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大食い悪魔2



『ただいまー!』


少し早いが夕食の準備をしていた所、お使いに出ていたシエンが帰ってきた。

どこをどうやって持っているのかわからないが、沢山の袋を抱えている。


「……お、おかえり……」


沢山すぎる。


牛一頭分位ある。

一食でこれを食べるつもりなのか………。


『鶏も牛も豚もいっぱい買ってきちゃった!ねぇねぇ、何作るの??』

「んー、作るというか…バーベキューかな」

『バ、バーベキュー……!』


シエンは思わずと言った様に反復する。

庭に設置されたバーベキューコンロの周りを、ソワソワと回って落ち着かない。


「ハイハイ、今から串に通すから手伝って」

『はーい!』


早速二人は肉と野菜を鉄串に刺していく。

野菜はトウモロコシや玉ねぎ、かぼちゃ、ピーマン、シイタケなど用意していた。

肉、野菜、肉、肉、野菜……。

黙々と刺していくのだが、如何せん肉が多い。


最後の方は野菜が無くなり肉だけとなってしまったが、まあたまには良いだろう。

刺さずに焼く分も十分な量だ。


「……出来たぁ。ここまで一心不乱に串に刺したの初めてだわ」

『早く焼こう!早く早く!』

「もう、まだ火を付けてないでしょ。ちょっと待って」

『じゃあ僕が火をつけるよ!』


言うや否や、シエンはコンロの中の炭に向かって炎を吐き出した。

吐き出された炎は暫く炭を舐めていたが、やがて燃え移り炭を赤々とさせる。


(……人外って不思議だなぁ……)


人外が思うことではないが。


『燃えたよ!』

「まだ網が温まってませーん。もうちょい待とうか」

『えぇー……』


不服そうなシエンは思わず縁側にゴロリと転がった。

その腹からは、まるで雷のような鳴き声が響いている。


腹に何を飼っているんだ。


ヨリは苦笑いを浮かべた。


『……まだ?』

「さっき付けたばっかりでしょ?まだ」

『……………まだ?』

「まーだ」

『…………うぅぅぅ、まだぁ?』

「まだでーす」


さほど時間が経っていないのにこれである。

「まだ」のゲシュタルト崩壊を起こしそうだ。


そんなやり取りをして約5分程。

ようやく網が温まり、肉が焼けそうだ。


「シエン。焼くよ」

『!!…待ってました!』


シュバッ!と音がしそうな程素早くコンロに近づいたシエン。

思わず「ヒエッ…」と言う声が出たが、彼は気付いていないのかせっせと肉を並べている。


『おっにく、おっにく、おっやさい、おっやさい』

「……タレと醤油と塩とポン酢、色々あるから使いな」

『うん!』


焼けるのをまだかまだかと待っているシエン。

まるで子どものようだと、笑みが込み上げる。


「あ、生は食べちゃダメだからね」

『はーい』


さて、そろそろか。

焼き始めて数分。

何度かひっくり返して両面満遍なく火が通ったようだ。

シエンも頃合が分かったのか、大事に大事に焼いていた串を手に取った。

ヨリも同じように串を手に取る。


(まずはスタンダードにタレかな)


茶色くとろりとした、胡麻の混ざったタレを付ける。

香ばしい香りとタレの甘いようなしょっぱいような独特な香りが鼻腔をくすぐる。


昼間に十分に食べなかったせいか、腹は早く寄越せと言わんばかりに鳴き始めた。


「いただきます」

『いただきまーす!』


大ぶりに切った肉を口に運ぶ。

タレの複雑な味わいを纏った牛肉が、歯に噛み砕かれて甘い脂をしみ出させる。

肉らしい歯応えはあるが、程よく脂が乗っているからかほろりと繊維が崩れる様に無くなっていった。


「うまい!」

『ふぬんぬぬふ!うぬぐぬぬふくぬうう!!!』

「なんて?」

『美味しい!鶏は優しい味だし牛は柔らかいし豚肉はなんだか分からないけど美味しい!!』

「良かったね」

『うん!』


無邪気にはしゃぐシエン。

見ているとなんだか、邪神が生贄を食らうイメージが湧いてきた。


何故だ、黒くてモヤモヤしているからか。



『トウモロコシ甘〜い!お醤油の焦げた所も美味し〜い』

「シエンや、ちょっとそれにこれを乗せてみんしゃい」

『ヨリ、なんのキャラ?』

「いいからいいから」


シエンが齧り付いていた、まだ熱々の焼きとうもろこしにバターを一欠片乗せる。

するとどうだろうか。


醤油が焼けて、少し尖ったような香ばしい香りにバターの芳醇な香りが混ざって、何とも腹に響く様な匂いが辺りに漂ってきた。


『あ、あぁ……ヨリ、ダメだよこれ……こんなの……』

「ほれほれ、『ワタシハバター醤油ノ焼キトウモロコシ。トッテモ美味シイカラ、タ・ベ・テ』って」

『あぁぁぁ!美味しいぃぃぃ!』

「ははは!」


まるでリスのように頬張るシエン。

香りで食欲が増したのか、トウモロコシ以外の野菜や肉も次々食べ進めた。


自分も食べるか。

このままではシエンに食べ尽くされる。


おもむろに焼きとうもろこしに手を伸ばしていた。

さっきの飯テロでシエンを刺激したのは良いが、しっかり自分も被爆していた。


蕩けたバターに少し焦げた醤油。

粒が揃った、濃い黄色のトウモロコシ。


「あー……む。………ふむむ!?」


齧り付いた瞬間、バランスの取れた深いコクとしょっぱさの波と、じゅわりと弾けるように出た甘い汁が口の中に飛び込んできた。


うまい、うますぎる。


これは堪らない。

食欲が増すというものだ。

これをほうれん草とベーコンでソテーしたら………。


作ろう。今度作ろう。

最高すぎる。



「うま〜い。あま〜い」

『美味し〜い』

「いや参った。美味しいしか言葉が出ないな。肉は美味いし焼きとうもろこしは最高だし、玉ねぎとかぼちゃは甘いし」

『しいたけは肉厚で香りもいいし……。ご飯が美味しい………僕、ずっとここに住もうかな』

「やめてくれ」


それから二人は、「ポン酢は肉をさっぱりさせていいコンビ」だとか、「塩は素材の美味さがよくわかる」とか、「わさび付けるとまた別の味わいで、今度は酒が進む」と調味料談義を交え、食事を進めていくのであった。














あれから数時間、あれだけあった肉達は欠片も残さずシエン達の腹の中に収まった。

ほぼほぼシエンが食べたが、ヨリも十分腹が満たされた。


辺りはすっかり暗くなり、空に煌めく星達が綺麗である。


『美味しかったぁ。ありがとうヨリ』

「切って焼いただけだからね。別に礼はいらないよ」

『それでも、二人で食べるといつもより美味しかった!だから、ありがとう!』

「そっか。まぁ、いつもは出来ないけどたまにはおいでよ」

『うん!』


片付けを終わらせたあと、そのままシエンを風呂に送り出す。

そこからまたヨリの戦いが始まった。


そう、目の前にでん!と置かれたバゲット。

お土産として貰ったこのパンを一定の厚さにスライスしなければならない。

その上「あれ」も大量に作らなければ。


一人分であったなら、それ程時間はかからないがなんせ相手はあの大食い悪魔である。

大量に作らなければならない。


いや、別に普通の量でもいいと思うが、食べられるならいっぱい食べて欲しいというのが本音だ。





「よし、いっちょやりますか」


そうして、ヨリは卵や牛乳などを取り出して明日のおやつを作るのだった。







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