ブラック会社から帰ってきたらVtuberの推しにプロポーズしてしまった
「おかえりなさーい、ふーみん」
「うわっ・・・」
会社から帰ってくるなり、パソコンの電源が付いて、画面いっぱいにVtuberのリコリコが映った。
猫耳をふわふわさせている。
Vtuberの推しってやつだ。
「な、なんでリコリコが? もう今月分使っちゃったし金はないぞ」
「そんなんじゃないって、だってふーみんが、最近いっつも暗い顔してるからぁ。リコリコが励ましに来たの。がんばれがんばれ、ふーみん」
ぴょんぴょん跳ねながら応援していた。
「推しが画面に映る幻想が見えるなんて、俺も相当やべぇな・・・」
「リコリコがお悩み相談聞いてあげるよ。尻尾フリフリしながら聞いてあげる」
「じゃあ、夢見ついでに、言うけどさ・・・」
ネクタイを外しながら話す。
「後輩がさ、失敗を俺のせいばっかりにするんだよ。自分のせいだってわかってないんだよな、陰口言ってるって噂も聞いてさ」
「うん、ふーみん何も悪くない。えらいえらい」
「・・・同期だってさ、俺よりできなかったくせに、来年の人事異動で係長になるんだとよ。出世できないのは俺だけかよ」
「そんなことない、ふーみんいっつも頑張ってる」
耳をぴょこんとさせながら相槌を打つ。
「がんばれがんばれ、ふーみん。がんばれがんばれー」
「・・・・・・」
満面の笑みで手を叩いていた。後ろに横断幕まで見えた。
「もう、リコリコと結婚しようかな?」
「え?」
「こんなに可愛くて、俺なんかのこと励ましてくれるしさ」
独り言のように、天井にむかって呟いていた。
「そんなこと言ったら、リコリコ、本気にしちゃうよ・・・? ふーみんだけのものになっちゃいたよ?」
少し顔を赤らめながらこっちを向く。
「え・・・・・?」
思わず、画面相手に動揺してしまった。
「ふーみんのプロポーズしかと聞きました。もう、ここの動画切り取っちゃうから」
顔を隠しながら、嬉しそうに体をふるふるさせていた。
「え? え?」
「あーほら、みんなへの配信の時間だー。あ、明日も同じ時間に帰ってきてね。未来のお嫁さんとの約束なのだー」
22時3分前だ。
バチっと画面が消えて、リコリコチャンネルの広告が出ていた。
呆気にとられていた。
22時からいつも通りのリコリコが配信していた。なんだったんだ? 今の・・・。
まぁ、また明日聞けばいいか。