3.ストーカーになったのは君のせいだから
階段の上から心中を計られてやっと思い出した。
あれはミカだ。
僕の運命の人で、元カノだ。
そして僕の無責任で傷つけた人であり、最悪なトラウマとなった元凶だ。
入学式の当日に起こった傷害事件は、あの時と同じく学校側でもみ消された。唯一の救いだったのは、今回は向こうの親の顔を見なくて済んだことくらいか。
とにもかくにも今の僕は頭の怪我のせいで果物のネットをかぶっている状態。
ここまで来るのにも散々笑われて教室という閉鎖空間でまた笑われるのか……いや、むしろ笑わせて授業妨害でもしてやろうか。
そんな事を考えながら教室に入ったが、意外にもクラスは冷静だ。
昨日の一部始終を見ていたらこの怪我も納得だし、むしろ死んでいてもおかしくなかった。それが次の日にはこうして登校しているのだから笑うのは失礼ってことか。
「で? なんで天ケ原さんが隣の席にいるの?」
「……」
「天ケ原さん……?」
席は一番前の窓際とその隣にある僕の席、なるほど、女の出席番号1番と男の出席番号1番ってことか。それにしても普通あんなことがあった場合、席替えしないか?
「ミカでいい」
「へ?」
「ミカでいい」
なんだかずいぶん見ないうちに外見はともかく、内面は酷くヒステリックになってしまったようだ。
「えっと、ミカ……さん? よ、よろしく」
「そうね、よろしく。短い間だけど仲良くしましょ」
その瞬間、天ケ原ミカと目が合った。
暗く、全てを吸い込んでしまうような瞳に僕は意識が飛びかけた。メガネは割れてしまったので奇しくも今日は高校デビューを狙って作ったコンタクトだ。その瞳の気迫が凄まじく、僕は力が抜けていきながらイスに座った。
気が付いた時には天ケ原ミカは前を向いていて、鞄から変なカバーのかかった本を取り出したかと思うと、それを黙々と読み始めた。
その横顔は本当に美しく、窓の隙間から入ってくるそよ風によって彼女の髪の毛の一本が鼻をかすめたかのようにあの安心する匂いが体をくすぐる。
中学時代は勉強に明け暮れていた僕も高校生男子だ。
彼女を独り占めしたい。彼女を僕のものにしたい。彼女の居場所を常に僕の隣にしたい。あれだけ体にも心にも傷を負ったのにも関わらず、彼女の得体の知れない魅力には敵わなかった。
そして僕は彼女のストーカーとなることに決めた。