《メロンソーダ製造機》
どうやら電車の中でうたた寝をしてしまったらしい。気が付いた時には乗客は数人。とんでもないところまで来てしまったらしい……。
隣に座っていたお姉ちゃん達と楽しくお喋りして、停車駅で手を振って別れて、そうだ、楽しい演技に疲れてそこから眠ってしまったんだ。
窓から差し込む光はもうオレンジ色。
ここは一体どこだ?
次の停車駅を調べる。ドアの上に貼られた路線図はまるで東京近郊のようだが全く違う。
埋め立てられた湾岸を南から東へ一本の曲線が通っていて、ポツリポツリと停車駅はあれど駅名はない。
そう言えば、この電車に乗った時も行き先表示や駅名看板はなかった気がする。そもそも最初は地下鉄かと思っていたが、今は普通に地上を走っている。外の風景が普通であるかどうかはさておき……。
しばらくして電車は止まり、ドアが開いた。
わずかに残っていた乗客もほとんどがここで降りた。皆、家路の途中なのか迷いもなくホームを降り、無人の改札を出て、それぞれ方々に分かれていく。
自分は帰り道もわからず、駅前の荒れ果てたロータリーにあるベンチに腰掛けた。
このロータリーで待っていれば、何かしらのバスは来るだろう。もしかしたら元居たところに少しでも戻れるかも知れない。
赤く干からびた地面に生気のない街路樹。ここがどういう場所で、あの電車に折り返し運転などないことはうすうす気が付いている。
突如、背後からシュゴーッとけたたましい機械音が鳴った。
埃のかぶった分電室だか制御室だかだと思っていたそれはどうやらメロンソーダ製造機だったらしい。毒々しい緑の液体がタンクに充満し、プクプクと泡を立てている。
そう言えば電車の中では無理矢理に喋っていたし、とにかくここから抜け出すにはどうしたら良いのか考えるためにも甘い物は必要だ。300円とはあまりにも足元を見られた価格だが、まあいい。
ポケットから財布を開くと所持金は600円。残り300円は心許ないが、交通費としてはそこそこだろう。
メロンソーダ機に100円硬貨を三枚入れると、またもシュゴーッとけたたましい音が鳴った。
緑色の液体がいくつもの管を通って炭酸水と混ざり合う。たかが色付きジュースにこんな大層な機械を作るくらいなら普通に自動販売機を設置してくれよと思う。
「馬鹿馬鹿しい……」
そうぼやいた瞬間だった。己の馬鹿さ加減に気付いたのは。
口に出して言うことは大切だ、己の状況を客観視できる。
「メロンソーダ“製造機” 一回300円」
「本機器を故意に破損した場合、その修繕費を請求します」
いくら待ってもメロンソーダなんて一滴も出て来やしない。製造機とは書いてあるが、それを販売するとは書いていない。むしゃくしゃして蹴り飛ばそうものなら損害金の請求だ。
この機械の中に入っているであろう人がクスクスと笑っているのが聞こえた気がした。
そう、ここはこういう場所なのだ。
もはやロータリーに入ってくるバスに興味はなくなった。近寄ってくるバスは「運賃600円」だ。
喉が渇いた。お腹が減った。バスは金のない者を乗せようとする気はない。
埃っぽいベンチに仰向けに寝そべる。
誰かなんとかしてくれ。
そう願った瞬間、誰かに手首を摑まれ──夢の中からグイッと引っ張り出された。