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断罪イベント

 領主様に抱きかかえられたまま、私たちは会場に入って、2階のちょっとした観覧の所にやってきた。

 ようやく降ろされた私は、立っとくのもきついので、そのまま手すりのすぐ近くに座り込む。領主様も私の隣に腰を下ろした。ちょうど手すりの柱の間から、下の様子が見える。


 ちょうど大広間では糾弾が始まったところらしく、中央にアダリンナ様と3人の男性がいて、騎士に取り囲まれていた。王太子殿下とカーティス殿下が階段に立っていて、その一段下にミリアが立っている。ミリアは緊張しつつも、しっかりとアダリンナ様を見ていた。


 うん、大丈夫そうだ。


「アダリンナ様の右側がサンローン様だね。左側にいるのがファリアス殿とその長男」

「そうなんですか」


 遠目で見ても、ファリアス様…ナツミ街領主がふくよかすぎることくらいすぐわかった。

 街の人たちは、あんなに苦しそうだったのに。一部始終しか知らない私でも、怒りを覚えた。


「今から、サンローン家及びファリアス家の罪をここに訴える」


 王太子殿下の威厳のある声が、喧噪の中に響いた。その途端、静まる会場。カーティス殿下が一歩前に出て、手に持っていた紙を広げて読み上げる。


 正直、私が知らない罪がたくさん出てきた。こんなに悪事を働いていたのか。そしてそれを巧みに隠していた。その頭脳は、絶対良い方向に使えば強みだったのに。


「実を言うとね、私が悪逆非道だという噂をアダリンナ様が流し始めたのもこれが関係しているんだ」


 ふと、領主様がそう静かに言う。


「悪事、ですか?」

「そう。この内アダリンナ様が犯していた罪の1つに気がついて、確認したんだ。そしたらアダリンナ様が怒ってね…ただ、私の身分は高い方だったから、貴族社会から追い出すことはしなかった」

「その代わりがあの噂…」

「うん。…アダリンナ様は知っていたんだろうね。私が祖父のようになりたくないって強く思っていることを。だから、ああいう噂を流して精神的に追い詰めたかったんだと思う」


 そう領主様は苦々しく呟いた。その表情が全てを物語っていた。

 領主様は先代領主だった祖父を良く思っていない。それは先代の話題の時に見た表情と、今の表情からわかる。自分は祖父のようにならない。領民を何よりも大切にする。そう強く思って、先代が残した傷跡に悩みながらミサト街を復興して、領民の信頼を取り戻していた領主様に、領主様は先代と同じで悪逆非道ですよって噂は効果抜群だったのだろう。恐らく、すごく傷ついたはずだし、辛い思いをしたはずだ。


「結局、その罪は証拠不十分で揉み消されてしまった。あの時は私もお城で働きだしてすぐの時だったから、こういうことになるとは思っていなかったんだよね。その時初めて権力の壁を感じたよ」

「そうだったんですね…」

「まぁ、それも今日で終わりだね」


 そう言って領主様は下を見る。きっと今までの葛藤や苦労を思い出しているんだろうなぁ。領主様は昔から戦っていたんだ。噂と、強大な権力と、先代領主の残した傷跡と。

 それでもなお、私たち領民を大事に大事にして愛を注いでくれた領主様には、感謝しかなかった。


 何かここで領主様の気持ちを軽くできるような言葉を言えればいいんだけど、悔しいことに何も出てこない。こういう時に自分の無力さを思い知る。

 でも、1つだけ伝えさせてほしい。


「領主様。少なくとも、領民は領主様の味方ですからね」


 貴族社会のことはわからないけれど、領主様の居場所はちゃんとミサト街にある。みんな領主様が大好きで、自分たちを助けてくれた領主様に感謝している。だって、領主様の話題になった時に、皆口々にそう言うんだよ。私はお城に働きに来るまで、耳にタコができるくらい聞いた。それが少しでも伝わってほしい。


