランドシープドッグ)

バーボン小隊

小隊長バーボン(三毛雑種) ウォッカ(ペルシャ雑種) シードル(白猫雑種) ラミー(黒猫雑種)


「ブル、キム、リオ、私でブル小隊。もちろん小隊長はブルだ。コル、ガブ、ジョシュ、シープでコル小隊。小隊長はコル。バーボン、ウォッカ、シードル、ラミーでバーボン小隊。小隊長はバーボン。現地情勢によってはメンバーを替えることもあるが、基本としてはブル小隊は破壊工作、コル小隊とバーボン小隊は潜入・かく乱が主たる任務である。特にリオは探索、ラミーは情報操作が専門であるから小隊とは別行動になることが多い。覚えておいてくれ」

 シェパード少尉の言葉が終わると、どよめきに似た声が流れた。リオとラミーについては皆が知るリオとラミーであり、特技も人間であった頃と同様であることが分かったからだ。その後シェパードの、何か質問はという問いかけに、すぐにブルが反応した。

「あの~、少尉殿は何とお呼びすればよろしいのでしょう?」

「『少尉』でいい」

「中尉になっても?」

 軽い笑いが起きたことに満足したシェパードはひとつ舌なめずりをしてから、こう言った。

「私が中尉になることは二度とない。ぼちぼち出発だ」



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