第3話
さて、15歳になったら兵士になる、ということにアティアは自分のこととしては、全く実感が無かった。
共和国は隣の帝国と30年くらい周期的に戦争をしていたのだが、突発的で小さな小競り合いが近年続いていたので、この港町ではあまり話に上っていなかったせいなんだけど。
戦争の話はおいおいするとして、
まだ小さな子供は順応が早い。
自分の家とはだいぶ違う様の家の様子に
アティアはとても惹かれた。
領主の家は煉瓦造りの重厚な建物で、壁区切られた大小の部屋からなっていたが、置いていかれたこの家は木でできていて、階段を上がった2階の踊り場からは、浴室とキッチンと納戸以外はこの家の全てを見渡すことができた。まあ、つまり、リビングがやたら大きい5LDKだと思ってもらえばいい。
南に向かって開け放たれた窓からは海が見える。
リビングでみつけたのは、壁に貼られた様々な色に塗られた大小ある形の大きな絵。
(みんな知っているよね。地図だ。)
台所で見つけたのは見たことのない武器の数々。
庭先には不思議な模様が地面に描かれている。
一番アティアが気に入っったのは、納戸だ。
大小いろいろな物が無雑作に置かれているだけの部屋だが、子供にとっては宝箱みたいな空間だ。
キラキラと光る石、覗くと永遠のその先が見えそうな合わせて鏡の化粧台。
何やら獰猛そうな顔をした動物の毛皮、厳めしい男と美しい女が寄り添うように立っている肖像画。
アティアはここにいると時間がたつことを忘れてしまう。
さらにアティアを刺激したのはこの家の主人。
歳は50を超した男だが髪の毛には白髪が全くない。父親より背が高い。「
その家の主は様々なことを知っていた。そのうえ、その知識を実際活用できる男だった。
幼いアティアは男がしてみせる数々の技や作り出す物を魔法のようだと思った。
そして、魅力された。
アティアはその男を師匠と呼ぶようになった。
師匠はアティアに武器の使い方を教え、体術を叩き込み、兵法を説いた。
身体を動かすことが好きなアティアは喜んで武器を振り回し、近所の悪ガキどもを相手に体術で決闘ごっこをしたりしていた。兵法は夜、師匠が剣やら銃やら様々な道具を手入れしながら話してくれるのだが、夜分には昼間暴れまわった分、疲れで半分子守歌のように聞いているのが常だった。
ある夜のこと、アティアは眠りそうになりながらも師匠の「戦場における退路の開き方」についての
話を聞きながら、ランプを磨いていた。
明日、師匠からお客がくるといわれていろいろ準備してきた最後の仕上げだ。
「アティア、ランプはかなりきれいになった。そろそろ寝なさい。」
「師匠、まだ眠くないです、それで師匠はしんがりでどんな風に戦ったんですか?」
目をごしごしと手で拭きながらアティアは言い募る。
師匠は微笑みながら「そのあとの話はまたにしよう。明日の客人もその時に知り合った人間だからきっと彼女がいたほうが面白い話になるぞ。」
アティアはびっくりした。
「彼女!女の人なんですか!知り合ったのが戦場なんて!すっごい話聞きたい!」
師匠はランプを受け取ると、アティアを寝床へ連れていき、
ベッドに押し込んだ。
師匠は微笑んだまま、「では明日を楽しみにしなさい。お休みアティア」といって
アティアの部屋から出て行った。
アティアは「こんなに楽しみができたら、眠れないよ。」と思ったのだが、
その5分後には寝息を立てていたのだった。