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プレイヤーのホームタウンとして位置づけられる《中立区域》


この街がどうして中立区域と呼ばれるかはこの《live》のゲームとしての方向性の位置づけによるものだった。

エリアボスを倒したギルドが未開地域の領土を得る

またはPvPで既に他ギルドに与えられた領土を簒奪する。

live内の領土の半分以上の領土を占有したギルドが挑戦できるクエスト

《世界統一》がこのゲームの最終目標であるグランドクエストだと知らされた。



「クソ・・・クソぉおおおおお!!!!」


中立区域外れの《はじまりの道》でイノシシ系の雑魚モンスター一匹に15分も涙ながら奮闘している男性プレイヤー

細身で黒髪、安っぽい革の装備を身に纏い、既に刃こぼれしかかっている短剣。

サービス開始から5時間も経っていないが既に《live史上最弱の男》の二つ名がついた僕、茜の姿があった。



「茜、ステータスが極端に低いことは仕方ない。どうせ初期値だ。ここから伸びるさ。」


「・・・固有スキルがないのに?」


「それは・・・」


普段とは一変して歯切れの悪さが目立つ秀

憐みの表情をこっちに向けないでくれ、秀だけにはそんな視線向けられたくない・・・


「そ、そうだパーティ組まないか?さっき教会で偶然仲良くなった他タイトルのフロントプレイヤーが組もうって誘ってくれたんだ・・・!!」

慌てながらも秀は僕を宥めるようにそう持ち掛けた。


「明日にはギルド開放クエストが実装されるらしいからうちのギルドに入ればいい!俺も茜がいてくれたら助かるしさ!」


その言葉の端々に憐みが満ちていた。

やめてくれ秀、それ以上は・・・


僕は現実世界でも何の取りえもない大学生だ。

熱中したものもない。ネットゲームでさえも秀につられてプレイして、秀が他のプレイヤーと仲良くなったら段々距離ができてプレイしなくなってしまう。

特技といえるものもない。小さい頃からずっと秀についていくだけの金魚の糞だ。


秀が主人公の世界。

その《モブ》として僕が存在する物語。


これが今までだった、そしてこれからもそうなのか。

《live》にどういう理由があるかは知らないが、奇怪な形での参加をした。

そこに僕が主人公の物語が始まるのではないという淡き期待は、執筆の筆にインクをつけただけの形で終わった。


現実世界での今日の昼間と同じように

僕を宥めるための言葉に詰まる秀を置いて、《はじまりの道》に向かって走り出した。



「うぐぅっ・・・!!!」

仮死状態からリンクしている為、痛覚がリアルだった。

そもそも現実世界でイノシシの突進や牙でのダメージなど現実世界では受けたことすらない為、想像していた以上の痛みに耐えきれず呻き声をあげる。

既に他プレイヤーは《はじまりの道》を抜け、第一区域アルファードを目指していた。

第一区域だけ適応されるルールがあり、まず《アルファード》のエリアボスを倒し、いずれかのギルドが占領しないと第二区域以降のエリアへは移動できないとされている。

第一区域が占領されると、他の区域が同時に全て開放される。

その為、スタートダッシュに乗り遅れまいと第一区域へプレイヤーがわんさか移動していったのである。


《live史上最弱の男》と呼ばれる僕は名前の通り、《はじまりの街》の雑魚モンスターに苦戦していた。

「イノシシ大量討伐クエストクリア・・・2時間30分か」

最初に経験値を稼ぐために受けた初級討伐クエスト。

一匹一匹出現するモンスターにかなりの時間をかけてしまったのはステータスの低さの問題だけではない。


「痛覚・・・これもまたペナルティだよな・・・」


痛覚が如実に再現されることによってイノシシという雑魚モンスターの攻撃さえ恐怖に感じてしまうのだ。

例え、HPゲージがそれほど削れない攻撃でも効率を無視して徹底的に回避してしまう。

また普段温厚な性格を心掛けているが、システムからの残酷なまでの待遇の差とリアルな痛覚によって冷静な判断ができない素の自分を曝け出してしまう。


通常の同レベルのプレイヤーの何倍もの時間を掛けてクリアしたクエストの報酬は苦労に見合うものではなかった。



「やってられないよ!!!・・・はぁ」


モンスターが再度リポップするかもしれないのにその場に仰向けになる。


「・・・ふふ」


何もかも上手くいかないせいで寧ろ笑いが堪えられない。


「ふは・・あははははっ・・・!!!」


端から見るとフィールドで寝転がって笑う不気味な光景

けれども僕の視界は笑うたびに溢れてくる涙で埋め尽くされた。

悔しい。今までの人生をひっくるめて悔しいという感情が溢れ出る。

この演算化された世界で努力が生まれついた才能に勝てないのならば。

きっと現実世界でも同じような結末を迎えるのだろう。

せめて、この世界で僕が《モブ》から《主人公》になれたのなら。

現実世界でも胸を張って生きられるのだろうか。


―全てを賭ける覚悟はあるの?


「あぁ・・・《モブ》でも輝けるって、《主人公》なんかに負けてられないってここで証明するんだ。」


まるで自問自答したかのような思考。

そんな中、オープンチャットに通常より長めの投稿があった。


『【固有スキル:英雄】のステータス上昇レートが半端じゃない!スキルも戦闘職最強!syuとかいうプレイヤーのキャラ性能がゲームバランスを崩しかねない!!

もはやチート級、現実世界ではどんなバラ色人生送ってきたんだろうなww』


秀、やはり君はこの世界の《主人公》なんだね。

例え友人でも、ずっと後ろから追っていた、だからこそ。


モブは秀《主人公》を超える!」


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