大食い悪魔1
神の知り合いは人外でした。
「こんにちはー」
ある日の11時頃。
ヨリは行きつけの定食屋へと足を運んでいた。
中年位の夫婦が営んでいる、街でも評判の店だ。
ヨリはいつもの様にカウンター席に座ろうとしたのだが、見慣れない光景に動きを止めてしまった。
少し離れたテーブル席に、黒く霞んだ靄が座っている。
そして、その周り……前のテーブルや横のテーブルにまで積み重なっている、元は料理が乗っていたのであろう皿が積み重ねられていた。
黒い靄は、周りの者が呆気に取られ呆然と見詰めてくる中、そんな事お構い無しと言ったふうに料理を食べ続けていた。
はっきり言って異様である。
が、ヨリには大きな動揺はない。
何故なら、あの黒い靄は知り合いなのである。
得体の知れないものが料理を貪っている……という物は神の目を持つヨリにしか分からないことで、周りからは普通の人間が大食いチャレンジでもしているのだろうという認識にしかなっていないはずだ。
少し、あの靄は特殊なのである。
「……………なにしてんの」
『んん?あ、ヨリだ!』
大皿を持ち掻き込むように食べていた靄は、ヨリに顔を向ける。
顔……赤い光が2つ浮かんでいるからそれが目なのだろう。
きっとそこが顔だ。
それはひとまず置いておく。
靄は知り合いに気付いてなお、食べる手は止めない。
それ所か『ここのご飯は美味しいねー』等と宣っている。
「……うん、まあ美味しいよね。うん。………」
『僕、外国とか回ってさっきこっちに着いたんだー。もう、お腹ペコペコだったんだよ』
「ペコペコ……底無し胃袋がペコペコって大惨事にしかならないよね」
見て分かるように、靄は大食いである。
空腹任せで食べている訳ではなく、普段から有り得ない程の量を食べるのだ。
『あ、そうだ。フランスに行って美味しいバゲット買ったから、お土産にあげるよ』
「お、おお!本場のバゲット…!ありがとうシエン」
『それでね…』
「有難いけど食べ終わってから喋ろうか」
靄────シエンは『そうだね!』と、元気よく答えたのはいいがまたおかわりしている。
まだ食べるのか。
ヨリはそっと呆れを通り越して驚嘆のため息を吐いた。
あれからシエンの横の席に座り直し、この店で一番美味しいと思っているチキン南蛮を頼んだのだが、シエンからの視線が痛くて半分あげてしまった。
まだ腹は空いているが、新しく頼むと多いし。
何より、昼の忙しい中他の客の注文とシエン個人の料理を作って忙しなく動いている夫婦に申し訳ないため、注文は諦めた。
あぁ、私のチキン南蛮……。
甘酸っぱくてジューシーで、柔らかい美味しい美味しいチキン南蛮。
また今度全部味わうからね……。
悲壮感漂わせ、シエンが食べ終わるまで待つ。
そしてやっと食べ終わったのは時計が2時を指す頃だった。
何時から食べているのか分からないが、流石にこれ以上食べると夜まで食材が回らなくなる。
という事でヨリからストップをかけたのだ。
シエンは少し残念そうな顔………雰囲気を出したが、そう言われてしまっては食べ続ける事は出来ない。
2人は席を立ち、お会計を済ますと(高額だったがシエンが全部出した。一体その金は何処から……)一緒に神社へ帰っていく。
というか、何故かついてきた。
何やら頼みがあるようなのだ。
まぁ、きっと食絡みだろう。
『まだお腹減ってるんだぁ』
「だろうね」
所変わって、天界にあるヨリの家。
今でお茶を出してゆっくりしていると、やはりと言うかシエンが呟く。
丁度おやつの時間だしな……と思い、チラリとシエンの横を見ると、長いバゲットが10本程突き出ているカゴが見える。
それでおやつを作ってやろうと思うが、時間をかけたいものなので今日は煎餅で我慢してもらおう。
あるだけ出したら一瞬で消えてしまったが。
「シエン、明日それ使っておやつ作ってあげるから今日泊まっていきなよ」
『いいの?やったー!晩ご飯は何?』
「初っ端からご飯かい」
この大食いを満足させられる料理で時間があまりかからない物となると、かなり難しい。
絶対家の食材だけでは間に合わない。
ヨリはしばらく考えていたが、アレにしようと閃いた。
『なになに?』
「シエン、肉好きだよね?」
『何でも好きだよ』
「だよね。お使い行ってくれる?」
『いいよー。お肉?』
「うん、好きなお肉買ってきて」
そう言ってヨリは懐から財布を取り出そうとしたが、それはシエンに止められる。
『多分僕が殆ど食べちゃうから、僕が買ってくる!』
そして物凄いスピードで外へ出て行ってしまった。
「はや…………」
長くなるので分けます。