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カエルちゃん  作者: シュルレアリスム
悲しみの輪廻
2/6

邂逅の光

 狩りの稽古を終えた王子さまは、泉のほとりを横切ろうとしていました。すると馬が足を止めました。

「一体どうしたの」

 王子さまは馬から降ります。馬は泉へと歩きます。

「喉が渇いていたのだな」

 手綱を引いて、泉の水をすくおうとして、

「あっ」

 王子さまは驚きました。

 なんと金髪の娘が倒れていたのです。王子さまと年は同じくらいでしょうか。細い指が草を掴むようにして、娘はうつ伏せています。

「おい、大丈夫?」

 慌てて王子さまは気を確かめます。するとややあって、

「う、うん」

 目覚めた娘の翡翠のような可憐な瞳に王子さまの心配そうな顔が映ります。

「いけない、恥ずかしい姿をさらしてしまいました」

 娘は顔を赤くして起き上がります。

「ケガがないようでなによりだ。それより名前は?」

 王子さまは美しい声の娘が気に入ってしまいました。

「エミリー」

 娘は素早く呟きます。

「エミリーだって?なんてことだ。ボクの母と同じじゃないか」

 亡き母の面影をエミリーに重ねて、王子さまは益々胸が高鳴ります。

「そうだエミリー。ボクはこれから王宮に戻って食事をするんだ。一緒にどうかな」

 微笑む王子さまに、エミリーは頷きます。

「ようし、早速馬に乗りたまえ」

 王子さまはエミリーに背中を掴んでいるように指示して、森を出口に向かって駆け出しました。

 宮殿では、召し使いたちが庭にテーブルを置いて準備をしています。白いクロスは洗いざらしで、ピカピカの食器が並びます。

 エミリーは促されるままに椅子に腰掛けます。

「エミリーは美味しそうに食べるね。生まれは貴族?」

 巧みにナイフとフォークを操るエミリーは育ちの良さがにじみ出ていました。

「いいえ。大切な方に教えて貰ったんです。何度も叱られて、もう染み付いてしまったんですよ」

 得意気に、それでいてどこか寂しそうにエミリーは答えます。そう言えば馬に乗っているときも慣れた様子でした。王子さまは感心する反面、自分だったらもっと上手に教えてあげるのに、と思いました。

「お茶を飲んだら街に出掛けようよ。エミリーに見せたいものがある」

 王子さまの誘いをエミリーは快く受けました。

 それから馬車に乗って街へ向かいます。

「ほら、ご覧よ。この辺りの景色は素晴らしいんだ」

 馬車の窓からの眺望は壮大で、青く澄みきった空がどこまでも続き、連なる山合には雪がうっすらと積もっています。

 ところがエミリーはずっと王子さまに釘付けです。それは王子さまがドキドキしてしまうくらいに熱い視線でした。

「そ、そんなにボクをまじまじと」

「王子さま、ワタシが見えますか」

 エミリーは不思議なことを言いました。

「もちろんだとも。この目にはっきりと映っているよ」

 真面目な面持ちのエミリーには、冗談を返すことも憚られました。

 石畳を車輪が叩く音がします。どうやら街に着いたようです。ドレスなどの洋装店はもちろん、ジュエリーショップや化粧品も揃っています。

「エミリーは欲しいものはない?」

「ワタシは王子さまといるだけで楽しいです」

「そうか。嬉しいな。じゃあボクが決めてもいい?」

 気になる女性と街を歩いたことなどない王子さまは、言い出したものの困ってしまいました。

 どうしたら喜んでくれるだろうか。迷った末に王子さまは占い師の館へエミリーを連れていきます。

「さあ、ボクらの相性を占ってもらおうか」

 占い師はトランプをテーブルに並べます。初めに王子さまがカードを引きました。そして戻します。それから同じようにエミリーが引きました。

「うわ、一緒だね」

 それから何度繰り返してもカードは一致するのです。まるでエミリーにはどこに何のカードがあるのか分かっているかのようです。

 馬車に乗って帰るときも、王子さまは早鐘を打つ鼓動を抑えきれないでいました。

「凄い確率だよ。二回でも奇跡なのに、十回全部同じだなんて。ボクらはきっと運命の糸で結ばれているのさ」

 有頂天になる王子さまに、エミリーは静かに口を開きます。

「繰り返されるのがいいことばかりではありません。悲しいことは二度と起きてはほしくないのです」

「むむ。エミリーの言う通り、戦争や過ちはあってはならない。ボクは浮かれていたね」

 落ち着いた物腰のエミリーを、王子さまはもっともっと好きになっていきました。

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