「うん、ありがとう」


 そう言って優しく微笑む領主様に、なんだか恥ずかしくなって、私は再び下を見た。


 階下では、カーティス殿下が全ての罪を言い終わったらしく、王太子殿下がミリアに向かって言葉をかけていた。


「ナツミ街出身のそなたに聞く。今の罪状のうち、ファリアス殿が行っていたことに嘘偽りはないか」


 重苦しい空気が漂う。ミリアはひとつ息を吐いて、しっかりと前を見据えてこう言った。


「ありません。すべて真実でございます。圧政に皆は苦しみ、多くの者が命を落とし、私は無理やり身売りされました。何一つ、嘘偽りなどありません」


 凛とした声が、大広間に響く。貴族たちが息をのんだ。その言葉が殿下達に言わされたのではなく、自分の意思で言ったものだとわかっているようだった。


 ミリア、ちゃんとできているよ。よく頑張ったね。


「そして最後に1つ。アダリンナ・サンローン、貴女は将来の国の母に相応しくない。よってここに婚約破棄を申し出る」


 王太子殿下が、冷たい声でそう告げる。会場が一気にざわついた。アダリンナ様が何かを喚く。でも、何を言っているかは聞き取れなかった。


 シナリオの言葉だ。ついに、婚約が破棄された。


「陛下、お聞き届けくださいますか」

「許そう。…その不届き者たちを捕らえよ。裁断は追って決める」


 陛下がそう静かに言うと、囲んでいた騎士が4人を捕まえて会場から引きずり出していく。

 アダリンナ様は、最初こそ喚いていたけど、今はもう無理だと悟ったのか静かだった。最後まで公爵令嬢らしく、そんな思いがあるのかもしれない。騎士に連れられて静かに会場を出て行ったアダリンナ様は立派な公爵令嬢で…悪役令嬢だった。


「終わったな」

「そうですね。…終わりましたね」


 これでもう、ミリアが、領主様が、大切な人たちが傷つかなくて済む。ミリアが追放されることもなければ、領主様のひどい噂が流れることもない。

 戦いは終わったんだなぁ。私はちゃんと、バッドエンドを回避できたんだ。よくやったね、私。


 あとは、ミリアが家族と会うだけだ。






 あの後、悪役令嬢の退場を見届けた私はすぐに医務室に運ばれて、3日間寝込むことになった。ちなみに暗殺計画の事情を知ったミリアに泣きながら怒られた。そういえば、怒ってくれる人、ここにもいたなぁ。


 そして熱が下がり、そろそろ部屋に戻ってもいいんじゃないかなーと思っていたころ、ミリアが緊張した面持ちでやって来た。


「元気?」

「すごく元気。どうしたの?」

「あのね、本当はまだ秘密なんだけど、セイレンには報告しておこうと思って…」


 あ、おそらくこれあれですね。カーティス殿下と付き合うことになりました報告。確かシナリオでもそうだった。あのパーティーの後、カーティス殿下がミリアに気持ちを告げて、ミリアがそれを受け入れる。まぁこれも攻略サイトの情報だけどね!私がプレイしたらバッドエンドになったからね!

 それにしても恥ずかしそうなミリア可愛すぎませんか。眼福なんですけど。


「なになに?」

「えっと…実はカーティス殿下と思いを通わせて、結婚することになった」

「おお!それはおめでとう!」

「ありがとう」


 そう言ってはにかむミリア、本当に可愛すぎる。カーティス殿下、こんなに可愛くて優しいミリアを悲しませるようなことをしたら私が殴り込みに行きますからね!ちゃんと大事にしてくださいね!


 そして付き合いましたじゃなくて結婚か。結婚なのか。まぁ、ここは前世と今世の違い…もっと言えば平民と王侯貴族の違いか。そうだよね、利益や世継ぎが特に重要な王侯貴族にとって、付き合うカップル期間なんて要らないもんね。むしろ好きな相手と結ばれるだけでも一苦労だろうなぁ。


 …あ、そうなると、私は絶対領主様と結ばれないね。この気持ちは胸にしまっておくしかないか。まぁ、元よりそうするつもりだったけど。


 そういえば領主様は結婚どうするんだろう。噂を流す人がいなくなったから、相手選び放題だよね。その時が来たらミサト街で大騒ぎしよう。きっと楽しいだろうなぁ。


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