其の伍 ~gathering~
頬を薄く紅潮させながら、自室へと戻る。
「まずは、この世界の情報を集めないと……」
手に持っていたパジャマをベッドへと置き、羽織っていたタオルを椅子に掛ける。
「……ほんと、かわいいな」
視界に入った姿見越しに、自身の裸体をまじまじと見つめてしまう。
色白で華奢な四肢にまな板、イカ腹と見事な幼女体型。
ぷっくらと、小さいながらも確かな膨らみを胸に携えていて……
――はっと、視線を姿見から外す。
いかんいかん、思わず見惚れてしまった。
首を振り、甦らんとする疼きを先刻の記憶と共に彼方へと追いやる。
早足でクローゼットへと近づき、そそくさと下着、洋服を身に纏っていく。
水色を基調として白いフリフリなどが施されたデザイン。
「スカート、初めて履くな……」
何度初体験をすればいいのか、と今後のことに思いを馳せながら、机へと体を向ける。
「……始めようか」
ここまで、とても長かったような感覚。
よし、と気合をいれて机上から漁り始める。
女の子らしいかわいいイラストを書き溜めた落書き帳、数冊の絵本と共に積まれていたのは
「これ、日記だよな……?」
紙を追加して書くことができるバインダータイプの日記帳があった。
他人の日記を勝手に読むのは気が引けるが、家庭事情や生活圏内についての情報を知ることに関して、これ以上に適した資料はないだろう。
というか、体は同一なのだ。俺が私として読む分には何ら問題はないと言えよう。
「それじゃ、失礼して」
ページをめくり、読み進めていく。
他愛もない日常生活のことについては斜め読みして、気になるものだけを吟味していく。
書き始めたのは約三年前から、数日置きに書いているようだった。
十分程度で最後まで読み終わる。
分かった情報を纏めるとこんな感じだった。
一、ここはトラオム大陸の南西に位置するアルケムという小さな村であること。
二、私の名前は『サーニ=アルハヤート』、愛称としてサーニャと呼ばれている。家族は父と兄がいて、兄は出稼ぎに出ているらしい。
三、この世界は科学よりも魔法が発達しており、村の外には魔物が生息している。
四、この村の領主は不当に住民から搾取を続けている悪い奴。
五、大体半年置きの間隔で山の神様の祟りにより村の子供が一人消える。その家族は生贄として捧げられる。前回発生が約二ヶ月前。
「五番目の情報はちょっと厄介だな……。私も子供だから、四ヶ月後までに対策を練らないと……」
神の祟りに対策も何もあったものではないが、そこに人為的な原因があるかもしれない。
調査をしてみよう。
「そして、最後のこれが……」
昨晩の出来事についての日記。
パパと私の間で何があったのか――
パパは明日の誕生日プレゼントに魔導書をくれると言っていた。
魔術に興味が無いわけじゃないけど、今までに貰った魔導書は理解もできなかった……。
きっと私には才能が無いんだわ!
素直に喜べない自分が悔しい……。
明日なんて、来なければいいのに――
子供ならではの苦悩を垣間見た気がする。
自分は何だって出来る、何にだって成れるという希望の中、進みたい方向を見つけ、踏み出した途端に現実を突きつけられる。
しかしそれは、努力の仕方がわからない故に、想い描いた理想と現実のギャップに苛まれているだけのことが多いのだ。
「まだ私に、才能が無いと決まったわけじゃない」
十歳のサーニャには大きな壁も、倍以上生きて苦悩してきた俺になら乗り越えられるかもしれない。
「もし、本当に才能が無いなら、別の道を探せばいい」
日記の最後に、
『今は私に任せて!』と、書き足した。
「さぁ、特訓でもしてみようか」