私は“ヒロイン”のはずなのに、何かが違う
『「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』投稿作品、
「俺の妹は、誰かの心も盗んだ模様…」、「賢者の妹は、こうして怪盗をすることになった」の、別視点作品です。
「紹介するわ。この方が貴女のお父様よ」
母に紹介したい人がいると言われ、お母さん再婚するのかな。いい人だといいな、と思っていたら豪華な馬車のお迎えがあった。
え。お母さん玉の輿? と馬車に揺られて貴族の館へ着くと、それまで全く会うことが無かった父親のマリス子爵と対面した。
マリス家に後継がいないので、婚外子である私をマリス家に引き取る話が水面下で進んでいたらしい。
正妻の夫人が半年前に病で亡くなったこともあり、一定の期間を置いてから母娘共に迎える事にしたそうだ。
(私、『アヴァ蝶』のヒロインだった!)
父と会った瞬間、私の“前世と呼べる記憶”が脳内を駆け巡っていったのでかなり混乱し──両親は自分の出自を知ってショックを受けていると思っているようだったから誤魔化した。
ライトノベルではよくある話だけど、自分が前世でプレイした乙女ゲーム『アヴァロンの幸運の青い蝶』の世界に異世界転生して、主人公のヴィヴィアン・マリスになるなんて普通、思わないじゃない。
でも、それを理解した後は脳内がカーニバル状態だった。
だって推しに会える!
うまく行けば推しとあんなことやこんな事が出来るんだもの。
(ここから始まるのね……!)
ワクワクしながら途中編入生として王都アヴァロンにある学校の門をくぐったものの、ゲームのオープニングにあるイベントが起こらなかった。
新学期初日は校内の講堂へ向かう途中で攻略対象の一人の第二王子アーサー様と遭遇する筈なのに、そのアーサー様が学校にいる気配が全くしない。
アーサー様の婚約者だった悪役令嬢エレインが、親子ほど歳が離れた兄の賢者様が大好きなブラコンになっていたし、悪役令嬢の甥で私と同級生になる賢者様の息子アレイスターは、記憶にある彼とはだいぶ印象が違った。
(クール眼鏡じゃなくなってるし、あの二人って険悪な仲だったよね?)
知ってる世界と違う事に戸惑う中、攻略対象の中で変化がなかった騎士団長の弟ライオネル。
推しのルートに関係のある彼と交流していたら、イベントの仮面舞踏会で原作にない怪盗から予告状が届き、私の懐中時計が盗まれ──翌日、どういうわけか拘束された。
(何でこんな事になってるの?)
留置場で混乱していると、賢者様が事情聴取に来た。懐中時計のことを聞きに来たらしいけど、賢者様との会話で確信した。
「全ての原因はあんたか!」
私と同類だけど、原作を知らない賢者様が色々改変してくれていた。
騎士団長視点と思っていたのですが、何故か甥の話が膨らんでしまい、1000字以内には収まらないなとなったので、“ヒロイン”の話になりました。
ざまぁは多分、ありません。