2.運命の人がなんだか怖いです
あーあ、やっちまった……。
おもいっきり引っ張叩いてしまった……。
しかも、女子を。女子の頬を。
顔を真っ赤にして物言いたげな目で睨んでからのハグ。
当然、どよめく教室。
「きゃー♡」なんて誰が発したのか、クラス中の注目を一気に集めた。
そりゃそうだ、さっきまで言い争いの果てに手を上げた最低な男の胸元に女子が抱きついて泣いているんだ。わけがわからん。
「あー、えー……、ご、ごめん?」
あれか、僕のことが好きで突っかかってきたんだな、ハハハ……ツンデレツンデレ、こんなとびきり可愛い子がいきなり好きになってくれるだなんて、さすが高校生活。小・中とたいして良いこともなかった僕に、神様は初日からトバしてくれるぜ。
ギュッと抱きしめられ、頭をぐりぐり押し付けられるたびに壇上で不意にも見惚れてしまった細く長く陽に透けた髪がひらひらとなびき、視界が白く輝く。
ゴッという音は顔面を頭突きされた音か、それとも後ろに倒れた音か。
「ふふっ、メガネ壊れちゃった」
声にやたらエコーがかかって耳元で囁いているようにも聞こえる。
「あなたって、メガネ取るとカッコも付かないわねぇ。生まれた時に神様に何を願って生まれてきたの? 頭が悪いくせによく入学できたわね?」
誰が頭が悪いだって?
僕は、公立高校と言えど県内でも有数の高い偏差値を誇るこの葉桜高校で学年主席になるはずだったんだ。
そう、僕は今日まで新入生代表の言葉が自分の役目だと信じて疑わなかった。
入学試験で一、二個のうっかりミスを除けば満点。自己採点上だが、ほぼ満点を取った自分が学年主席で間違いない。
そしてとうとう迎えた入学式、『新入生代表の言葉』で司会役の教頭が「天ケ原ミカ」と呼ぶまで信じて疑わなかった。
青木も浅野も麻生もこの学校にいなかったんだ。そうだ、そうに違いない。
新入生代表の言葉は出席番号順なんだ、あぁ残念だ、僕の名前が伊藤ではなく阿藤だったらお前は壇上に登ることなどなかったし、言い争いになることもなかった。
だが、入学初日にクラスメイトにこれだけ派手に重症を負わせたんだ、いくら女だったとしても暴力事件として停学にでもされてしまえばいい。
それはそうと、体がズリズリと引きずられていく。
親切な人が保健室へ連れていこうとしてくれているのか、それにしても散々な高校生活の始まりだ。小・中とたいして良いこともなかった僕に対し、神様は初日からトバしてくれるぜ。
グッと強く抱きしめられ、同じ声で愛が囁かれる。
「……は? お前、何するつも……」
「落ちよ?」
宙に浮く体。
二人分の質量は地球の重力によって下へ下へと向かう。
もしかしたら地球の中心よりも遥か下に落ちているようにも思えた。
死ぬ瞬間は聴覚が最後まで残るというけれど、正にその通りだ。細い糸電話は最後まで地上に繋がっていて、
プツンと切れた。