4.殺された僕の追われる状況
ストーカーになると言っても、これはれっきとした犯罪だ。
よくないことだ。
そう、だから、天ケ原ミカとは50m離れて歩くテンポを全く同じにしている。そうすることで足音に気付かれず一定の距離を保ち、もし見えなくなったら歩幅で距離を調整する。
なにせこちらは果物ネットかぶった状態だ。振り向かれたら一発でアウト。だからその可愛いくるぶしを見ながら歩く。
それに、これは犯罪ではない。たまたま、偶然にも、帰る方角が一緒なだけ。かれこれ3kmくらい歩いているが彼女がこの尾行に気付いていて僕の家へと向かっているはずがない。
だがさすがにもうおかしい、家の目の前に停まっている引越し業者のトラック、その陰にスッと消える彼女。慌てて追いかける僕。一方通行のはずなのに勢いよくトラックの陰から現れる乗用車。跳ねられる僕。
「で? 感動の再会はどうだった?」
白い世界の中で天ケ原ミカの声だけが響く。
腕を使って起き上がろうとするが、それが出来ない。金縛り? いや違う。腕がないんだ。体そのものがないんだ。そうだ、そして、この場所は自分のよく知っている場所だ。
そう思った瞬間、視界が広がって元の体が戻る。
自分はまた異世界に──いや、本来の世界に戻ってきてしまった。
「なんで……? 死んだのか? 自分は……?」
「親をけしかけて轢き殺した」
「はぁ!? なんで!? せっかく会えたのに!!」
「だってあなた間違った方法でこっちに来たじゃない!! そんなの私は望んでない!!」
ここは白い円形の台座。通称リスポーン地点。数々の魂が次第に体を具象化し、ふわふわと徘徊している。
「でも大丈夫、今度はちゃんと用意したから」
「用意って、……え、今、お前どこにいる?!?!」
天ケ原ミカの声は聞こえるのに魂がそこにない。
「階段から飛び降りた時、私のこと庇ってくれてほんと嬉しかったから、だから私もまたあなたを庇う」
「──おい、──おい!!!!」
もう返答はない。
そうだ、一度頭の中を整理しよう。
自分の名前は、井藤ヒロ……なんだったか、とにかく、前の名前はそうだった。
その前はなんだったか、遠、藤? いや違うな。まぁ、なんでもいい。とにかく天ケ原ミカとは夫婦だったんだ。そう、彼女は立派な人だった。功績を考えればそのまま天界で職を持っていてもおかしくないほどだ。
それがなぜまた日本なんかに居る?
なぜ自分を殺そうとした?
殺さなければならないりゆうがあった?
そうだ、自分は一度自殺したんだ。そして非合法な方法で転生したんだ。
チャリッ
ポケットの中から異物感がする。
これは転生までのいわば時計。それが0000とカウントが赤く光っている。
「いたぞ!!」「あそこだ!!」「包囲して捕まえろ!!」
──は? これが用意?!