其の捌 ~light of hope~
ひっそりと、しかし盛大に執り行われた家族二人でのパーティは、一時間半程度で終わりを迎えた。
「余ったケーキは冷やしておくから、好きに食べなさい」
「パパはもう食べないの?」
「あぁ、これはサーニャの為の物だ、気にせずにお食べ」
「はーい」
使った食器を片付け、プレゼントの魔導書を手に、
「パパ、大好きだよ!」
とびきりの笑顔を贈り、自室へ向かう。
さぁ、と。
部屋の明かりを点け、魔導書を開いていく。
どうやら、パパの選んでくれた入門書には感魔紙が付属しているようだった。
「これが、感魔紙……普通の紙との違いは見ただけじゃわからないな」
普通の紙より薄めの、あぶらとり紙のような質感だ。
「それじゃ、早速」
入門書を開き、手順に沿って進めていく。
魔力には大きく分けて二種類、自然エネルギーが基になっているものと、人間の気力を基に生成されるものがある。
自然エネルギーは季節や気候などにも影響されやすいが、世界に満ちている。
「昼に見た台所の魔石はこっちを使って動いてるんだったわね」
一方、人間が魔法を扱うために重要なのは、気力を魔力に変換すること。
自然エネルギーを取り込むことも可能ではあるが、変換効率が悪いうえ、四元素全てが体内に取り込まれるため、過剰に行うと暴走する恐れもある。
「つまり、体に合わない魔力は毒に成りうると……」
気力の変換効率は特訓次第で幾らでも伸ばすことができ、魔力保有量の底上げも可能。
しかし、気力の上限を上げることは困難に等しく、少なくなればなるほど身体に影響が出るため注意。
「基礎知識と注意事項はこんなとこかな」
感魔紙を右手に持ち、魔力を流してみる。
意識を鳩尾のあたりに集中する。
そこから右腕を通り、感魔紙へと流していくイメージで……。
「変化が、無い」
四元素の魔力に反応すれば燃える、濡れる、切れる、硬化の何れかの変化があるらしいのだが、何も起こらない。
稀に現れる二属性の場合は光るか暗くなるらしいが、これといって変化は見られなかった。
「本当に、私には才能が無かったのか……」
少し悲しくなる。
折角魔法のある世界に来たのだ、使ってみたいと思うのが厨二心だろう。
剣と魔法の両刀美少女なんて夢見すぎだったかな……。
ふらふらと立ち上がり、部屋の明かりを消す。
さっさと翌日を迎えて剣術の稽古に励もうと気持ちを切り替えたところで、違和感を感じる。
――部屋が薄ら明るい。
窓の外は日も落ちている。夕食後部屋に戻ってきたときはもっと暗かったはずだ。
光源を探して部屋中を見回していると……。
諦めきれないように握っていた感魔紙が淡く輝いていた――
「光、属性……?」
部屋が明るいうちはわからない程度の輝きが、確かに右手から漏れていた。
慌てて明かりを点け直し、魔導書を開く。
光の魔力を持つ者は付与魔法を得意とし、他属性の者よりもその効力が高くなる。
また、自然エネルギーと同様に四元素を含んでいるため、高い変換効率で吸収が可能である。
四元素の魔法を得意不得意なく扱うことが可能だが、適した魔力のみが使用されるため、それぞれに特化した魔力保有者には劣る。
「万能ではあるけど、器用貧乏って感じなのか」
だけど、付与魔法が得意なら、剣術と相性は抜群かもしれない! と、諦めかけていた希望を掴み直す。
「やったよ、サーニャ」
届くはずのない呼びかけを、しかしそれでも、日記へ向けて呟く。
「ん~! 重要な事実を知れたし、今日はこれくらいにして寝るか」
明日からは、魔法の特訓と剣術の稽古が始まる。
気力、体力ともに万全で向かうんだ。
そして、四ヶ月後を無事に乗り切ろう――
せっせと洋服からパジャマに着替え、床に就く。
「おやすみなさい……」
異世界での新たな人生が、ゆっくりと幕を開ける――