第1話
一体どこからこの物語を始めたらいいだろう?
主人公の母親が生まれたばかりの主人公の元から引き離されることをどんなに美しく悲しんだか、
が始まりの始まりっぽくていいかな?
いいや、そのあとの、母親に死を運んできた死神と母親の間で起きた争いが
ムネアツだったからそこからかな?
それとも、それとも、はじめての人である男が主人公の剣に首の動脈を切断された瞬間のあの変態じみた心情について説明したほうが主人公の人となりがわかって面白いかな。
いっそのこと、主人公の最後から創めてみるとか?
そうだ、まず、名前から紹介したほうがいいよね。
猫だって自分の名前から紹介しようとしてたしね。
この物語の主人公の名前はアティア。小さい時は違う名前だったし、
大きくなった時はもっと大袈裟で長ったらしい名前を名乗っていたけど、
ここの物語ではアティアでいく。
アティア。ただのアティア。覚えやすくていいでしょ。
アティアはラッキーなことにある港町の領主の家に長女として生まれた。
その港町の北には帝国が、南には港町が属する共和国の首都があり、
西にはいつでも穏やかな海が広がり、
東にはいきなり急激に勾配がある山がそびえていた。
人間が暮らしやすい平地は数少なく、そのため、崖のようなところにレンガや石で家が建てられていた。
その屋根はここに暮らす人たちの性格を表すかのような陽気な青や赤で飾られている。
平地は少ないけれど、きりだった山々には豊かな森があったし、
大昔から海路の要所でもあった港町はいつも人が集まり、豊かな暮らしぶりだった。
街は豊かで、家はこの街の名主。こんな恵まれた子は少ないだろう。
だが、悲しいかな、アティアは女の子だった。
この共和国は首相も投票できまる。しっかりした法律もある。
だが、その投票の権利もしっかり法律が適用されるのも男性のみだった。
世の中の半分は女性なのにもかかわらず!
アティアの生まれた国はあきらかに男性優位だった。
アンラッキーだったのは、アティアが3つの時に母親が亡くなったこと。
お盛んな年齢の父親はすぐに後妻をもらって、息子が生まれた。
アティアの異母弟だ。
男性優位の国は子供も男の子のほうが喜ばれる。
とはいえ、われらがアティアは
港町のセレーネ(海の乙女)と言われた母親の血を引いてかわいらしい姿をしていた。
おまけにこの街で一番の船乗りでもある父親譲りの身体能力を持っていた。
それなのに、いや、それゆえに、
「女は三歩下がって」を女の理想とする父親には
弟の虚弱さと比べるとアティアの才気あふれる様は
鬱陶しいものなだけだったらしく、しだいに疎まれるようになっていった。
そうはいっても、アティアは名主の長女。
十分な栄養と清潔な環境でスクスクと育った。
若干親からの愛情には欠けていたけれど。
名主の館には祖父母や屋敷の使用人たちや
港の陽気な漁師や船乗りたち、
愛情が若干過剰気味な奥さん方が屋敷には出たり入ったりしていた。
だから、アティアは寂しいと思ったことはあまりなかった。
アティアをのけ者にして父と継母と弟が笑いあっているところをみると
心がつぶれるような思いをしたこともあったけど。
でもそんな思いはすぐに無くなってしまう。だって、いつだってそのあと、
誰かがアティアを笑わせてくれたからね。
アティアに差し出される家族以外からのたくさんの温かい手は
死んだ母親が最後に残した素晴らしい贈り物だった。
うん。やはり物語は年代記がいいね!この調子でいこう。
Thank you for reading!