其の肆 ~first experience~
家具類の殆どが木製であったが、浴室内も例外ではないようだった。
浴槽、桶、風呂椅子……木に囲まれた空間はぬくもりを感じるが、その実、記憶にある現代技術は見られない。
シャワーのような物はなく、昔の井戸にあった手漕ぎ式ポンプを小型化したようなレバーを動かすことでお湯が出てくる。
温度調節用の設備が見当たらない為、可能なのかは不明だが、少なくとも水を温めることはできるらしい。
桶に汲んだお湯で汚れた体を流しながら、感傷に浸る。
「なんで安堵してしまったんだ……」
あと少しで間に合ったというのに、と。
この歳になってお漏らしをしたという事実と、それに伴う羞恥心によって押し潰されそうになる。
幸いと言うべきは、決壊した瞬間に咄嗟の判断でトイレへと駆け込み、下を脱ぐという、自分でも驚くほどの瞬発力を発揮できたお陰で、被害はパンツで済んだのだった。
体育座りをして、膝を抱えた腕の中へ顔を埋めるように俯く。
悔やんでも悔やみきれないが、いくら後悔したところで過去が変わるわけではない。
「……情報収集と並行して、身体に慣れる特訓もしないと」
習うより慣れろ。
実際、誰だって成長過程で親から教わるわけでもなく、感覚として身に付ける訳だ。
二十三歳とか十歳とかは置いておいて、今日をスタートとしてあらゆることを学んでいこう。
新たな人生の幕を開けて行こう――
「へくちっ」
身震いする。お湯で流したとはいえ、浴槽で芯まで温まったわけではない。
「これ以上裸のまま居るわけにはいかないな」
最後にお湯をもう一浴びして、浴室を出る。
掛かっていた大き目のタオルで自身の体を拭いていく。
布地が全身を撫でていく感覚が、こそばゆく、ピクッ、ピクッと身を捩ってしまう。
が、我慢だ、がまんがまん……。
耐えようと思えば思うほど、逆に意識してしまうもので、身体の感覚がどんどんと鋭敏に変わっていく。
「いくらなんでも、んっ、この身体あっ、敏感すぎないか、んんっ!」
耐え切れずにタオルから手を放し、その場にしゃがみ込む。
はぁっ、はぁ……、と少し荒くなった呼吸を深呼吸で整える。
少しボーっとする頭へ新鮮な酸素を送り込み、正常な思考を取り戻す。
「落ち着こう、この欲情はサーニャの為にはならない。封印するんだ」
あのままいっていたら、俺はこの身体に何をしていたのか――
「……考えないようにしよう、うん」
残りの水分を拭き取り、パジャマを持って自室へと向かう。
それにしても、
「本当に、頭の中真っ白になるのかな……」